閑話 コーディ山田のバンザイアタック!!
聖別幼育園の廊下。元々少ない園児と教師で運営されているために、人通りは少ない。故に世間話等をしていると、知らぬ間に人が増える事がある。
今日はそんなお話。
色々あって考え事の多い日々を送っていた俺は、たまたま廊下でチロリ=ツンパカブリエルちゃんに出会った。
すれ違う際に挨拶をしつつ、両手を上げる。
すると、その手を捕まれて、少し怒った顔のチロリ=ツンパカブリエルちゃんに言葉を投げ掛けられた。
「ねぇ、コーディは何でいつも両手を上げているの?」
「ん……癖になってんだ。手を上げるの。御家の事情でね」
俺は少し目を鋭くした。
「何の御家よ、意味わかんない」
チロリちゃんはジト目でこちらを見ている。
「そう言えば不思議ですね。私と一緒の時はそんな癖は無かったように思うのですが……」
廊下で立ち聞きしていたケツワレール先生が会話に加わってきた。
「もしかして好きな女の子の所では手を上げるとか?」
ケツワレール先生は意地の悪そうな顔をしている。
「はぁ!? コーディが私の事が好きなわけ!?」
「いや、違う違う。近いけど違う」
廊下の2人は完全に足を止めて、胸の前で腕を組んだ。首も傾げて話を聞く気満々だ。
「じゃあ何なのよ」
「気になりますねぇ」
うーん。これは前世の癖だしな……日本の事を話す訳にはいかないし……。
そうだ!
「では、話すとしましょう。ある男の話を……」
「勿体ぶるわね」
「楽しみですな」
この世界の人は娯楽に飢えている。世間話はその娯楽の中でも最も代表的なものだ。
スマホもなければパソコンも無い。故に聞いた話をSNSに書き込む事もない。
前世人は情報を聞いた途端に俯いてネットの世界に入ってしまう。この世界の住人はそれを感情豊かに受け止めて、噛み締めるのだ。
「昔々、いや未来未来、ある所にとある男が住んでいました」
「何なのよ」
「未来未来と言うのは遠い未来の先ですかな?」
未来の話でもないが、まぁ未来の話と言えばそうだろう。
「……その男は鉄の箱の中に乗って、仕事に向かいました」
「棺かしら?」
「鉄の箱とは面妖な」
職場で死んだし……確かに棺だ。いや、霊柩車かな。
「その鉄の箱には沢山の人がぎゅうぎゅう詰めになっているので、みんなイライラしています」
「棺にぎゅうぎゅう詰め? イカれてるわ」
「箱の外を歩けば良いのに、不思議ですね」
歩いたら睡眠時間が0になるな。
「そこで、イライラが頂点に達した女の子が、男の手を掴んで、叫びました。痴漢ですぅー!」
「男は何したのかしら?」
「女の子だらけの鉄の箱なら入りたい気持ちもわかりますね」
女の子だらけの霊柩車は地獄だぞ。
「男は突然手を捕まれて、困惑しました。何もしていないのに、痴漢にされてしまう!」
「冤罪ね」
「痴漢とは、強姦魔ですな」
強姦魔と言うか、相手の意に反した性行為を行うものだ。スカートめくりも痴漢なのだよ。
「男は鉄の箱を下ろされて、神殿騎士に尋問を食らいました。お前が痴漢だな! ……と」
「神殿騎士も暇ね」
「クロスアーミー殿も暇でらっしゃる」
いや、死んだ目をして毎日何件も似たようなケースの痴漢……冤罪を含む痴漢を捌かされるのだ。暇なわけではない。
ご苦労様です。
「男はあの手この手で必死に痴漢でない事を説明しました。証言だけではなく、状況証拠を求めたり、シミュレーションを行ったり」
「そこまでするのね」
「私飽きてきました」
この世界とは人権意識が違うのだよ。
「そこで、女の証言に狂いが出てきました。当初は手で触ったと言われたのですが、私が鞄を持っていた筈の右手で尻を触ったと変化したのです。私はその変化を見逃しませんでした」
「私は?」
「作り話ですね」
おっと、地が出てしまった。
「失礼。私ではなく男は、その変化を見逃さず、畳み掛けました。女は鞄を通して尻を触っただの、エロそうな顔しているから実質痴漢だの喚き倒しました。それには神殿騎士も次第に呆れて……無罪放免の手打ちとなりました」
「妥当ね」
「コーディさんの額に汗が」
思い出したくもない記憶だからな。
「その時、神殿騎士のアドバイスで女性の側に居る時は両手を上げておいてくださいと言われたのです」
哀れ俺は死後もその呪いに縛られる。
「それで何でアンタがアドバイス受けたみたいになってんのよ」
「コーディさん、顔色悪いですぞ」
うるせえ!
「……と言う話の本を読んでついつい真似して癖になってしまったんだ。ハイパワー・ナグルス先生の話さ」
「ハイパワー・ナグルス先生の話は革新的だから……有りうるわね」
「センセーショナルな話題ですね」
困った時はハイパワー・ナグルス先生だな。様々だ。
「ちなみに職場の下読みの女の子に何気なく彼氏いるの? とか聞いたり、髪切った? とか聞いたのがセクハラだと言われて派遣会社のクレーム担当者から次は訴えるとか脅されたり、校正の女の子が2回続けて確認ミス出したから、それがお前の仕事だろと言ったらパワハラ認定されて、ブラック編集長に暫く校正の給料はお前が払えと恫喝されたりした話とか給料日に台風直撃してそのまま給料日も消滅した話も聞くかい?」
「いきなり早口になるのキモい」
「私は事なかれ主義なのでこれにて御免」
チロリちゃんは退屈そうに、ケツワレール先生は面倒そうに立ち去った。
残されたのは、古傷を抉られた俺と眠っているグローリアだけだった。




