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これもある種の異世界交流?  作者: 斉藤さん
二部 ワールドエネミー
29/32

十六章 悲劇は終了。喜劇の始まり。

 反吐が出る。

 彼は自分の考えと理念の上に立つ発狂した概念を罵倒する様に罵った。

 誰の助けでもない。最初から自分の事しか考えていない独善的理論が、よりにもよって誰かに受け入れられることに耐え切れなかった自分の意思という名の汚物に対して、もう一度だけ叱咤する。

 あの日が嘘じゃないと信じたいから、その概念こそが彼をここに立たせたのなら、これからは踏み出す時間だ。


 決意だけじゃ足りない。行動だけでは足りない。両方が伴ってもまだ足りない。

 何度も語ってきた事だ。それだけじゃ足りないなら、それ以外を持ってくるしかない。だがそれ以上に足る行動がないならどうすれば良いと考えるか。

 貫くだけじゃ足りないなら、次に進める一歩を手にするには、そんな事の正解なんてない。だがそれでも何が足りないかというならもう一つしか残されないのだ。


 決意が足りない。行動が足りない。

 いつだってそうでしかないのだ。

 自分がこれだけしてきた何て言う証明が成立することなんて、結果以外では証明されない。過程は当然大切だが、結果を求め続けるなら、まず最初にそこに気づくしない。


 彼程度の決意ではまだ足りない。彼程度の行動では意味がない。

 結局は何もかもがまだ足りないだけの証明でしかない。

 絶望する事だって、失望する事だって、全部が全部その証明行為でしかないのだ。絶望する暇があるなら行動しろ、希望を語るなら諦めるな、大言壮語の理想を吐き散らかすのなら、そこにたどり着くまで諦めなんて言う妥協をすること自体が無益だ。


 絶望しろ、したって諦められないのだからすればいい。

 希望を見続ければいい。どうせ諦められないなら、結局絶望も希望もさして変わらない。あげて落とされるか、落ち続けるだけの話でしかない。

 落下しか選択肢などあるわけがない。そういう問題であり、そういう展開しか、彼が彼を続けていくことなど出来るわけがないのだ。


 ヒーローが世界を救おうとしているものでも、人を救うものでも、秩序体現者でもなんでもいい。

 きっとそれぞれが正解で意義があり、意味があり、そのこと事態に価値があるだろう。

 その中で彼が選ぶのは別の道だ。だがそれはある意味ではどんなヒーローだって共通の内容であるのも間違いない。

 

 落ち続けるような、落下死しか存在しない場所が世界という所なら、そんな場所で唯自分に近づく地面叩き付けられて悲鳴を上げて、体中の骨という骨が砕かれて、それでも何かを手にかけようと、次に続けようとする人達がヒーローと呼ばれるのだろう。

 だが自分はきっとそんな風にはなれない。そう自覚してしまった。諦められないのに、立ち上がる力すら芽生えない。一歩を踏み出す気概が存在しない。


 だから彼はここで立ち止まり、耳と目をふさいで世界から逃げた。

 諦められないのに、次に進むことを諦めた。だから彼の言葉はもう届かないだろう。本当の意味でなんてもう誰にも届かない。

 どれだけ手を伸ばそうと、一度でも蜘蛛の糸が切れれば地獄に落ちるだけだ。


 そこで立ち上がれるなら、まだよかった。だが泥沼の男は、そこでただ罪を受け入れ続けた。

 手を伸ばすだけなら誰にでも出来る。諦めないなら誰にだって出来る。

 彼はどちらも出来ているのに、足りなくて何も出来ない。その癖にして、彼は自分を見つめなおして嘲笑するしかなかった。


 立ち上がると言う行為の尊さを、諦めないという言葉の重さを、動き出すという一歩の果てしなさを、誰よりも自覚した気になって、結局は誰よりも理解していなかった。

 彼の行動は間違ってはいなかった。だがそのすべてを理解して踏み出していたのかを考えれば、分からないというしかない。がむしゃらに前だけを進んで、その先にきっと何かが見える筈だと信じて、目的地と反対にいったのかもしれない。


 けれど理解した。結論を自分で下して笑うしかなかったのだ。

 朗々と語った願いも、必死に叫んだ決意も、正しいと信じて疑わない願いも、所詮どこまで突き詰めて言い切ったとしても、それは彼の独善的な押し付けに過ぎないのだと。

 ただの偶然でほかのヒーローたちに受け入れられたから、言葉に何かの重みがあったのだろう。

 それは所詮共感できる人間にしか響かない代物で、だから自分のすべての結末はああなったのだと自覚する。


 自覚しておくべきだった。

 でないからこうなってしまった事実に対して心が折れた。押し付けと言われるのは当然であり、現実から目をそらして自分じゃないと言い張りたかった。

 その事実をかみ締める様に、口角をゆっくりと上げていく。

 逃げるな卑怯者め、止まるな卑怯者、無責任の塊のまま自分の結末を自分でどうにかしないなんて、ここの末路に至って気づく事じゃなかった。最初に気づいて絶望して諦める場所だったのだ。

 だが結局何もかもが足りなくたって、その男は何一つ自分を諦め切れない。


 言い訳をしたって、罵倒されたって、悪意のような善意の化身は、自分のその願いから逃れる事が出来ないことだけは間違いなかったのだ。

 助けを求める声も、再起を願う励ましも、確かに彼には無意味だろう。だが無意味でなければならない。どれだけの絶望を前にしても、仲間を言い訳にして立ち上がれないようでは意味はない。どんな事があったって、前に進むためには自分で動くしか手段はないのだ。


 だから後悔は一度ここで終了。

 どうせいつかまたこの場所に彼は戻り絶望して、また立ち止まり次の一歩を踏み出せなくなるから。それが一秒後か、それとも寿命が尽きるまでなのか、彼は何度だってここに戻ってきてしまう。

 一回などですむ訳があってもらっては困る。

 正解のない答えに正解を導き出そうとするのだ。無駄と分かって無理を連ねる行為を願うのだ。

 それを彼はまた見つめ直して、絶望して立ち止まって、また立ち上がってもらわなくては意味がない。たやすく成し遂げられるものなら意味はない、ただ諦める感情もなく機械のように動くのでは価値がない。


 人の身に余る全てを成し遂げていこうというのなら、願いの根源である存在は絶望する必要があって当然だ。涙を流して、それでも夢の残骸を掻き分けるように次を目指す必要があるのは義務だ。

 一度目の後悔を通り越して持つ続くのはきっと後悔でなくてはならない。その場所にたどり着くのはいつだって、まだ自分が足りない証明であり、終着点ではなくて、通過点でもなく、始発点でしかないのである。


 なら彼がどういう答えに達して失敗しようと、また一歩を踏み出す決意が出来るということでしかない。嘆いたって、絶望したって、その全てがなくなる一瞬ですらも、また諦めないことを選択できるのが、結局その男の末路であり在り方だ。

 後悔から何度だって立ち上がらなくては、そんな無意味に近い願望を成し遂げられるわけがない。

 彼が行うのは、世界に対する暴力に近い上塗りの行為だ。


 他者の意見を押しつぶし、自分の意見を押し付け、それが常識であると人に語る。 

 反吐が出るに決まっている。

 それが自分の結論だったのだ。追い詰められて、追い立てられて、叩き付けられても、自分が絶望から這い上がってしまう理由はそれ以外なかったのだ。

 思う限りで最悪だった結論を彼は押し通すことしか出来ない。


 世界をねじ伏せることを願う自分を罵倒したくなる。

 世界の天敵と呼ばれる理由が分かる。自分が考えることの全ては独善以上の価値はなく、それを世界に認めさせる事を諦めきれないなら、敵になるしかない。

 否定を屈服させるように、無理な願いを押し付けるために、彼はほかの人の願いを蔑ろにするしかないのだ。


 敵になる。


 小さく、だが確実に自分に響き渡るように彼は呟いた。

 これだけは忘れないと誓うように、この夢から諦めない決意として、このエゴの塊を律する言葉として、何度でも立ち上がる理由にする為に、自身の悪辣さを自覚し実行する最初の一歩が、彼に刻まれてしまった。

 響く音はきっと誰にも聞こえない。

 何せ最も近くにいたヒロインにすら響かないのだ。全てに響かせる言葉の一言目は、誰にも届かないだろう。だが自分にだけはきちんと届いた。


 本来他人に向けて言葉を響かせる男の一言目は、自分だけに伝えたい言葉。

 歩き出すためと言い切る絶対の一歩目だ。

 

 敵になる。そう彼の呟いた言葉は、彼の今までと比べれば、そしてこれからの行動を考えたとしても不釣合いな言葉ではある。

 だがこれは障害彼が変えなかった場所だと断言しておくべきでもあるだろう。

 これから先に何度も彼は挫折して、絶望するのは、確定しているが、それでも彼がたちがある最初の一歩はやはりこの言葉であった。


 その言葉には意味がある。その言葉はきっと重さがある。自分を底なしの沼から引きずり出すのではなく、誰よりも厳しく声をたたきつけるために、諦めきれないのに立ち止まるなと言い切るための言葉は、全ての絶望認めて立ち上がる理由になる言葉だった。


 敵になる。

 それは自分を理不尽に代えるための言葉だ。

 人に、世界に、自分以外に、何度だって自分を押し付けるための暴言だ。


 おおよそ誰もが考えるような理屈じゃない。

 それは自分を卑下するための言葉でもある。そして自分だけが最悪の人間であると思ってしまっている彼だからこそ、こういう発想になったのかと思うほどに、吐き出す言葉の意味は実に自罰的だ。

 だが同時に彼らしいと思えるほどの誇大妄想と指して変わらない意味しかない。


 自分の願いを押し通し世界を変えようと考えたのだ。

 なら彼はこの結論で正解だと思うしかない。彼は結局こうやって考えてこうなるしかないのだろう。


 本気で彼はこう思う。誰もが世界を滅ぼす化け物だと思った存在を見ながら、彼は自分はきっとそれ以上の悪党だと。

 人が向ける彼への感情を全て理解しても、結局こうなる男は、自分で自分の存在を確定させる。

 自分に離れないと思った。それはもう納得するしかない。

 だが諦めきれないと分かってしまったのだ。今でも続き続ける問いかけは、今もなお彼の心臓をつかみ続けているが、もう自分が変われないという意味の本当の意味を彼は受け止めた。


 これから先も続く自身への問いかけに、彼は敵になるといった。

 これが答えだ。

 自分の為に、彼は全ての敵となると決めたのだ。

 後悔するだけではない。進むための言葉は、まだ死んだままの男を立ち上がらせた。何度も心に打ち据えるように、その目は全ての世界を目に焼き付けた。


 自分の為に世界を歪める。きっと自分の創造した世界はディストピアでしかない事も知りながら、それでも願ってやまない世界もある。

 だからこの世界の敵になる。この容赦のない優しい世界に、だからもお願いだからもっと、もっとと、どうにもならないことを願う。


 だから彼にとってこれからの発言は、自分を自覚して動き出す最初の一歩。

 何度も挫折しても立ち上がろうとする宣誓なのだ。


「僕に頼るな、こっちだって辛いんだ」


 誰にも届いた言葉は、そんな自分を罵倒する言葉であり、助けられる者にとっては、てこをはずされるような言葉。理想の塊は、現実を彼らに突きつけ、彼ですらどうにもならないのだと突きつける。

 自分のエゴを押し通すと決めたのだ。ならば彼に頼るのは無駄な事と言ってもなんら不思議ではない。


 だからここから起きる一切は、所詮は一人のエゴだけで綴られる傲慢極まる蹂躙だ。


 世界を滅ぼす引き金を引いた男は、その引き金にふさわしい暴挙によって世界の破滅を防ぐ。

 けれどそれは自分の為に世界が滅んで欲しくないなんて言う、それがヒーローの理想を語った男の発想なのだ。

 滅び行く世界に彼は笑う。軟弱なと、舌打ちするように、脆い世界に不快感を感じてしまう。


 そうすれば自分の願いはどこに消える。自分が世界に向けるこの行き場のない感情はどこにと、太陽の熱よりも世界に影響を与える男の感情は、ありとあらゆる願望を飲み込み世界を軋ませる。

 

 彼には仲間はもう要らない。

 敵がいるだけでいい。世界の敵で十分なのだと認める。


 彼の言葉は宣戦布告だ。

 何せ願いが願いなのだから、誰もがきっと無理だというだろう。そしてそれもきっと間違ってなどいない。彼のような発想が世界に受け入れられるわけがない。

 だからこそ彼は思うのだろう。それが諦める理由になるわけじゃない。


 なら動き出すだけだ。

 声は出した。決意も定めた。ならば最後に残るのは実践だ。


 だからとりあえずは世界を救おう。そしてそれからが本領だ。

 骨が折れるついでではあるが、だが相手は目の前の世界の質量を操る存在だ。ならばこれから世界に挑む前哨戦でしかない。

 たかだが異世界にすら勝てないで、この世界で無謀が吐けるわけがない。


 みんな仲良くなんて馬鹿みたいに当たり前のことを、そして誰もが出来ない事を必死になって叫ぶのだ。これ以上の大言壮語は彼には存在しないのなら、世界の崩壊なんて絶望ですらないのだ。

 自分の願いにとって通過点。


 ゆっくりと覚醒していくヒーローになる事の出来なかったエゴの終着点は、世界を覆う赤の天蓋はひび割れた世界を縫うように赤で染めていく。

 ひび割れ亀裂によって壊れかけた世界は、唯一つの赤によってほつれは繕われ、まるで今までのことがうそのように思える錯覚を与えた。


 だがそれは今までの事象核ような優しいものではない。

 その赤の繕いは、そこからゆっくりと亀裂を広げていく。まるで彼の質量が世界に現れる様に、事象核にもなっていない男が、ただの存在の質量だけで世界を上回ろうとしていた。

 しかしそれが世界の敵を名乗る彼の宣言だ。総身一心で世界に向ける彼の感情は、まさしく敵を名乗るのにふさわしいだろう。


 むしろここまでの質量をもってなお、世界の歯車に重ならなかった彼の形は、まさしくエゴの塊とすらいえるかもしれない。世界を象徴しない事象こそが彼の本質だ。

 だからこそ自象系の能力者は少ないのだろう。

 世界にあって、その枠組みから外れる何かを持った存在が、その素養を持つ証明なのだ。


 異世界にはこんな枠組みは存在しない。だから何が起きているか分からずと惑う異世界の住人の姿は不思議ではない。こんなことが起きるなんて、異世界の常識では有り得るわけがないのだ。

 最もこっち世界でだってこんなことは理論では可能であるが、自身に世界を超える質量を持つなんて言う制限を加えれば、普通は不可能なのである。何よりそれを本来は事象核というのだが、彼はその道には進まなかった。


 それはそんな選択肢を選んだ彼だからこそ起こせた事態でもある。


 人が事象核になれるなら、ならないという選択を選んだ彼もまた間違いではないのも事実だ。

 それにこれは彼にとってはただの手段でしかない。彼の救いの押し売りは、こっちの都合も一切考えない。世界が考える常識なんて彼には必要ない。


 だがそこには救世の瞬間があった。世界の崩壊を救う事なんてついででしかない男が行った事は、誰もが望んだ展開であったかのように全ての存在に刻まれる。

 これを人は救世主とでも言うのだろうか?

 全ての絶望をさらい挙げて、終わる世界を救った存在を英雄とでも言うのだろうか?


 だがそれでも彼は言うだろう。

 彼は世界に見える全ての存在に突きつけ続けるこれより自分は敵だと。

 天蓋の果てに立つ赤き人柱は、断じて世界の殉教者ではない。

 自己の賛美、自我の極点、誰の迷惑も関係なく、世界に降り荒れる理不尽だ。


 誰よりも迷惑な善意の暴虐が、善意という名の迷惑の塊が、世界に吹き荒れる風となって、二つの世界の全てに吹き荒れるだろう。

 そんな理不尽が行えることは対話しかない。だが誰も彼もを戦慄させるのが、彼が行う対話だ。

 だから敵には同情すると簪は笑った。


 だがあえて言おう。

 その信頼の全てをぶち壊すのがその男だ。思想も、発想も、行動も、全て自覚しながら、自分にとっての最良で行動する。

 その意味をまだ彼らは知らない。

 人が彼にかけた期待や理想なんて、一山一銭にも満たないようなものだ。


 確かに敵には同情するだろう。敵にするだけ面倒で厄介な男だ。

 その男はよりにも寄って理不尽な方向への変貌を遂げた。

 彼の終着点である能力は無理矢理に対話の席につかせる監禁結界だけなのだ。暴力を持つ相手に、それが無益だったのはもう証明された。


 じゃあどうすればいいと考えて、その決断に誰もが自分の見た世界を疑い。

 ある一人は悲鳴を上げた。

 赤い天蓋の果て、絶望を認め足掻くと決めた男は、異世界の住人と向き合い。対話の席に無理矢理につかせる。だがそこからが異常事態だったのかもしれない。

 その結界の中で相対する人間はずいぶんと違和感しか感じないのだ。己の全ての決意を表現する為に、全てをさらけ出し敵と向き合う男の姿と、その姿に怯える異世界の住人。

 いやこれは少し迂遠な言い方かもしれない。


 つまりは男は生まれたまま姿だった。

 そして悲鳴を上げたのは異世界の住人だった。


 ただ事実だけを書くなら、女性を監禁し全裸の男が対話を求めた。

 それがこの世界で初めての異世界交流として刻まれる最初の対話の瞬間であった。



ずっとこの展開の為にシリアスな話にしていた。


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