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第一話 『勇者』

 

 んっんん。あーマイクテスマイクテス。おk?

 …やぁ!みんな!こんにちわ!

 僕は桐島きりしま リク。16歳のしがない高校生さ!

 特に部活動とかもやってなく、友人は人並にはいる。

体格も顔も特にそこら辺の学生に

 引けを取らないくらい普通で黒髪で…


ってえ?そんな話はどうでもいいって?

 おいおい~そう固いこと言うなって。

何事もまずは知ることからだろ?


 え?お前の詳しい情報よりも現状を知りたいって?

 そう焦るなって。焦りからは何も生まれないんだぞ。

 …まあでもそろそろ教えてあげようかな。

焦らし過ぎるのも悪いしね。

 俺こと桐島リク。その現状…それは…


「こういうことだよぉぉぉぉーーーーー!!!」

 叫び声を上げ、森の中を必死で走り回る少年の姿が見て取れた。

 まさしくその姿、風貌は先程の語る少年、リクであった。


 整備もされていないただの獣道を走るには

 ただの黒い学ランに少し青っぽい肩掛けのスクールバックと

 少し不向きな恰好であった。


 唯一の救いとしては靴が運動しやすいバッシュであったことであろうか。

 まあその救いは少々…いやまったく役立っているとは言えないが…


「グガァァァァ!!!」

 後ろから獣、いや怪獣のよな叫び声が聞こえてくる。

 そしてまばらに生えている木の幹を右手、左手と掴んでは離し、

掴んでは離しと進んでくる黒い巨人が見えてきた。


 頭という概念がないと思われるその巨人の体は

 首にあたる部分にに大きな口を付けて追いかけてくる。

 体長4mはありそうな巨人に追いかけられているその有様は

 ただの恐怖でしかないことが感じ取れた。


「ぬぅわわぁぁ!!なんだよここ!!なんなんだよあれー!!

 てか、なんで俺は自己紹介なんかしてたんだぁーー!!」

 リクは叫びながら必死に逃げ回る。大小さまざまな段差や倒れている

 木々と言った障害物はあるものの死ぬもんかと何とかやり過ごす。


「ひぃ!」「ぬわ!」「ぐぇ!」「うぉ!」


 そのやりこなす際の身体能力の高さは目を張るものであったが

 やはりただの一般男子。限界はある。徐々に体力は奪われていき、

 どんどん死という恐怖に飲まれて涙目になっていく。


「はぁはぁ、も、もうだぁ…おしまいだぁ…

俺はもうここで死ぬんだぁ…」

 足は止めずともその逃げる姿にはどんどん覇気がなくなっていく。

 後ろでは巨大な両腕でバキバキと木々をなぎ倒し、

徐々に距離を詰めていく巨人がいる。


「はぁはぁ…あ、あれは、も、森の出口!…くっ!

 も、森の外に出れれば、こう…いい感じに助けが来るはず…

 い、イケる!!イケるぞ!!俺!!」


 王道系物語の見すぎのような思考で何とか希望を作り上げ、

 それを糧によろける体を森の出口に持っていく。


 出口に近づくにつれ光がどんどん強くなり、

少し薄暗かった森で慣れていた視界が明順応によりかすんでいく。

 まぶしさのあまり目を閉じ、

腕で顔を隠すがその足は止めずに出口に向かって走る。


「あと少し、あと少しで…うぉぉぉ、ぉぉぉおおおおお!?」

 出口まであと少しのところで木の根に足を取られ、

ダイビングしながら出口に着く。


「いてててて…はっ!助け、助けは!!」

 横にして蹲るからだを無理やり立たせ、

ぼやけた視界を何とか使えるようにと目をゴシゴシと擦る。


「よし!これで見えるはずだ!兵隊?義勇団?騎士団?

 屈強な傭兵?女騎士?誰でもいい!

 俺を助けてくれ――――!!!」


 リクが叫ぶと同時に目を開けると

 そこには驚きの光景が視界に焼き付いた。


「………ざんねん…わたしのぼうけんは

 これでおわってしまった…ってか…」

 リクは力が抜けお尻から地面に落ちる。

 

 そこにはただただ緑が広がっていた。正確に言うと草原である。

 そこらじゅう草、花、草!と紛うことなき、草原である。

 気持ちいい風が向こうから吹いきて、

 リクと草原を気持ちよさそうになびかせる。


「あぁ…気持ちいいなぁ…こんな気持ちよく死ねるなら…」

 そう言って目を閉じる。

 森からは叫び声がどんどん大きくなって聞こえてきて、

 あと数十秒もすれば巨人が追いつくころかと思わせてくる。


 目を閉じながらリクはいっそ気持ちいいまま殺してくれれば…

 などと思っていたが、ふと考えてみる。


 あれ?そういえば俺、このまま死んでいいのかな。

 まだまだ未来のある高校一年生。

 彼女だってできたことないし、夢だって叶えてない。

 まだまだ人生を謳歌したい。


 てか、なんでこんな理不尽に殺されなあかんねん!

 朝の登校中に遅刻しそうだからって

 近道かと思った路地裏通ったらこんな変なところに出てきて…


 それで、おやすみgood nightな巨人の可愛らしい尻尾を踏んだだけ…

 悪気はなかったねん。ごめん言うたし。もうええやん。

 許してや…またおねんねしてや…

 

 てかなんで遅刻しそうなだけで死にそうになってんやねん。

 俺悪くないやん。ええ子やん。遅刻しまいと頑張ったやん?

 その報いがこれって…そんなん…


「そんなん、文部科学省に文句言ってぇぇやぁぁ!!!

 てかなんで関西弁なんだよ!!

 自分東京人なんで東京弁しか話せません!!!」


 そう言うとリクは立ち上がる。

 足は生まれた子馬のようにプルプルしているがなんとか気力で立ち続ける。

 そして少し草原のほうへ歩き、バックを捨てる。


 リクは体を森のほうに向け、あるポーズを取る。

 右足を引いて右に足の先を向け、左足を前に出す。腰から上を右にそらし、

 左腕を前に突き出す。そして左腕を少し曲げ、

 そのまま手を広げて指をまっすぐ揃える。

 指先は上を向け、右腕は腹の下部辺りで待機させる。


 目を閉じ、一つため息をつく。足の震えを止め、

 そして肩、膝、肘、手首、足首とあらゆる関節を自然体に、

 緩やかにする。

 特に膝と肘は自然に曲げて、極限までゆとりをもたせる。

 ここまで数秒と短い間ではあったが、これである一つの形が出来上がった。


 森の奥からはその黒い巨体がずんずんと来ることが見えており、

 あと数秒で接触できることが可能な距離まで迫っていた。



「よし…やってやる。一発、一発だけでいい。

 ワンチャンにかけるぞ…もし…もし俺が

 『異世界に飛ばされた主人公』なら、この窮地…乗り越えて見せる!!」

 目をカッと開き、その一瞬に備える。


「グガァァァァァ!!!!」

 バキバキと出口付近の木々を薙ぎ払い、公にその黒い巨体を表す。

 4mほどの身長、筋肉で引き締まった体格。

 首元から足元にかけては成人男性のアスリートのような体格であったが、

 それでも不似合いな両腕を付けていた。

 

 それぞれ4mほどありそうな長さと丸太のような

 かなりと太さを兼ね備えており、たった2本の指を握りしめて、

 これは戦うための腕だと言ってもいるような作りであった。


 そして首元についている大きく空いた口で大きな叫び声を上げて、

 リクに向かってまた走り出した。

 膝をしっかり上げる走り方はまるで陸上選手のようであった。


 そして腰から上を徐々に右へとひねりを加えて、その右腕に力を貯めてた。

 この上下の全く別な運動を見ると、

 どうやらこの巨人には視界など不要なのだと考えられた。


「ふぅ…ったく、なんだよあれ。もう殺す気満々な体勢じゃねぇか。

 まあ、初撃が「かぶりつく」じゃなくて「ぶん殴り」でよかった…」

 ごくりっと唾を飲み、焦らず、じっくりと、ワンチャンを待つ。

 額からは汗が流れ、滴る。


 ついに巨人がすぐそこまで近づき、

 その右腕を振りかぶって殴りかかってきた。

 その拳はリクの体を丸々包み込むことができるほどのもので、

 それが走ることによる加速度αと

 ひねりを加えて振りかぶることによる加速度βに

 よりα×βのすごい速さ、勢いで突っ込んできた。


「ここだっ!!」

 リクは一瞬を見極め、真っすぐ突っ込んでくる巨人の右手首に左手の甲を当てつつ、

 そこを軸として右足をを右に大きく出し、左に180度回転する。

 巨人の拳に合わせて左足を引き、右足の後ろに着ける。


 そのまま右足のかかとを軸とし、右手で巨人の右手の指を一本掴み、

 その勢いを乗せて更に左に回転する。

 回転中に左ひじを極力曲げて、巨人の勢いを乗せた回転のまま巨人の脇腹に

 左ひじを置く。


 ゴッ!っと鈍い音がしてリクは思い切り弾き飛ばされた。

「ぐはっ!」

 数十メートル吹き飛ばされ、うまく受け身を取れないまま

 背中から地面に落ちた。


「くっ…や、やったか…」

 仰向けで倒れているリクは先程の行動が功を奏しているか

 首から上を巨人のほうに向ける。


「グ、ググ、グガァァァ!!!」

「おいおいまじかよぉ…」

 巨人は少しの間だけ動きを止めていたが、

 大した攻撃とはなっていないようで

 すぐに叫び声を上げて、またリクに向かってきた。


「もう…体動かねぇし…おしまいかな…」

「グガァァァ!!!」

 ドンッドンッドンと足音を鳴らして、巨人はまた先程と同じ体制を整えてた。


 万事休す。リクは諦めてまた仰向けになり、目を閉じる。


 さよなら、リクさん…


「まてまてまてーー!!行け!ドンタコス!!」

「ヤッタルドン!!!」

「グガァァァ!!!」


 …あれ?遅いな。そろそろ来てもおかしくない頃合いなのに…

 それにおっさんの掛け声とおっさんの気合の声も聞こえてきたし…

 ここはもう「おっさん地獄」なのかな…?


 リクはチラッと目を開ける。

 するとそこにはリクを中心にして取っ組み合う黒い巨人と全裸の

 胸毛ボーボーな巨大なおっさんがいた。


「うわぁぁ!!なんだこれぇ!!おっさん誰や!てかキモい!!所々キモイ!!」

 リクは驚きのあまり心の声を丸々口から放り出した。


「エエ…タスケテアゲテルノニソノ言イ草ハナイヨォ…」

 おっさんが露骨に落ち込む。助けてあげている?この変態何言っているんだ?

 と驚きのあまり現実を忘れておっさんに集中していた思考を解き放つ。


 そうだ!巨人に殺されかけたんだ!それをこのおっさんが…


「おっさん!助けてくれたことは礼を言います!ありがとう!

 でもなんで助けてくれるのですか?そもそもあなたは誰ですか?

 てかここはどこですか?この巨人は何ですか?てかなんで全裸なん…」

 リクは急に真顔になり尋ねまくる。とりあえず頭のねじが吹っ飛んだようだ。


「アアァ!!煩っサイ!!オッサンワカンナイ!!ソンナニ訊カレテモ

 オッサンワカンナイ!!テカ、ソンナノ今知ラナクテ良クナイ!?今戦ッテンノ!

 見テワカンナイノ!?」


 おっさん怒る。おぉ…とリクはなんやこいつと少し驚く。


「おいこら!ドンタコス!!何してんだ!!早くそいつをドーンってヤッちまえ!!」

 おっさんの後方から今度はちゃんと服を着たオッサンが声を上げる。

 その声を聴き、おっさんは我に返り、当初の目的を思い出す。


「アッ!ソウダッタ!コイツヤンナイト!!……っどっせい――――や!!!」

 気合の声とともに取っ組み合っていた両腕をバンザイして、パッと

 取っ組み合いを解除する。巨人のボディがその際にがら空きになる。

 そこを狙ったかのようにすぐにおっさんは両腕を上から下にぐるんと回し、

 両手を握り合い、ミシミシと筋肉を膨張させ、一瞬のうちに力を貯める。

 そしてさきほどリクが攻撃を当てた巨人の脇腹に対して野球のように

 右から左へ大振りをかました。


「どらぁぁぁぁ!!!!吹き飛べやぁーーーー!!!」

「グ、グギィ、グガァァァ!!!」

 巨人は一瞬は耐えはしたものの、すぐに耐えることはできなくなり、

 口から液体を吐き出しながら、横にくの字となって吹き飛ばされた。


 その距離約50mほど。

 大きな地響きとともに巨人は地面にたたきつけられた。

「ヨシ!ホラ逃ゲルゾ。立テ」

 おっさんは人差し指を差し伸べる。立つのに手を貸してくれるそうだ。


 だが逃げるとは?オッサンの指を支えとして立ち上がりながら質問する。

「なにから逃げるんだ?さっきの巨人だって今おっさんが倒したじゃないか」

 しっかりとリクが立ち上がるとおっさんは質問に答える。


「イヤ、アイツハアンナ攻撃ジャ死ナナイ。直グニ追イ掛ケテ来ルゾ」

「そうなのか…うーん、そうなのか?

 …まぁ助けてくれてありがとう。おっさん。名前は?」


 取り敢えず見ず知らずの世界なので柔軟な順応が大切だと思い、無理やり理解させる。

 本当のところ、あんな攻撃くらっちゃ生きている奴なんていないと思ったが。


「ホウ!理解ガ早イナ。ナカナカ優秀ジャナイカ。先程ノ戦イモソウダッタシ、

 コリャナカナカ良イ人材ヲ…」

「おい!ドンタコス!何ちんたら話してやがる!目的は達成したんだから

 さっさと帰るぞ!!」


 オッサンが怒鳴りかける。おっとそうだった、といった感じになり

 ドンタコスと呼ばれる大きなおっさんはリクをひょいっと持ち上げて、

 怒鳴るオッサンのほうに向かう。


「おっさんはドンタコスって名前なのか。てかおっさんたちは何者なんだ?

 おっさんたちの風貌、雰囲気からして『盗賊』か『傭兵』辺りか?」

 ドンタコスの手のひらであぐらをかき、質問する。

 そうすると予想外な答えが返ってきた。


「インヤ、マァ時ニハソノ二ツハ当テハマルカモナ。ダガ違ウ。

 俺タチハ…



           『勇者』ダ」 



「ふーん、勇者ねぇ…って、ええええぇぇぇ!!!」


 リクの驚きの声は草原一杯に響き渡ったという。














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