異世界転生
「「僕達の世界、センターハートにようこそ」」
最後にアルとエルにそう言われて光に包まれ、それが収まると3人はどこかの小屋中にいた。
窓の外から入ってくる空気は濃い緑の匂いがし、近くに川があるのだろうか水のせせらぎが聞こえてくる。時間はおそらく昼くらいだろうか、明かりがなくても十分に明るい。
「ここどこだろうな?山の中っぽいけど、周りに獣の気配とかはないな」
周りの様子を見た輝が感じ取った事を2人に伝える。
「そうなの?でもなんか話し声みたいなのが聞こえない?」
輝は何もいないと言ったが花音はその聞こえる音の正体を突き止めようとあたりをキョロキョロしている。
そんな花音の様子を見ながら輝と同じくその音(声?)が聞こえない忍はこれからの事を輝に相談する。
「何も聞こえないと思うけど・・・これからどうしようか?」
「そうだなぁ〜、とりあえずこの建物の外に出てみるか。花音はどうする?」
「・・・・・・」
「花音?」
「え⁉︎あ〜、私はまだここにいるから2人で行ってきて」
そういうと花音は何もない空間を見ながらブツブツ独り言を言い始めた。花音の様子がおかしかったがとりあえずここにいるということなので、2人は建物の外に出る。
外に出て見えるものは木、木、木と木ばかりしかなく、ここが森か山の中だということがわかる。近くで川の音が聞こえるがそれ以外は聞こえず獣どころか虫もいないのではと思われる。
2人は自分たちが出てきた建物の周りを1周するが、その形が日本にあったコテージのような形をしていることしかわからなかった。
「なんにもないな」
「そうだね電線とかもなさそうだし、電気とかはないのかも」
「そっかぁ、そういえば忍は神様からもらった力はなんだった?」
「僕は忍者だったよ。輝は?」
「俺は魔銃士だって。銃でも使うんじゃないか?それにしても忍が忍者か。くくっ、名前通りだな」
「僕もそう思ったよ。・・・輝どうしたの?」
輝が忍のことを品定めをするように見ている。その瞳には好戦的な色が宿っている。
「いや、もらった力の所為かな。忍から隙がなくなっているからすごいなって思って」
「そうなの?」
輝は日本にいた時は、祖父が古武術をやっている影響もありそれを日頃から鍛錬を行っていた。先日その祖父から皆伝を言い渡されているので実力に関しては相当なものを持っている。実はそれが日本で十本の指に入る実力だということは本人は知らない。
一方忍は今まで格闘技などは一切やったことがない。学校でもパソコン部に入っていたので体を鍛えるということはしていなかった。
そんな忍が力を得たので輝としてはその力がどれほどのものかが知りたかった。
輝は忍から距離をとりつつ構えを作る。
「忍、勝負しようぜ」
「え?でも僕は輝と違ってなんにもやってなかったから無理だよ」
「そんなことないと思うぞ。忍から感じる強さは俺と同じくらいかもしくはそれ以上かもしれないしな」
「え?でも・・・っ⁉︎」
忍が何かを言いかけたところで輝がいきなり攻撃を仕掛けてくる。さっきまで10m程離れた所にいたのに次の瞬間にはもう手が届く範囲の所まで来ていた。
古式歩法「浮葉」、特殊な足運びを行うことにより相手に接近を悟らせづらくする技術だ。輝くらいの腕前になるとまるで瞬間移動したような錯覚を相手に与える。
輝はその勢いのまま右拳を忍の顔面に突き出す。普通なら、それこそ現代で師範と呼ばれるくらいの力量がないと反応すらできないだろう。
その普通の人なら反応すらできない一撃を忍は左手で受け流す。その勢いのまま半回転し右脚を横になぎ払い反撃までする。その動きを見た輝は避けることもできたがあえて受け止める。
「すげぇなぁ。俺の動きに反応しただけじゃなくて反撃までしてくるなんて」
「これは・・・無意識に体が動いたんだよ。まさか僕がこんな動きができるなんて思わなかったよ」
「だろうな。動きはすげぇけどその力に振り回されてる感じだな。さっきの蹴りも軽かったし」
そういうと輝は蹴りを受け止めた方の腕を軽く振りながら建物の入口の方に歩いていく。
(割と本気で打ち込んだんだけどな・・・)
忍が力を得ているのでそこそこ動けると思っていたが、反応されるとは思っていなかった。日本にいた時は輝の攻撃を捌けるのは祖父だけだったので、その驚きも大きい。
輝は顔に笑みを浮かべて花音のところに戻っていく。