第10話 燃えよグローリア! 濡れよツンパカブリエル!
「おはよー! チロリ=ツンパカブリエルちゃーん!」
「おはよぉー! グローリアちゃん!」
うむ、今日も騒がしい声に癒される。
子供特有のドタドタとした足音に朝の喧騒、善きかな善きかな。
「昨日はよく眠れたかい?」
突然現れた気配が背中に生暖かい掌を乗せる。
一瞬で身体中の鳥肌が立った。
「そう緊張しなくても良いじゃないか……今日から坊やの担当だからな。宜しく頼むぜ、コーディ……おっと、グローリアちゃん」
そう言い残すとスタスタと足跡を立ててクロスアーミー先生は廊下を進んでいった。
こりゃ、気配を消す技術や魔法を覚えている可能性もあるな。全く油断ならん奴だ。
「わー、グローリアちゃん汗びっしょりー! あとコーディってなーにー? 昨日もハイパワー・ナグルス先生に言われてたよねー?」
「もしかしてその事をクロスアーミー先生に言った?」
「言ったよー」
昨日の事はチロリ=ツンパカブリエルちゃんが犯人だったか。まぁ、それならまだ俺が転生人って事はバレてないか。天使じゃないってバレたら私兵にでもされそうだからな。危ない危ない……。
「グローリアちゃん変なのー」
うーん。チロリ=ツンパカブリエルちゃんは素直で良い子なんだが、いかんせん4才だから信用する仲間とまでは言えないんだよな……。
チロリ=ツンパカブリエルちゃんの中に居るのは水の天使らしい。属性は水らしく、青いロングヘアーは流れる様にサラサラだ。整った目鼻立ちに少しふくよかな身体は並のロリコンなら一撃でノックアウトだろう。一撃で伸されないのは訓練されたロリコンだ。
因みに俺はロリコンじゃないから無反応だぞ。お風呂はみんな一緒に入るが、無反応だからな?そこん所は勘違いしないように!
「かんちがいしにゃーよーに!」
「そろそろ先生来るよー」
ガラリ、と引き戸が引かれてお遊戯室に鎖帷子を始めとする武装を身に着けたクロスアーミー先生が入ってきた。
何故朝から武装してるんだ? バカなの? 死ぬの?
「気を付けピッ!」
園児達は一斉に立ち上がり気を付け状態となる。
「せんせー! おーはーよーう、ごーざーいーます!」
「「「おはようございます!」」」
クロスアーミー先生は自身の顔の前に向かわせた右手の革手袋に目線を向けてギチギチと握り、不快な音を出した。そして何かを握り潰した様にしてその手を下に降ろす。
「この場に居る坊や達は昨日の魔法のお勉強で、1枚以上の呪文を覚えたエリート達だ。普通の4才児では1年位掛かるだろう事を僅か1日で成し遂げた皆さんに拍手……」
パン……パン……パン……!
パチパチパチパチ!
クロスアーミー先生のゆっくりとした拍手に子供達が合流してまだらな拍手となる。
「それでは、今から覚えて貰う魔法を配るので、配られた魔法の説明書を良く読んで下さいね。分からない字があったらお友達に聞くか、先生を呼んで下さい」
……。クロスアーミー先生の語調が先程の演説調から一転して、いつもの園児に対する優しそうな態度となった。そして、発言から2分後、俺の手元には2つの小魔法と1つの中魔法の魔法書があった。
火矢
火矢は棒付きの打ち上げ花火に、ガソリンを5ccくらい纏わせて飛ばす程度の威力の魔法で、敵に向かって多少追尾する。当たれば火傷も延焼もしするが、衣服に燃え移ったりしない限り致命傷にはならない。モンスターに使うならば、骸骨は火に弱いので、10発程受けたら燃えてしまうかもしれない。その程度の小魔法。
火玉弾
火玉弾は1発1,000円の打ち上げ花火を縦に飛ばすようなもので、着弾と同時に範囲を60cm程度に抑えて爆発しする。衝撃が凄まじく、鍛えていない大人の腕なら骨折させる程の威力がある。爆発と共に5ccのガソリンが飛び散る位の延焼効果もある。普通の硬革鎧の胸や、堅い木の盾あたりで受けるなら、衝撃のダメージを多少受ける程度で何とか耐えられるが、生身に当たると大怪我は必至。人より少し小さい犬鬼程度なら腕を吹き飛ばす威力があるが、2m前後の豚鬼の身体ならば6~10発くらい当てねば倒れない。しかし、頭や顔に当たれば2~3発でノックアウト出来る事もある。
爆裂
それは対人地雷程の威力があり、対象の居る地面が爆発すると言う代表的な火属性中魔法。人より少し小さい犬鬼は木っ端微塵。体長2m前後の豚鬼ならどこに当たっても死亡か重傷。但し、3m前後の身長の巨人鬼は頑丈なのでせいぜい身体の一部分の打撲裂傷火傷程度。頭に当たらなければ100発程度は耐える事がある。爆発による衝撃での殺傷を目的としているため高温になりはするが、延焼効果はほぼない。
マジで軍事利用する気まんまんの魔法群だった。
因みに、魔法分類としては小魔法は単体で人を殺せないレベルの魔法。中魔法は単体で人を殺せる魔法。大魔法はそれこそ建物や武装した複数人を一気に葬れる魔法。その上の極大魔法は街を吹き飛ばすレベルの魔法となる。その上の禁呪なんてのはもうよくわからん威力としか言えない。つまりは大雑把ではあるが、小・中・大・極大・禁の5段階に分けられていると言う事だ。
人類が単体で使う魔法は中魔法が限界で、大魔法を1人で使おうものなら大魔導師扱いされるレベルとなる。
その中魔法を4才児に覚えさせるとは……。
隣を見るとチロリ=ツンパカブリエルちゃんは防御系小魔法の水膜と回復系小魔法の水癒だった。
……こりゃ、マジで兵隊にさせられるな。
振り返ってみるとその1日は、他の園児達は頭の中の空領域に魔法をリンクさせる作業をさせられていた。だが、俺は一応魔法を覚えられる領域が3つしかない設定なので、引き続き呪文を紙に書き続けて暗記する作業を続けた。今回は現地語を使わざるを得なかったので、村で覚えた語り部のババァの適当な昔話を書いた。
そして、3日後。引き続き暗記させられた呪文を使って領域をバンバンふやされた。そして、火矢、火玉弾、爆裂の3つの魔法を覚えさせられようとしたが、出来ない振りをして何とか難を逃れた。
チロリ=ツンパカブリエルちゃんは水膜と水癒を覚えていた。
凄い。
その3日はクロスアーミー先生の手回しがあったのか、ハイパワー・ナグルス先生を見掛ける事はなかった。




