皇太子ロサーリオの旅立ち
わーにんぐ~!
この話は主人公の知らない情報で三人称視点となります。もし、一人称視点に拘って読みたい方は読まなくても大丈夫です。ですが、読んでおくと少しだけ先の展開が予想出来る様になります。
――コーディ山田がロンドヴルーム西の砦から都市国家郡に旅に出る2週間前――
赤人の帝国にて。
◇ ◇ ◇ ◇
「神は己に超えられぬ試練は与えない……と述べたそうだ。知っているか?」
玉座に君臨する初老の男は下座に控える顎髭の長い男に質問をした。
「存じております。我らが『真なる聖書』に記されております故……。皇帝陛下」
下座に控える顎髭の長い男はそれに答えた。
「だそうだ、お前はその試練は乗り越えられたのか?」
最も高い所に座る皇帝より、下に跪く男に話が振られる。それを受けているのはロサーリオだった。
「……乗り越えて、此方に」
皇帝は頬杖を突きながら細い目でロサーリオを睨み付ける。その鋭い眼光に、何処かロサーリオの防御力が下がった。
「……そうか。ではお前を正式に皇位継承権1位……皇太子として認めよう」
ロサーリオは、父親である皇帝の不機嫌そうな言葉に対して一切の感情を表す事なく淡々と返事を返していく。
「有り難き幸せ」
「お前に3つ、力を与える。好きな物を選ぶと良い」
「……では、国宝である聖剣ロンギヌスと弟のグレイヴ・カリフ=バグダード、それから叔父のクロスアーミー卿を頂きたい」
「ほう、グレイヴとクロスアーミーを……」
「彼等が居れば私は無敵。故に、無理を承知で賜りたい」
「聖剣ロンギヌスとグレイヴは好きにするが良い。だが、クロスアーミーばかりは余にもどうしようもない。死んだ人間の話をしても仕方有るまい」
「では、仮に生きていたとしたら、頂く事とします。皇帝陛下」
「……構わん」
「有り難き幸せ」
「……それとは別に仕事を与えよう。詳しくは改めて伝える。……もう下がれ」
◇ ◇ ◇ ◇
「ロンギヌスの切れ味は如何ですか? 殿下」
顎髭の男は城の庭で剣を振り回すロサーリオに話し掛けた。
「良いですね。これなら天使共はともかく、新たな預言者すらも斬れるでしょう。ですが、それ以外の斬れ味はイマイチですね」
「でしたら、我が宿敵神殿長エナも良く斬れる事でしょう。奴も普通の武器ではそう簡単には死なないでしょうから」
「我が祖父を貫いた聖剣を以って我が一族の敵を誅す――か」
ロサーリオは聖剣ロンギヌスの刃に指を置く……とシュウと言う音と共に指先が焦げる。
「早くあの女狐を殺してクロスアーミー様をお救い下さいませ、偽りの歴史を広める異教徒共に我らが神の真実の教えを教え伝えられるのはロサーリオ様だけにございます」
「はは、皇帝陛下に聞かれれば家族の首だけでは足りないぞ。サイード千人隊長」
「これは口が滑りました」
サイードと呼ばれた千人隊長とロサーリオは笑い合う。
「私は今より陸路でロンドヴルーム脇を通って……都市国家郡へ向かう。森林国家アイヌ、魔法都市グルグル、鉱山都市ユミル、城塞都市ミデンだな。帰りは貿易都市クーロンより船便で帰る。森林国家アイヌへは不戦条約の締結、魔法都市グルグルには宮殿魔導具の発注、鉱山都市ユミルにはオリハルコンとミスリルの独占販売契約の締結、城塞都市ミデンへは軍事同盟の締結だ」
「実にお忙しい旅ですな」
「全くだ、だが楽しみでもある」
「同行人は……誰をお選びに?」
「皇帝陛下が例の“4歳児”と弟のグレイヴを連れていけと言うが……何を考えて居るやら」
「即日脱走でしょうな。どちらも人の言う事を聞くお方ではない故」
「……だろうな。つまりは必然的に1人旅になるだろう。グレイヴに“例の4歳児”……問題を起こさなければ良いのだが……」
「それは難しいかと」
ロサーリオは城の尖塔を見上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
「グレイヴ・カリフ=バグダード様。御兄様の嘆願にて恩赦で御座います」
ロサーリオが尖塔を眺めるのと同時刻、その尖塔の最上階にある牢と呼ぶには些か豪華な部屋の真ん中に銀色長髪中分けの男が本を広げて座っていた。その身長は2m程、長い手足に纏う衣服は白の軍服。看守を優しく睨むその顔は20代の若さがあり、眉間で交差するX字傷があった。
「なぁ、この“真なる聖書”って、何処までが真実だと思う?」
グレイヴ・カリフ=バグダードは読んでいた本の表紙を看守に見せて看守に問う。
「……はっ? 全てが真実かと思いますが……」
「うーん、“神は己に越えられない試練は与えない”とあるが、その“己”は誰の事を指すと思う?」
「それは……自分自身でしょうか?」
「それはハズレ。証明してやろう」
グレイヴ・カリフ=バグダードは看守へ向かって歩き出す。
「答えは“羊皮紙本”を持つ者だよ。誰もがそうと言う訳じゃない。……でなければ君も“今俺が出すこの試練”を乗り越えられる筈だろう?」
「は?」
グレイヴ・カリフ=バグダードはぽんと看守の肩に手を置いた。そして、するりとスライドさせて首を掴み、そのまま捻ぢ切った。
「物語の主人公になるにも資格が必要なのさ」
グレイヴ・カリフ=バグダードは捻ぢ切った看守の首を弄び、純白の軍服を汚しながら悠々と尖塔の階段を降りて出口へと向かった。
塔の出口では可愛らしい4歳児が小石を蹴って遊んでいた。階段を降りて来るグレイヴ・カリフ=バグダードに気付くと笑顔で挨拶をした。
「あ! グレイヴさんこんにちは!」
「おう! これはこれはルーシィ君。出迎えかい?」
「そうだよ! 皇帝陛下がグレイヴ君と一緒に遊びに行って良いんだって!」
「そうか、皇帝陛下は俺達に何処行けって言ったんだい?」
「都市国家郡だよ! 楽しみだね!」
「都市国家郡か……これは占領して俺の国を作っても良いって事か?」
「んー、分かんない。でも遊ぼう!」
「そうだな、遊ぼうか……ハハッ。楽しみだなぁ……」
◇ ◇ ◇ ◇
この2人が先に旅立った事をロサーリオが知るのは翌日となる。ロサーリオは諦めたように己の旅を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
・皇帝陛下
・グレイヴ・カリフ=バグダード
・サイード千人隊長
・謎の4歳児“ルーシィ”
複数の新キャラ出しました。
……覚えにくかったらごめんなさい。




