第96話 決戦! 土鬼女王……?
峡谷の奥の方へ行くと、魔法兵による火玉弾の一斉射撃を見る事が出来た。詠唱を抑えての2連射……か ?……1発目と2発目の間隔が30秒もある。やっぱりグルグル魔法兵みたいにポンポンと撃って弾幕を作る迄にはいかないか。
グルグル魔法兵とうちの魔法兵を比べると同じ火玉弾の斉射でも、小学生の雪合戦と時速80キロのバッティングマシーンにボールを連続投入する位違う。更に言えばうちの魔法兵はそのスピードでいて全弾2発しか撃てない。MPを保存出来る水包の核を複数まとめたMPストッカーとかを使わなければこれで終わりだ。悲しい。
そして、オマケの火矢を放った。敵を倒すと言うより、前衛の隊列を整える間、少しでも敵の戦意を挫くための攻撃だ。
9人×2発の火玉弾と1発の火矢と言うちょっとした打ち上げ花火に敵は多少の混乱も見せる。
そして、隊列を整えた前衛が前に出て敵に打撃を与えていく。敵には黒い土鬼がちらほらと混ざり始めてきた。黒い土鬼には十人隊長か兵士2~3人がかりで戦っている。結構上手くいっている様な印象を持てる戦いだ。こないだの黒い土鬼との初対面を考えると悪くはない。この短い期間でかなりの進歩だ。
――――居ないとは思う。だが仮に金色の土鬼が居たとしても、キングコブラの天蓋の盾を使って、ルルーシュインと天蓋防御魔法を放つ事になっている。更に言えば金色の土鬼のビームは溜めが長いので、ルルーシュインならばそれを撃つ前に倒す事も出来る。問題はない。
問題はない。……大丈夫な筈だ。
だが、何か不安も感じる。これ迄の経験から上手く行き過ぎる事なんて無い筈だ。何となくそう思う。
……そして、俺達は峡谷の最深部まで到達する事なく、敵の土鬼達を全滅に追いやった。結局黒い土鬼は僅かに20匹程居るのみだった。途中長槍兵が間合いに入られて、腕や顔を切り裂かれて5人程リタイヤしたが、せむしのセム君のタックル&重装兵の止めアシストによって難を逃れた。だが、せむしのセム君は「少し腰が痛いでゲス」何て言ってる。帰ったら湿布かなんか買ってやろう。グルグルのツケで。
◇ ◇ ◇ ◇
これ迄は横で見ているだけで、MPを満タンに維持してきたキングコブラとルルーシュインが2人、奥へ向かう準備をしている。
キュアスパルタカスや複数の兵士が、残るMPを使って浮遊蝋燭を彼等に向かって唱える。彼等の周りには無数の浮遊蝋燭が浮いており、さながら生ける幽鬼……と言う程でもないか。
それから、こないだルルーシュインが部下に教えていた隣光も使っており、周辺の壁はうっすらと発光してかなり明るくなった。
2人を先頭にして進んでいくと、峡谷の行き止まり地点に普通の土鬼の10倍程の大きさのある土鬼女王を発見した。その姿は野外にある風船のエア遊具の上に女性タイプの上半身が乗っているようなものだった。
その下には、新しく産まれた土鬼が数匹、たむろしているようにも見える。
そんな中、ピシリと空気が張り詰めた。
ピリピリ……ピリ……カシャン
張り詰めた空気がガラスのように割れる音がした。
――カツーン、カツーン。
峡谷に1人の足音とガサガサとした土鬼の足音が響き渡る。
土鬼女王の背後から1人の人影と数匹の土鬼が現れる。男は白い軍服を纏った恐らく20代前半の男性で、髪は銀色のようにも見える。身長は高く190cm程はある様に見える。足元には青白い土鬼が1匹と、金色の土鬼が2匹が居り、男に付き従っている様にも見える。
彼は社畜隊の中から俺の顔を見付けると、笑顔で話しかけてきた。
「やぁ、こんにちは! 君達が社畜隊で君がコーディ山田君だね? 待ってたよ!」
「お前は……?」
「俺? 俺は……そうだな。俺は謎の銀髪青年エックス……とでもしておこうか。一応千人隊長クラスの武力はあるつもりなので、無闇矢鱈に襲い掛からない様に!」
ズビシィ! と効果音が響き渡る。謎の銀髪青年エックスは人差し指を突き出してポーズを決めた。
確かに奴の言う事は真実な様だ。元二百人隊長のルルーシュインと元百人隊長のキングコブラがジリジリと後退している。
「ところで質問だけれども、コーディ山田君。君は順調に試練を乗り越えているかい? それとも怠惰の道を突き進んでいるかい?」
「……何を言っているのか分からねーが、俺自身は怠惰の道に進みたくとも、進みたくもない修羅の道を進まされているぞ」
「ハハッ、そうかぁ。じゃあ君が一番盗り易いかなぁ……。うんうん、良いよコーディ山田君」
「何の話だ?」
「いやぁ、こっちの話だよ。殺すなら神殿長エナよりも君の方が楽な気がしてね。俺としては君の“羊皮紙本”が欲しいんだ。それがあれば俺だって主人公になれるんだ」
「主人公……? “羊皮紙本”? 何の話だ?」
「それはいずれ分かるさ。今分かって欲しいのは……俺は君を殺したくって仕方がないって事だけ。あ、直接殺したりはしないよ。どうしても間接的に……そう! 君から死にに行って貰わないといけないんでね」
ズビシィ! 再び人差し指が突き出される。
何なんだこいつは。
「と言う訳で君に1つ、手頃な試練を与えよう。15日後、交易都市ゲソルの王宮前に来て欲しい。そこで素敵な事が起こるだろう。それは俺からのプレゼントさ」
「何故そんなに回りくどい事を……試練?」
「そう、試練。神は“乗り越えられない試練は与えない”らしいよ? せいぜい頑張ってね」
そう言い残すと、謎の銀髪青年エックスは青白い土鬼を抱えて絶壁を三角飛びで登っていった。残された金色の土鬼はあの極太のビームを放つべく甲高い音を響かせている。
ズバー
それを逃すルルーシュインでもない。金色の土鬼は一撃で胴体を切り裂かれた。その真上にはキングコブラが飛び上がって土鬼女王の首をはねていた。
その隙に……と言う迄もなく既に謎の銀髪青年エックスの姿は見えなくなっていた。
「女王は特別強いと言う訳でもないって本当だな。ポールダンサーでも連れてきて止めを譲ってやっても良かったな」
キングコブラが軽口を叩きながら土鬼女王の巨体を斬り刻んだ。すると社畜隊から笑い声が上がる。
「違いねぇ、ポールダンサーは高いところに登るのが得意だからな」
「げへへへへ!」
「違ェねぇ!」
張り詰めていた空気が緩んで、いつもの社畜隊と言った様子に戻った。
だが、キングコブラの手も、ルルーシュインの手も何かに怯えるようにして震えているのを俺は見逃さなかった。後ろから手を伸ばして俺を抱くパットミちゃんの手も、今回は俺を勇気付ける為ではなくただ怯えている様にも感じられた。




