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これもある種の異世界交流?  作者: 斉藤さん
二部 ワールドエネミー
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八章 この世で一番性質が悪いのは、善意から生まれた悪意である。

 何も言えなかった。

 名前がない理由も知っていた。彼の決意が思いのも知っていた。

 彼が手を差し伸べようとする先を彼は知っていた。


 結局の顛末は、反論の言葉が浮かばずに、止める事も出来ずに彼に気をつけろと言って見送る事だけだった。こけた人に手を差し伸べることや、迷子の子供を見つけて親を探してやるような、そんな言葉を誰よりも大切にしていただけだ。

 それは本当に単純なことだった。だが同時にそんな意味を持つ言葉が、この世界ではもうなくなりつつある言葉であったのも事実だ。


 将軍は愕然とした。

 ヒーロー達が諦めた言葉は、いや自分さえもが諦めてしまった言葉は、当たり前に存在するような単純なものだったのに、その言葉はもうなくなりつつあった事に、彼はなにも言えなくなるほどの困惑を覚えた。

 そんな男はやはり誰にも死んで欲しくないという理由だけで、協会に何かをしでかすのだろうが、それはきっと報われない事は分かっている。


 救われないとは思う。彼は当り前の事を言い続けても、そんな言葉は子供が使ってほほえましく思われる程度の言葉でしかない。

 大人になればそれは、詐欺師の弁舌であり、宗教家の妄言で、政治家の清き一票のお題目だ。

 そこには上辺はあっても、中身はない。だがそれでもその言葉は、間違ってはいない言葉ではあるのだ。


 正しくて、美しい、そして眼を引くのも当然だろう。

 だが誰も認めない。その言葉には何時も裏があるから、その言葉にはいつも裏切られるから、余りに綺麗な言葉だったから、少しの不純で汚れが目立つ。

 彼の言いたい言葉は、ずっと間違えずに言い続けてきた言葉は、疑いの視線を最初に向ける言葉であったのだ。


 この世で、いやこの世界で最も信用にされない言葉がある。それはなに一つ嘘をつかない言葉だ。

 そして逆に信用される言葉がある。それは自分が満足出来る言葉だ。

 

 真実しか存在しない言葉は時として嘘にしか見えない。だが人は自分が満足する言葉は容易く信じる。自分の価値観が否定しないものなら受け入れてしまう。

 だからこそ、真実だけの言葉は剣よりも鋭く、自分の価値観を傷付ける言葉だから、信じてもらえない。

 彼の大切にする言葉は同時にそんな代物であるのだ。


 しかし子供でマシと扱われる言葉だが、子供の言葉を言い続ける重みは違う。

 幼い頃の希望に満ちた言葉を覚えているだろうか?

 友達を百人作るとか、誰かに優しくするとかそんな事でいい。


 斜に成って構えて、痛みから逃げるような事をせずに、ずっと、ずっと、否定を受け止めながら、お天道様より明るく温かい言葉を言い続ける。

 嘲笑もあるだろう、罵声だってあるだろう。だが納得してもらえる事は少ない。胡散臭がられて当然と思った方がいい。少なくとも彼の言葉の先にいたヒーロー達には、そう思われ続けていたのは間違いない。


 例外は僅かにいるが、それでも彼の言葉が届かなかったのは間違いないのだ。


「子供に語る親の言葉を、なんで親の側が一番信じられんのだろうね。だから誰も信じないのか、誰も信じない言葉だから、そりゃ絶滅寸前の死語だがよぅ」


 その言葉を言えば嘘つき呼ばわりされ、綺麗事を言うなと言われ、なにを言ってるのと無理解と言う理解されるだけだ。

 正しい言葉が正論であるなら、本来も正論として語れる理想論である言葉は、人の生き方そのものによって否定され続ける。

 だが結論として誰一人まともに信じもしない言葉を、言って聞かせるのが大人と言う形だ。その言葉は所詮妥協なのだろう。どうせ果たせもしないただの理想でしかないのだろう。


 それでも言って聞かせた大人は、そう言う事を出来る人間である事を子供達に望むのだ。

 自分が出来なかったことだ。自分が結局果たせなかった言い訳だ。諦めたから、諦めない何かに縋っているのかもしれない。

 だが誰だって、出来もしなかったことを無茶振りされて頷く訳がない。


「口が開けないってのは最悪だ。言葉が返せない。あいつを俺達は止める言葉が出なかった」


 しかし現実にいても扱いは所詮彼以下は存在しても、彼以上にはならない。

 この言葉を嘘にしないには、どんな状況でもいい変わらない必要があるだけだ。無理だと言って逃げ出さず、嘲笑に耐え切って、何があろうとこれが間違っていないと言い切る事が出来なければ、どうあったって所詮口だけに変わる。


 だからこそ、妥協が出来ないのだ。

 一瞬でも諦めれば、一瞬でも一方後ろに下がれば、やっぱりと言われるだろう。その言葉はその瞬間から嘘になり、虚言以上ではなくなるだろう。誰も信じてくれないが、それを続けなければ、本当の意味でその言葉は嘘になる。


「諦めないってのああ言うのなんだろうな」


 目の前にあった言葉の意味が、今ようやく突き付けられた気がした。

 彼が居なくなってからの方がその言葉は重い。歩けなくなり、まるで足がきしむような感覚に陥る。

 自分が目指そうとしていたヒーローの形が、遠い事の意味が理解させられる。将軍は昔からあんな風になりたかったのだ。病に散らされる命を救う為に、だがその為に自分が行った外道が、彼をその場所につれてこない。

 彼はどうにもならなかった命を救う為に、命を使って、次の命を救ったが、そんな風にはなりたくなかった。もっといい方法があるとしても、彼にはそれ以外の方法を思いつかなかった。


 だからこそ綺麗事を押し通す男に憧れたのだ。自分が成れないから、いや成れないと思ってしまっているから、彼は一人のヒーローを助ける事で、奪った命の代償行為を行っていた。だが、彼の言葉は、彼の行為の意味を全て否定していた。

 あんたの様になりたいといった時に、ヒーローは自分達にあの場所に立つ事を求めたのだ。


 拷問でマシだ。それは自殺か、自分に凌遅の限りを尽くすような暴挙である。

 彼はまだ救える方法から、何もかも救えない方法に変えるような行為を、彼は強要して実行させている。だが、簡単な言葉だからこそ、その重さが必要でもあるのだ。

 確かにその言葉には希望がある。その言葉には救いがある。だが使う人間は救いようがないほどその言葉を否定する。


 綺麗事と馬鹿にする人がいる。だがこれは、綺麗事一つ守れない自分を恥じるべきだ。

 子供に言い聞かせるような言葉すら守れない自分を罵倒するべきだ。

 そもそも彼の言葉を否定する事を当り前に行う世界を、言葉を知る人間立ち恥じるべきであった。

 

 子供の理屈、世界はそんなに甘くない。

 だがそれは「違う」のだけは間違いない。その言葉がなくなりそうになる事が、そんな事が起きてしまう世界に作り変えてしまった人間の生活環境を恥じなくては行けない。

 当たり前過ぎる言葉だからこそ、意味が変わって伝わって行く言葉だったのかもしれない。後の未来には、その言葉は嘘吐きの言葉として扱われているかもしれないのに、それだけは許さないと彼が言う願いは、たった一人の男の所為で移ろわずにそこに楔として刻まれていた。


「な、聞こえてるかヒーロー。あんたが言う言葉って、何でそんなに簡単な言葉なんだ」


 残っているのはそんなものだった。

 彼のいない場所に残るのは、彼が消さないとい決めて、間違っていないのだと言い張っている物は、誰もが聞いた事があると言える代物なのだったから、将軍は動けなくなってしまっている。

 簡単だからこそ届かない。そう言う内容の物だったのだ。だがその言葉を聞いて将軍は、彼から一歩退いてしまった。それが成りたいと決めたヒーローの決意を聞かされた対応だった。


 届くわけないと、彼は諦めてしまっていた。

 言葉は重かった。それ以上にまるで壁のようであったように思えた。


「もっと難しい。いや高尚なもんでも言ってくれよ。俺達にそれは無理ろう。無理に決まってるだろうが」


 握る拳は強くなり、何も掴む事の出来なかった将軍の拳は白く染まる。

 手助けをしたいと考えた。だが彼が望むのは拷問のはてにあるような地獄であり、きっと成し遂げる事の出来ない場所であった。

 彼の隣を歩くように、自分も救える側になったと思っていた男は、自分の罪状によってその場に踏み込む事が出来ない。


 人殺しは残る。彼の言った言葉はこう言う風にして、毒となって彼を苛んだ。

 残り続けるその証は、彼の言葉を停止させて、行動を諦めに向かわせる。後悔をしながら行った行為だが、それで救えた命があったのも事実だったのに、彼はそれを認める事が出来ないから、自分の居場所を後悔で阻んだ。


 残り続ける事実は、まるで綺麗な言葉を汚さないように、ただ立ち止まる事を自然に行ってしまう。


 悔しかった。自分が成りたかった場所を、誰でも無い自分が否定している。

 有り得る訳がないと、なりたい筈の言葉を彼は認めずに、首を振り、震える子で感情を乱し続ける。

 自分にわきあがる屈辱とも思える感覚に、自然と力が入るっていく。


「なに一つ不純が混じらない言葉ってなんだ。そんなものが合ったら、そんなものが合ったら」


 だが感情と入り混じったその言葉は、ゆっくりと力がないものに変わっていた。

 彼の言った言葉が、いや言い続けていた言葉が、自然と将軍の頭の中から声となって響いたのだ。体を冷たくするほどに響いた頭からの言葉は、彼の行動のすべてを止めてしまった。

 将軍は眼球が毀れるのではないかと思うほど、目を見開き体を小刻みに震わせる。今までのように感情を抑えるための力みじゃない。


 純然たる恐怖の為だ。


 知ってしまっている彼の言葉。将軍は理解しながら理解できなかった男の言葉を、自分が吐き出した言葉で理解させられる。

 その事実が怖かったというよりも、何であんたはそうなるのだという無理解から来る感情であった。

 何でそれを選んだと彼は問いたい。何でそこに行き着いたのだと声を上げたいが、彼には彼が分からない。


 確かにその言葉はもうなくなった代物だろう。彼以外がその言葉を使うことはいつの間にかなくなっていた。気恥ずかしさじゃない。言葉だけなら残っているだろうが、それを守り続けようとする人間はもういない。

 たとえるのも無駄だ。

 結論として、その言葉はもう死んでいる。人の善意を信じる言葉で、人の誠意を信じる言葉で、きっと当たり前であったはずの言葉だ。

 

 この言葉が死んだといって納得する世界こそが、すでにまともの世界ではない証明だ。

 この世界はそこまで落ちぶれている事実に、将軍は恐怖を抱くしかなかった。まだ「ある」のに、その言葉の意味は死んでいる。

 だから都合のいいときに使われる都合のいいだけの言葉に成り下がった。


「なんだ。なんだそりゃ」


 将軍は呆然となる。

 体中が凍りつくようになって当然だ。

 

 協会のヒーローたちは諦めた。そして怪人たちも当然諦めている。自分がどちらもの証明になれるのは、どちらの組織も見た彼だから気づけることだ。

 誰もが何かを救おうとしている。本当に誰もが何かを削って、何かを救おうとしているのだ。そんな人間ばかりがいる世界だというのに、その言葉を使うことはなくなった。


 そこまで世界は追い詰められていたのだ。

 きれいごともいえない世界にまで貶められていた。


 だからヒーローの言葉に身を震わせるしかなくなる。

 なぜならその男が言っていた言葉は少し違うのだ。


「もうとっくに、あんた以外まともに使ってない言葉だろうが」


 その言葉はとっくに終わってしまっている。その言葉はとっくに消えている。

 だがそれを消さない一人の所為で、まるで世界には救いがあるかの様に見えてしまっている。彼が見せてしまった救いという名のひとつの形は、理想論と綺麗事の集大成に過ぎない。

 ヒーローが語り続けていた言葉は、世界には絶対に救いがあるという希望をのたまう事だ。


 もうない。もう誰にも届かない。もう何も残らない。


 でもそれを認めないヒーローの言葉は、だからこそ将軍に響いいてしまった。もう誰も言わないからだ。もう誰も語らないからだ。この世界になくなった希望を、誰にも否定させない為に、そのヒーローが言い続けていた言葉の意味は、この世界でもっともシンプルな内容に過ぎない。


 その癖に、自分を含めてぐるりと見回した世界に、その言葉はどこにも無くなっている。


 消化されてなにも火種にならずに崩れ落ちていく場所は、その理想論を語り続ける彼には、きっとディスとピアにしか見えないだろう。その中で一人伝道師のようにつぶやく姿を人はどう見ているのだろう。

 彼を救世主と見るのか、それともただの妄言吐きか、依然彼の言葉は所詮後者に位置する代物だ。


 それでも、それでも、それでも、それでも、そう何度も繰り返す。


「無理だ。絶対に無理だ。無理だよヒーロー、そりゃ無理だヒーロー、だって結局あんたしかその言葉を守れる人間いないんだぞ」


 だが同じ様に、その言葉を否定する言葉が、彼の「それでも」を超える数の「無理」で否定する。

 現実を見て無理だと分かっている。何があっても不可能だと理解させられる。

 けれど将軍は、ヒーローを見て、見てしまったから、無理だと言いながら、無理だと否定しながら、否定しながら……それでもと。


 それでも……と、それでもだ。


「信じてぇよ。信じたいんだ。でもそれは、それは、俺には信じられない」


 なんだと、誰かが笑う。結局は、いや元々か、よかったじゃないかヒーロー。

 鼻で笑う侮辱が、誰も言わずとも響く。彼の決意に賛同したはずのかれらも、それでもと言いながらも、そこにたどり着く事が出来なかった。

 なら彼は結局そのままだ。彼は一人のままだ。ならどこかで誰かが言った言葉はそのまま代わらないだろう。


 ヒーローは孤独なまま、誰にも理解されないままだ。


 しかし何度も繰り返そう。


 それでもだ。


「信じたいんだ」


 それでもと、将軍は思う。それは彼だけじゃないだろう。

 その言葉は絶対に間違っていない。かなえられるなら世界平和だって出来るかもしれない力を持つ言葉だ。

 だから信じたいのだ。

 子供たちを連れて行く笛吹きのように、自分たちを破滅に追いやるような思想かもしれない。それでも絶対にいえるのは、そこには希望があるのだ。そこにはきっと救いが必ずある。


 そんな言葉を将軍は信じたかった。


 みんな仲良くなんて、そんな陳腐な言葉を叫び続けるヒーローの願いを誰もが信じたかったのだ。


 


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