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序章-冬のレクイエム-

 吸い込んだ空気が、刺すように鋭く鼻腔を突き抜けていく。首と頭の付け根あたりが、ぐっと押さえつけられるような感覚。吹きつける風で、耳が切れて出血しそうな痛み。背骨の上を駆け抜けるざわざわ。体をぶるっと震わせて一瞬リセットしても、冬は絶え間なくも五感を締めつける。

 それでも私たちは、生足と、何か特別なものみたいに呼ばれるそれを、スカートから無防備に伸ばして心臓破りの坂を登っていく。誰から命令されたわけでもない、でも何かに強いられているような気がする均一の殻。そうあるべきと自分に呪いをかけている気さえするこの格好。

 いつもはそんなこと、考えてもしないのに。今朝に限って思い至る。それだけではない。

 吐き出す真っ白な息を見て、生きるために呼吸をしていることを思い出す。

 油断すると死んでしまいそうな寒さで、そもそも生きていたことに気づく。

 学校という空間に閉じ込められて、なんとなくぼんやり、徐々に自由を奪われて死にゆく水槽の魚みたいに生活している私は、今、息を吹き返した。

 そんな気がした朝。霜柱を踏みつけて思う。

 冬は、生きている感じがする。

 何かを忘れて、消えそうになってしまった秋を越えて、私はここにいる。

 北風に削られて、輪郭を取り戻す。

 私たちが、青春とやらに咲く花ならば、この冬を生き延びなければいけない。

 私たちが、青春とやらをやり過ごすためには、この冬を生き延びなければいけない。

 手袋で守られた指先も、もうずいぶん冷えてしまった。壊死してぽろりと落ちてしまいそうなほど感覚が曖昧だ。もう耳に至ってはついているかも怪しい。

 研ぎ澄まされていく。必要なもの以外を削ぎ落とそうと、北風は猛り狂う。

 守りたいものがあるのなら、自分自身で守らなければなくしてしまう。持って行かれてしまう。

 だから私は、私の体を抱きしめる。

 心を冷やす隙間風で、凍えて死んでしまわないように。


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