第12話 弟子入り
俺はYOROZU修理店の暖簾を潜る。
店の中は整頓されている印象を受ける。
「すいませーん」
「おお、聖別幼育園の子ですね」
おっ、話が通っていると言う事か。
「聖別幼育園から職場体験の見学に来ました! もし宜しければお店の中を見せて貰って良いですか?」
「構いませんよ。ささ、どうぞ」
案内された店の手前側には木の板で作られた2段の販売棚があり、1段目には麻布や絹の1枚布に服やズボン、2段目には革の靴や革のベルトなどが所狭しと並んでいた。
「武器や防具を見せていただけませんか?」
「良いですよ。ですがこの店の質はあまり良いものとは言えませんが宜しいですか?」
それ言っちゃうんだ。
「正直ですね」
「はい。私は元々他の大陸の大きな武具問屋のでっちをしておりまして、どちらかと言いますと店先に立ちまして受付をする事が多かったのでございます。それから、職人さんに回す迄もない補修を受け持つようになり、一通りの鍛治職人や研師、武器職人、防具職人、被服職人の仕事を少しづつ見せて貰っていたので、補修に関してはそこそこの腕はあるかと思います。ですが、本職ではないので作る方はからきしなのです」
「成る程」
「信仰の形で此方に移住してから、技術を活かせる職場を探したのですが、この街は武器の需要が少ないので、自身で店を持つ事にしたのです。売り物は他店から仕入れた普通の品と、私の作った廉価品の武器防具があります」
ほう、廉価品が……。
「ほうれんかひんがー」
「お客様からは、此処に来れば一通りの武器防具が揃うと言われておりますが、一流のお店は他に有りますので、そこまでお勧めはしません」
3歩程踏み出して、店の奥を見渡すと鱗製品、金属製品、木製品の武器防具が綺麗に整頓されている。
成る程……。広く浅く、そしてメインは修理とな。専門で売っている大手に挟まれてはいるが、痒いところに手が届く工房と言う訳か。良いな。
「ここは弟子を取りますか?」
「私は元々何かを極めた人間ではありません。どの技術もその辺の職人さんのお弟子さんに毛が生えた程度の技術しかありませんので、よっぽどの場合でなければ、弟子は取らないでしょう。何か気になる事でも?」
グローリア……俺はここに弟子入りしたいが、どうだ?
(いーよ!)
そうか、ありがとうグローリア。
「いや、是非とも職場体験と言う形ではありますが、弟子入りしたくてですね。宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。ここは開店休業なくらいお客さんが来ませんので、技術をお伝えする時間はたっぷりあるかと思います」
「ありがとうございます!」
「では、先ず春蚕から糸を紡ぐ所から始めましょうか」
「へ?」
「ですから、春蚕の蚕がそろそろ白い繭になっておりますので、これを集めて糸を紡ぎたいと思います。この工房の裏の蚕屋に蚕が居りますから、この籠に入れられるだけ入れてきて下さい」
「は……はい!」
店舗兼工房で8畳程の大きさと言う狭い工房を裏口から出ると、4畳程のスペースがあり、2畳程の畑と2畳程の物置小屋があった。その物置の扉を開けると、中が4段になっており、蚕がウジャウジャと桑の葉を食べていた。白くなっている繭が転がっている小分けされた籠もあり、その中から大きい順に100個位手で取って戻った。
「では、蚕を煮ます。この銅貨で薪を買ってきて下さい」
「はい!」
俺は渡された銅貨を握り締めると店舗を小走りで飛び出した。
えーっと、薪……薪……。これ、街の外で拾ってきたら駄目だよな。
「まきやーまきだけー」
おお! グッドタイミング!
「すいません! 薪を下さい」
俺は低速で歩いている薪屋の前に滑り込んだ。
「おや? 君は聖別幼育園の職場体験かい? いやぁ、それなら少しおまけしておこう」
ふふん。グローリアは可愛いからな。
薪は俺の腕くらいの太さの薪5つと端材少々で銅貨1枚だった。
「ありがとうー!」
しかし、薪を買うのに銅貨か……。逆に言えば薪を拾ってくれば売れる……? 薪……になるような木は街の外に行かないと無いか。
街の外に出るには……。取り敢えず衛兵を何とかしないといけないな。そしてやはり、魔法は必要か……。魔物とか居るもんな。
確かケツワレール先生が使ってた魔物避けの魔法があったな。アレがあれば街の外でも安全に動き回れるか。
まぁ、出来るならば習得しても良いかもな。
俺は駆け足で工房に戻った。
「早かったですね」
「丁度薪売りが通り掛かったのです」
「では次に井戸から水を汲んできて鍋にお湯を沸かして下さい。火はつけられますか?」
「やってみます」
しかし、実践主義と言うか弟子使い荒いな。録に説明も無しに作業だけフルで行うか……。うん。良いな。これでこそ社畜の本懐。みなぎってきた。
水を汲みに行く最中に八百屋で客引きとして働くチロリ=ツンパカブリエルちゃんを見掛けた。向こうもスンゴイ楽しそう。客も目が潰れるくらい笑顔になってる。ありゃ幸せの壷だって売れるな。俺も買いそうだ。はぁ、可愛い。
……俺は1番近い井戸から水を汲んできてお湯を沸かす。湯が沸いたら温度を調整して、師匠の指示の下で蚕をイン。ドバドバ。そして糸の端っこを取って糸を巻く奴でぐるぐるぐる……。
そこのおにいさーん! 福引きやっていきません?
ぐるぐるぐる……。 これ楽しいな……!
その後、謎の粉を湯に投入して巻き取った糸を煮たり、乾かしたりした。それから、小屋に残る蚕に庭木の桑からエサやりをしたり……、乾燥させる繭の選別なんかを行った。
……と言う事で食事を挟みながらフルで8時間位働いてから帰った。
いやぁ、労働は良い。4歳とはいえ中身はバキバキに鍛えられた社畜。結構まともに働けたのではないかと思う。
明日は日曜日。再びやって来た社畜生活……楽しみだ。




