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これもある種の異世界交流?  作者: 斉藤さん
一部 世界門
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四章 この世界はわりとガチに滅びそうです


 誰が事象核と呟いた。

 世界はすべて決まった理と、運命の流れによって運営されている。だがその根底を覆すのが、すべての運命線の集約地点とも言える特異点。

 異世界の介入が始まった偶然の理由であり、地球侵略が始まった理由でもある。


 世界でそれが確認されたのは、最初の特殊能力者。

 そして世界最初の悪の組織の首領である。天秤の右側バランスブレイカーこと鈴木幸助。

 そして世界最初の正義の味方であり、ヒーロー協会の長。天秤の左側バランサーの小林晴彦。


 徹底的に世界を変えた。すべての運命の集約地点と呼ばれ事象核と語られる人物だ。ただ居るだけで世界の根幹に影響を及ぼすほどの世界の混乱と安定の原因だ。

 それを知っている彼女は、同じ現象を見せた人物のデータを撫でる。


 ヒロイン体質、そんな馬鹿げた能力で上に提出した書類とは別の代物。悪の組織としての彼女の本来の職務とも言うべき、ただの隠蔽工作の一つだ。

 上層部は彼女の事に同情しているようだが、本来なら敵対関係であるべき組織が、十全に情報を与えると考える方が、はっきりと言っておかしな話でもある。


 だが日本特有なのか、それとも万国共通なのか、なあなあの関係になったこの組織との関係が、その情報を正しいと受け取らせてしまう。運命線を見通し、彼女はそれほど厄介なものではないと、協会に植えつけさせた。


「本来はこんな事をしたくはなかったのです、見つかってしまえば、もう後戻りはできません」


 世界は一度接近して、一度離れたが、そのバランスは本当に危ういものだ。

 鈴木幸助は異世界に希望を求めて、世界を繋いだが、小林晴彦は繋がれた世界に危機感を覚えて引き剥がした。

 その結果が今の世界である。繋がったえにしは消えずに、細い糸の様に、だがそれは人にとっては奈落と言うほどに広い繋がりとなって残り続けた。


 A級に該当するのは、異世界にとっては交流であっても、絶望的な質量の差や、事象という名の侵食となって現れる。その現象が本来なら事象核となり得た人物達に、特殊能力という形をもって、核としての微小な発現が発見される事になる。

 本来別の観測域にある異世界との曖昧な接合により現れた世界と世界の混血児こそが、ヒーローと呼ばれる存在である。


 そして過激派と本来なら呼ばれるヒーローが所属する悪の組織は、よりにもよって世界の接合にも、乖離にも使える世界の一つの集約点とも言うべき可能性を持つ存在の情報を占有してしまう事が出来た。

 終わりに向かう世界だった。かの異世界の存在は、全てがこの世界にとっては劇薬だ。一瞬にして全てを破滅させるほどに圧倒的な質量を保有している。


 その前線を知っている彼らは、組織設立の理由を思い出す。

 時として汚名を背負ってでも世界を守る必要がある事を、障害後ろ指を差されながら生きたとしても、成し遂げるべき夢がある事を、自分たちが知る絶望を人々に与えない為に、理念を行使する理由を手にしてしまう。

 協会に彼らが黙っていた理由は、一つだけだ。知られれば困るから、そして知られれば、彼女が殺される可能性もある。


 どうあっても善性の形であるその組織は、誰にも気付かれない様に世界を変えようとしていた。もう一人の事象核を見つけたのならば、協会だって世界を守るために利用しただろうが、どうしても事を荒立ててしまう。

 だからこそ隠れ沈み、日常の中で世界を変えようとしていた。あくの組織に介入すら許さず、協会の介入を認めず、ある日、いつかその日、自然にころりと変わる世界を作り出そうとしていたのだ。


「だがそれが本当に事象核である可能性は」

「かなり高い確率だとは思いますが、運命線が混線して見えないのは、私が知る限り両組織のトップだけというのが理由ですからね」

「確固たる理由はないと、間違えていて、A級災害となってしまったらどうする」


 どうしましょうと、彼女自身も苦笑いのようだ。

 可能性が高いだけでは動けない。慎重に慎重を重ねなければ、彼女を中心にA急災害をまとめて発生させかねない存在ではある。

 だからこそ、全てのヒーローに侮られ、だが同時に誰よりも優れた達成率を誇るヒーローを護衛に当てた。彼は守ることに必死になることはあっても、守る対象の理由に対しては深くは追求しない。


 馬鹿ではないが、それ以上に優先する内容があれば、必要以上の踏み込みをすることはない。

 さらに協会では冷遇される彼だ。その彼が護衛に当てられると言う事案が、そもそも協会にとっての判断の低下を及ぼす。そこまで考えての選択だが、彼を低く見るのは、別に協会だけではない。


「あの理想家にいったい何が出来る」

「彼は、知られては居ませんが、功績だけを見るならB+級に該当します。その中でもA級相当といってもいいほどの実力者です。

 B級であっても投降させるE-なんて言うのは、私が知る限り彼だけの偉業です」


 だがその彼の行動が、協会の反感を買っている。

 異世界との断絶を願う協会は、彼の様な協和を望む存在を認めるわけにはいかない。世界を切り離そうとあがく小林晴彦の願いが根幹となる組織である以上は仕方ない。


 確かにそうだがと、彼を見下した一人は押し黙るが、その言動にあきれたような声が口を挟む。


「だが所詮あいつだろう。理想論ばかりで現実を見ちゃいない。自分が捕らえた怪人達が、実験に使われ、道具としてその生涯を遂げているなんて聞けば発狂するぞ」

「だがそれでも彼は誰も殺せませんよ。そういう意味でも、私たちにとっては最も扱いやすい存在ですからね。丹念に都合よく使わせてもらいましょう」

「まさに理想に食い潰されると言う事か、お前実はあいつの事が嫌いだろう」


 ええと頷く予言のヒーローは、静かに表情を歪めていた。

 感情だけが顔に張り付き、穏やかな口調のままに、世界にこびり付く様な怨嗟をこめられた言葉が、滝の流れよりも自然な形で出された。


「一人だけ綺麗でいるなんて、卑怯だしずるいでしょう。だから彼を汚しておいたんです。誰が怪人をそう扱うによう命令したと思っているのですか」

「確かにあいつの理念は、俺たちにとっては確かにそう言う物だから仕方ないが、悪質だな。性格ゆがんでるぞ首領、それがヒーローの思考か」

「生憎と私は悪の組織の首領ですからね。絶対に許せない境界線が彼であるのは事実です」

「そうだな。我等にとっては、自分達が世界を救おうとしているのに、水をさすような行為をしているわけだからな」


 だが一人だけその言葉に首を横に振る者が居た。

 違うだろと、酷く冷めた態度に周囲の視線は冷たくなる。


「違うと思うがね。

 俺たちにとってはあいつこそ俺たちの理想だろう。こっちが出来ないことを当然の様にやってのけるあいつが許せないだけだろう。

 綺麗汚いじゃない。こっちの惨めな嫉妬に過ぎないと思うがな」


 図星を突かれたように、一瞬会議の場が静かになる。

 自分をにらみつけ脅すような感情を向ける組織のメンバーに男は肩をすくめるが、自分の言動を撤回しようとも思っていない。

 羨ましいと思うのは事実だし、あそこまで押し通されればもはや納得するしかない。


 彼らはそれに気付いていながら、あえて見ない振りをしようとしていた。だがそうではいけない、あの男の意思はもはや一本の弓矢のようだと、男は思いそれを肯定する。

 どれほどの理想家であったとしても、現実を見ていなかろうと、自分達がなりたい理想であるのは事実であるのだ。全員がああなれればきっと、そう思わない訳ではないが、それを台無しにしたのはここにいる存在だ。


 そしてそれを諦めたのがここにいる者達だ。


「彼を否定しながら、そういいますか」

「仕方ないだろう。俺達が成りたかったヒーローは間違いなくあれだよ。同時に成りたくないのもあれだけどな」


 夢を見られるほどの余裕はもうない。

 夢を語れるほどの力はもうない。


 わかっているから彼らはもっとも安易な方法を使おうとしている。彼を認めはするが、認めても納得なんて出来ない。彼の理論では救えない存在が現れる。

 ヒーローである彼らにとってその犠牲は認められない。その結果が未来が無駄になる事だと知っている。


 彼らはそう彼の理想を目指して、失敗してしまった人間達だからこそ、誰よりも冷徹に現実だけを見つめている。

 出来ない事を既に経験したからこそ、彼らは悪の組織になったのだ。

 だからこそ余計に彼に嫉妬するのだろう。なにせ未来が見えてもどうにもならない現実だけを植えつけられた物だっている。世界の流れを変える方法はこの世には存在しないからこそ、流れの元流をたつしかなかった。


 予言のヒーローはそうしてここにいる。そして他のヒーロー達もまた、そうやって絶望させられる現実を認めるだけしか出来なかった。

 だからこそ嫉妬であるのだろう。自分達と同じ場所に堕ちて来いと言う呪いを吐く、そして呪いを刻んだ。


 彼らと同じ顛末にいたるだろう人物が、そのままで射ることが許せなかったからこそ、予言は未来を彼に刻んだのだろう。だがそれでも彼が変わる事は無かったから、自分達で引き摺り下ろそうとする。

 そして同時にその行為を無駄だと否定して、拒絶する。かつての自分達の姿を見ない為に、必死に罵声を吐いて見ない振りをした。


「素晴らしかろうが、現状では所詮俺たちの役にしかたたんのだろう。ならそれは所詮理想どまりだ。間違っていなくて、正しくても、必要じゃないならそれはいらない」

「まったくもってその通りです。なにより、あの男は利用しか価値がない以上、私たちがするべき事は、あれが真実の事象核であるかの確認と、そうであった場合の祝宴の準備だけ」


 だと言うのに、彼らは過去の夢を引き摺ったまま、自分達で世界を救おうと考えた。自分達だけがかなえられる幼い頃からの夢を目指す為に、結局諦め切れない願いに彼らは捕われ続けて、最後の可能性に手を掛けようとしていた。


 その願いの為だけに悪の組織は動き出す。


 世界隔離という、世界平和への第一歩、そして世界崩壊を救う為の願いの為に、ただやさしい願いの為に、今ある世界を彼女たちは変えようとしていた。


「たった一度きりのチャンス。速やかに、確実に、正確にやり遂げましょう」

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