第22話 西の森 露天鉱床
「それが蛇の実の木です。それが弟切草です。私達は今回武器防具の素材と昼ごはんの分の食べ物しか取りませんが、何が取れるかは覚えておいて下さい」
「はい、師匠」
俺達は時々目当ての採取をしつつ奥へと進んで行く。
――――春綿柯。春に綿が取れる草の茎。たんぽぽに似ている。たんぽぽの綿毛が硬質化して1本繊維になったような物で、綿花よりは品質は悪い。しかし、繁殖力が強いのと綿花の収穫時期と被らないと言う理由で、人々には色々と重宝されている。
――――たんぽぽ。そのまんまのたんぽぽ。草木染めに使う。
――――朝顔。そのまんまの朝顔。草木染めに使う。
――――偽茶花。これまたたんぽぽに似ている春から夏の草。葉の部分にタンニンが含まれているが、灰汁が強くて飲用に適さない。皮を鞣すのに使うが、繁殖力があまり強くないので数は取れない。
――――土鬼の死体。何に使うのか不明。絹とか綿の生地を血で染めるのかな?
うーん。ともあれ師匠はまず革製品と布製品の加工を教える気なんだな。何も言わないが意味は伝わってくると言うのは非常に良い。イメージとしては相撲の親方の様な……。
「ん?武器の素材は拾ってないぞ」
「良いところに気付きました。それは森の奥にしか有りませんので、森の15km地点までは歩いて貰いますよ」
「はい!」
決死行軍はお手の物だ。社畜を舐めてもらっては困る。
森の15km地点。そこは小高い丘になっており、中心が凹んでいる――いわゆるフジツボ型の露天鉱床となっている。
「グローリアさん、ここで何を取るか御存知ですか?」
「……鉄ですか?」
「そうです。当たりです」
「でも道具は何も持ってきてませんよ?」
「ヒントは道中拾ったものです」
道中拾ったものは……水包の核に土鬼の……死体?
「もう1つヒントです。魔物はどうやって発生するかは御存知ですか?」
「は……? いやまさか?」
何て事を……!
「気付きました?」
「いや、でもどうやって倒……その前に可能なの……か?」
「はい、可能です。では復習です。魔物が発生する場所の特徴は?」
「魔素の溜まる場所……主に窪地です」
「宜しい。ではこの土鬼の死体は土と何で出来てますか?」
「……魔素です」
「大当たりです。普段こう言う場所は定期的に聖水を撒いているのですが、先週当番でした私は撒いておりません。そして、鞄の中の土鬼の死体を窪地の中心にばら蒔きます」
うーん。グロイ。バラバラ死体。
「グローリアさんの持っている水包の核も、もし宜しければ頂ければと思います」
「はいどうぞ」
……。
「もう少し周囲の魔物を狩ってばら蒔きましょうか、グローリアさんも無理のない範囲でお願いしますね」
「は、はーい」
……と、その後2手に別れて30分ほど魔物を探し回った。
俺は水包2匹、師匠は水包4匹に土鬼3匹。各々で仕留めて、半径20m程の窪地となる露天鉱床の中心にばら蒔く。
うーん。グロイ。
「こんなモノで良いでしょう。
――覚めよ、
――冷めよ、
野外のスープ。
指は五本欠ける事なく影となれ。
――――呼闇」
師匠の詠唱で擂り鉢状に窪んでいる鉱床の中心に闇が立ち込める。
ゴクリ。喉を鳴らす音が響く。
「これで、ほっておけば鉄人形が発生するかもしれない環境が整いました。いつ発生するかは分かりませんが、あと2時間くらいは待ちましょうか」
「鉄人形ってそれだけ聞くと強そうなんですけど……」
「倒す方法は投石で十分です。生まれたてホヤホヤの魔物は弱いのです。全身が鉄と言う訳ではないので、投石でどうにかなります」
“……私は広く浅く、多くの方々に師事しました。故に広く浅く、多くの技術を得る事が出来ております……”
師匠の言葉を思い出す。
いやいや、こんな方法を何処で習ったんだよ師匠。下手したらテロリストだろこれ?
「……もし、お暇でしたらお1人で散策されてみてはどうですか?」
「あ、ああ。分かりました。少し狩人の五感を鍛えてきます」
……確かに「暗闇」+「魔素」+「窪地」のこの足し算で人工的に魔物が作れるなら……。仮に20人位で近所の土鬼を絶滅するくらい狩ってばら蒔けば……。人工的に強力な魔物を作る事が可能か。
これを利用して出来る事は……、強力な魔物を召喚して倒してその素材を得たり、その魔物を敵陣に放って敵を襲わせる……。これで、帝国と戦う場合は勝率は上がるか……?
まてよ、この近くに帝国軍の拠点があるとか言ってなかったか?
ここで魔物を召喚して襲わせる……。
それが出来たらどうなる?
……。
「大分お悩みの様ですね。グローリアさん」
ウギくッ!
「わ、師匠驚かさないで下さいよ!」
「そろそろ生まれそうです。見てみますか?」
「見ますッ!」
俺は丘を駆け上がった。




