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“偽天使転生”~社畜編集者の異世界成り上がり録~  作者: 林集一
聖の章 前編 聖別幼育園へようこそ!
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第16話 労働の対価は銅貨

「楽しいねー!グローリアちゃん」

「楽しいねチロリ=ツンパカブリエルちゃん」



 俺は小高い丘の上から辺りを見渡す。西には首都ロンドヴルーム、東の方はるか遠くには森が見える以外は特に代わり映えのしない草原が広がっていた。草原には所々に40cmほどの茂みや、1m程の灌木が2~3m置きに点在している様子が見てとれる。


 所々に牡丹の花も咲いているようだ。


 俺達はあまり丘から離れない様に歩いて、その灌木の周りを探る。すると幾つかの木の下には折れた枝が幾らか落ちている。それを拾って歩くマシーンとは俺とチロリ=ツンパカブリエルちゃんと言う訳よ。


「薪見ーつけ!」

「楽しいねーグローリアちゃん」


 馬鹿みたいに小さい枝を沢山拾う。……大きい枝はきっと採集されているのだろう。見渡す限りに於いてはない。


 しかし、それでも人生初の収穫だ。楽しくない訳がない。


 1枝、2枝、火を着けたら5分で燃え尽きそうな小枝を沢山採集する。……あっという間に鞄一杯の薪が集まった。


「そろそろ一旦帰るー?」

「そうだねー、グローリアちゃんー」


 と、丘から10m程は離れてしまったか、辺りを見渡しつつ丘へ向かうと……。


 ん?なんか視線を感じる。


 ……茂みの影の暗がりに、普段見る事がなかった、違和感を感じる水溜まりがあった。


 もしかして……!


「チロリ=ツンパカブリエルちゃん……もしかしてあれは……」

「そうだよー、水包(スライム)だねー」


 水包(スライム)――。水が魔素を帯びて自然発生する魔物。薄い皮膜に覆われたアロエの様な肉質の体を持つ。身体は半透明の水色で中心に核を持つ。大して強くもないが、体表の穴から酸性の体液を飛ばして来るので注意が必要。色が濁っていたり、水色以外の色をしている場合は要注意。大きさは千差万別。


 だったかな? 俺は前世で知り得た『設定集』の情報を頭の中で再生する。


 俺はチロリ=ツンパカブリエルちゃんが水包(スライム)を知っている事に少し違和感を覚えるも、水属性の天使だから知っていてもおかしくないのかとセルフで納得した。


「どうしよっかー? グローリアちゃんー」

「い……石を投げてみようか」


 俺は前世のフォーム――自然な感じのスリークォーターで手頃な石をスライダー回転を掛けつつ投擲する。


 石は回転が掛かっている為に、水包(スライム)に弾かれる結果とはなったが、表面が破れて体液の様なモノが滲んでいるのが分かる。投擲により此方の存在に気付かれたのだが、少し速い蝸牛程度の速度でしか移動出来ない水包(スライム)に追い付かれる事もない。


 俺は11球中8ストライク3ボールで水包(スライム)を完封した。具体的には、水包(スライム)のアロエ質の身体を、石の鋭利な部分を使って削り取る様に回転を掛けた球を投げ続けて、動けない程に穴だらけにしたのだ。


 そうする事によって打撃に滅法強い水包(スライム)にも斬属性のダメージを与えられる。うーん、俺ってば天才。これは知識チート? ……って程でもないな。


 水包(スライム)の体液は薬になるそうだが、水包(スライム)はボロボロで採取する状態でもないし、採取する容器もないので諦めた。しかし、核だけはと思い、石でほじくり出して取り出した。


 陽は高く登っていた。


 空は吸い込まれる程に広く大きい。牡丹の花が空に吸われる事も有るのだろうか? 気分は詩人か俳人か。


「そろそろ帰ろっか」

「そうだね、チロリ=ツンパカブリエルちゃん」


 目的をすべて達成した俺達は、行儀悪くもパンをかじりながら街へと帰還した。


「極秘任務」と銘打って外出しているので門番さん達には特に何も咎められる事はなかったが、チロリ=ツンパカブリエルちゃんの鞄は不自然な程に小枝の様なモノでパンパンだった為に、バレてるんじゃないかと心配になった。――うん。バレてるね。不意に大人の感覚に戻った俺は門番さん達の優しさに感謝しつつ工房のある西の方へと向かった。


「まきやー、まきだけー」


「薪屋さん薪屋さん、この枝って薪屋さんに売れますか?」


 俺達は薪屋に小枝の沢山入った袋を開いて見せる。案の定、薪屋さんからは苦笑が漏れる。そこで、チロリ=ツンパカブリエルちゃんとグローリアのW天使スマイルが火を吹く。


「おじちゃん、これ……買ってくれる?」


 スマイルにやられて、みるみるうちに頬まで溶けた薪屋さんは俺達に銅貨2枚を渡して、薪と言う名の小枝を引き取っていった。


 皆さん、水包(スライム)の体液が掛かるとこんな感じに顔が爛れます。ご注意を。


「ごちゅーいを!」


「?」


 不意に漏れるグローリアの呟きに戸惑うチロリ=ツンパカブリエルちゃんに銅貨を1枚渡して、俺達は解散した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 さて、これからどうするか。


 この銅貨、所謂(いわゆる)100Gは、実は大した価値ではない。銅を鋳潰して作るからには価値はありそうだが、この小指の爪サイズの銅貨は大体昼に食べたパン2つ分ほどの価値なのだ。


 そして、もう1つの戦利品の水包(スライム)の核だが、売るのならば50G位になるとか聞いた事がある。しかし、売るくらいなら魔法の触媒として使った方が良さそうだ。これは触媒に使えると俺の中の知識が言っている。


「しょくばいー?」


 ああ、グローリアは知らないのか。……えーっと、まず魔法はMPを使って程々な奇跡を起こす。それはわかるな?


「わかるー」


 でも、グローリアの身体の中のある光の粒は幾つある?


「いちにーさんしーごー……12かな?」


 素晴らしい。正解!


 この粒々を使って魔法を発動させるんだが……水癒(ヒール)は幾つ位必要だと思う?


(10くらいー?)


 惜しい、実は20以上は必要なんだ。


(じゃあ使えないねー)


 そうなんだ。だから、この水包(スライム)の核に……溜める。


(???)


 水包(スライム)の核は魔物の素材だからMPと相性が良い。こうやってMPを込めると、少しの間なら溜めておけるんだ。そうすれば、いざと言う時にMPとして取り出して魔法を使えるんだ。


(すごいねー!)


 でも、取り出すと壊れるから1回しか使えないんだ。取り敢えず、0になるまでMPを使うと(だる)くなるから、MPを10だけ水包(スライム)の核に溜めておこう。


 あと、魔法はMPを先払いして頭の中にストックする事も出来るから、いざと言う時のために溜めておくのが良い魔法使いの条件だよ、グローリア。


(はーい)


 俺は脳の中の会話を切って、前を見ると……職人街の端の端、西の門から深刻な顔をして帰ってくるクロスアーミー・グロースター先生とハイパワー・ナグルス先生を見掛けた。






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