エピローグ
冬が去って、春が訪れた日から三日後。
道化師は自分が生まれ育った村に帰っていました。
帰るなり自分の家には寄らず、村の外れにある墓地に、道化師はいました。
「友。約束どおり、『国樹シーズン』の一枝を手に入れたよ」
名前のない墓の前に、道化師は一人でいました。
赤と緑が入り混じった刺激的な衣装を脱ぎ捨てて。
先端がクルリと捻った帽子と靴を履き替えて。
顔には泣き笑いの仮面をつけていません。
手には神々しく輝く一枝。
そうです。『国樹シーズン』の一枝を道化師――いや青年は手に入れたのです。
「どうかな? とても綺麗だよ。手に持っていると、かなり緊張しちゃうね。どんな宝石でも、この輝きには敵わないよ」
震える声。
震える身体。
もう青年は限界でした。
「こんな、こんなつまらないモノのために、君は死んでいったのか……」
青年は膝から崩れ落ちるように倒れてしまいました。
「馬鹿だよ。馬鹿。ボクがこんなものを欲しがったから、君は死んでしまった……こんなものより、君が生きていてくれたほうが、ずっと嬉しかった……」
滂沱の涙。青年は拭うこともせずに流れるまま、泣き続けました。
「また会いたいよ、友……」
そうやっていつまでも、いつまでも、青年は泣き続けました。
本当に欲しかったものは失ってから気づく。
それを知るには青年は遅すぎたのかもしれません。
その後の『廻りの国』はちゃんと季節が廻ります。
『冬の女王』と門番がどうなったのかは記されていません。
ただ言えることは、『廻りの国』が滅んでしまう最後の最後まで、『冬の女王』は季節を廻らす役目を果たしました。
そして『廻りの国』が滅んでしまう最後の最後まで、門番は『冬の女王』に付き添いました。
もう季節が廻らないことはありません。
いつまでも、いつまでも。
世界が終わるそのときまで。
季節は廻っていくのです。