プロローグ
遥か遠い昔のことでございます。
『廻りの国』と名付けられた国には四人の女王がおりました。
それぞれ春の女王、夏の女王、秋の女王、冬の女王と呼ばれていました。
彼女たちは各々の名前の季節を司っていました。いや『支配』していたというのが正しいのでしょう。
国の中心にある塔、『四季の塔』に彼女たちは定められた期間、交替して住んでいました。そうすることで『廻りの国』は季節が廻ってくるのです。
『廻りの国』の国民たちは四人の女王に感謝と敬意を込めて天高くそびえたつ『四季の塔』を見上げます。そして口々に言いました。「四人の女王が居てくれて幸せだ」と。
彼女たちが定められた期間、『四季の塔』にいることで安定した気候で恩恵を与えることができます。春には春の恩恵、夏には夏の恩恵、秋には秋の恩恵、冬には冬の恩恵が与えられるのです。
こうして『廻りの国』は栄えていきました。国民たちも四人の女王のおかげで多大な恩恵を受けていたのです。
王様も騎士たちも僧侶たちも農民たちもいつまでも栄えていく『廻りの国』が滅ぶことがないと信じていました。
しかしある日のことでございます。季節が冬から春へと廻る時期となったのに、一向に変わる気配を感じませんでした。
三日が経って国民たちは少し不安に思いました。
一週間が経って、ようやく全員がおかしいと思うようになりました。
どうして季節が廻らないのでしょうか。
その理由は『四季の塔』から冬の女王が出て行かないからです。
『廻りの国』は激しい吹雪に覆われてしまいました。地面は雪原となって辺りの作物は凍らせてされてしまいました。
このままでは『廻りの国』の国民全員の食べ物がなくなってしまいます。
困った『廻りの国』の王様は家臣たちに命令をしました。どうにかして冬の女王を塔から出しなさいと。
初めに来たのは騎士団長でした。
騎士のリーダーである騎士団長は『四季の塔』の入り口で正々堂々と冬の女王に言いました。
「冬の女王よ! 何ゆえにそなたは塔から出ないのだ? このままでは国民が餓えてしまう! さあ早く春の女王に替わってくれないか!」
ストレートな物言いですが、冬の女王はうんともすんとも言いません。
騎士団長は騎士道に則り説得を試みましたが、成果は上がりませんでした。
騎士団長は肩をがっくり落として城に戻っていきました。
その姿を見ても、冬の女王は塔から出て行きませんでした。
次に来たのは教皇でした。
僧侶の頂点に立つ教皇は『四季の塔』の入り口で質実剛健な口調で冬の女王に言いました。
「冬の女王よ。そなたは神の使命に逆らうのですか? 人々の幸せのためにこの役目に就いたのでしょう? 早く春の女王に替わってくださらないか?」
厳かな物言いですが、冬の女王はうんともすんとも言いません。
教皇は神の道に則り説得を試みましたが、成果は上がりませんでした。
教皇は肩をがっくり落として城に戻っていきました。
その姿を見ても、冬の女王は塔から出て行きませんでした。
その他にも冬の女王の元に次々と家臣が訪れましたが、結局は冬の女王は『四季の塔』から出て行きませんでした。
『廻りの国』の一番賢い大臣が説得に失敗してしまったとき、とうとう困った王様がお触れを出しました。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。季節を廻らせることを妨げてはならない』
これを見た平民や農民はこぞって『四季の塔』を訪れましたが、冬の女王は何の反応を見せません。
こうして『廻りの国』の冬はいつまで経っても冬のままでした。
どうして冬の女王はいつまでも塔の引きこもっているのでしょうか?
どうして春の女王はいつまでも塔に行かないのでしょうか?
このまま『廻りの国』は滅んでしまうのでしょうか――
「そんなことはさせないよん♪」
国中に立てられたお触れの札を見つめる男が一人います。
その男――いや、道化師といったほうがいいでしょう。
赤と緑が入り混じった刺激的な衣装。
先端がクルリと捻った帽子と靴。
顔には泣き笑いの仮面をつけていました。
「困ったことになったなあ。でもボクの願いを叶えられるチャンスでもあるねえ。こういうとき、なんて言えばいいのかな? 千載一遇のチャンスかな?」
道化師はくふふ笑いながら、その場を後にしました。
目指すは王様の居るお城です。
「さあて、面白くなってきたなあ」
何者か分からない道化師はくるくる回りながら城へと向かいます。
こうして物語は始まりました。
はたして道化師は解決へと導けるのでしょうか――