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これもある種の異世界交流?  作者: 斉藤さん
一部 世界門
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一章 怪人は元医者志望

「断言しよう血袋の剣、君は望むものを生涯得られない」


 二年前に彼はA級保護指定ヒーローによって運命を告げられた。

 彼はそれを当然として受け入れたが、今でも彼の言葉は、骨髄にいたるすべてに刻みつけられている。

 茨か鎖の様だと、その言葉を思い返しながら自嘲する。ヒーロー認定の際の事だ、光り輝く一歩目で彼は挫折した。


 世界を救いたいなんて考えた事も無い。目指すのはすべての存在を笑顔にするヒーローだった。

 「だった」などと語ったが、彼はまだ諦めてもいないが、やはり未来を予言しうるヒーローにそう断言されれば、呪いのようにその言葉は体にまとわりつく。


 上半身だけ持ち上げて、清潔感のある病院の一室で彼は、また失敗したのだと俯いた。また誰もが戸惑い、狂乱の状況が浮かび上がっていた。

 最低限しか使いこなす気の無い力であるが、その状況下でもC級以上の力を持つ彼の特殊能力も、怪人とて殺したくない為に、力を使う事にすら体が震えてしまう。

 拒絶反応としか言い様がないが、それでも彼は人を傷つける事が恐ろしい、それが人を笑顔にする事なんて無いと彼は知っている。


 誰かを傷つけた代償で手に入れる笑顔は、いつだって演劇の笑っているのではなく傷つけられた存在を無視しているだけの侮蔑に過ぎない。

 だから彼は力による解決を厭う。それは最も許されざる短絡的思考だと、言葉を使った解決こそが信条であり、それ以外の手段を使うヒーローを平気で俗物と言って罵倒する。


 今回はなぜか運がよかった。

 力を使わず相手に理解してもらった。少なくとも彼はそう考えているが、自分の命を使って脅し取った成果である。

 実際は力で拘束しようと考えていたが、彼の能力は血流操作と言うがその中でも、攻撃に特化しすぎている。


 血液の一滴すらも刃に変化させる特殊症候群。かつて力を図る際に、B級の宇宙大将軍(ロボ・全長八十メートル・幕府パワーを使って日本を守る・幕府侍イエヤスンの召還兵器・侯景じゃない)を両断するほどの力を持つが、制御が一切利かないのである。相手を傷付けるどころか、殺してしまいかねない力を持っている。

 防御関係に関してはお粗末で、出血多量では死なない以外の性能は、E-級と言うしかない。


 もっともだが彼がそこに甘んじているのは、その暴力的な力を一切行使しないからだろう。

 実際力を立てに脅すしか、彼の現状の解決能力は一切無い。

 その類稀なる力を使う事にすら躊躇う彼は、血袋の剣と呼ばれながら、罵倒の中で巌のごとく立ち尽くしている。

 そんな彼が永遠に刻まれる劣等感にも似た傷は、予言を行い世界を守り続けるA級のヒーローによって崩れ落ちる。


 体内にある剣、血袋の剣とはそういう意味だ。


 ただ中にあるだけでの剣は、持ち主を傷つける事はあっても、抜く事も無い、一度抜き去れば己の命を代償にするような代物である。

 予言のヒーローがかの未来に何を見たのかは分からないが、彼に残るしこりはただ月日を重ねる中で大きくなっていった。


 それでも今回の戦いは、彼の中で少しの満足があった。

 自分以外は傷つかなかった。周りを困らせたかもしれないが、誰一人として怪我をせず、怪人達も改心する可能性を得た。

 間違っていなかったと、心から自分の歩いた方向性をまるで自分が何かをつかんだとでも言うように、握りこぶしをジッと見つめる。


 なにがだ預言者と、一つ掴んだじゃないか、笑顔には出来なかったかも知れないが、それでも一歩進めたと、彼は卑屈な感情を表しながら、予言を捻じ曲げたとでも言うように笑って見せた。


 たしかに言うとおりに何も成し遂げてはいない。

 望んだもの物も手に入れてはいないが、確かに進んだ場所に何かを彼は手にしたと思った。


/2


 そう言えばだが彼との二回目の出会いも中々にふざけていたと思う。

 それをたった二行で表すならこんな感じだ。


 お見舞いに行った。

 そしたらまた怪人に捕まった。


 ちなみにだが私を捉えたのは医療促進系悪の組織 平等医療の会、全ての人々に平等な医療を与えると言う理由で、保険などの制度のある国に攻撃を仕掛け、恵まれない国の水準に医療の基準をあわすと言う本末転倒なる理由で結成された組織である。


 本来は宗教系の法人だったものが、なぜかこういう方向性に変わったのは、教主が重度の薬物中毒者で、日本の薬物に対する規制緩和をもくろむ理由で作られたらしい。

 政治家にでもなれ、誰かそう言ってあげれば良かったのにと思わないでもないが、結成理由から絶望的に下らな過ぎるが、無駄に有名な宗教法人だったらしく、信者やら薬物を資金源にする組織から支援を受けるなど、無駄に資金元だけは豊富な組織であった。

 この無駄なシビアさが、ヒーローがいなくならない理由なんだろうけど、ヒーローなんて言葉が一般的になってるんだから、もう少しと思わないでもない。

 

 E-なんて組織は基本的に、警察か機動隊ぐらいが出れば解決できる程度の問題だから、本質的には人類の犯罪程度のものだ。-が抜ければその瞬間から、人で太刀打ちできないものに変わる。

 だが一般人の私からすれば、どんな状況であろうとも結局は変わらない。恐怖でしかないのも事実だ。このときも頭は真っ白になっていたと思う。

 だが私は運が悪かったじゃすまない。何で二日続けてと、自体を飲み込めないままに、状況に名がされていた。


 しかも以前のチンピラ怪人じゃない。こちらの組織は人を殺せる組織だ。

 私は声を震わせながら何度も何度も助けてと声を上げていた。今思えばこの発言がそもそもの問題だったと思う。

 私に救いがあったのは間違いないが、その経過を考えても絶対に感謝より驚愕が先に来ていた。


 「まかせろ」なんて声が私の頭の上から響いて、何か不思議な衝撃で私は怪人の手から床に飛ばされた。

 二階から飛び降り怪人に飛び掛るのは、入院服を着たヒーロー。顔は青あざが目立ち、飛び降りて怪人に体当たりを決めた所為で、足と腕の骨を折ったのが私を助けたヒーローである。


 彼の体当たりで確かに私は人質から解放されたが、彼のほうがどう考えたって重症だ。


「大丈夫だったかい」


 腕が逆に曲がっている奴から心配された私はどうすればいいのだろうか。

 いまだに私はその解が出せないでいます。

 しかし足が折れては立ち上がる事も出来ない筈なのに、彼は立ち上がって見せました。

 明らかに逆方向に曲がった足で立ち上がったのです。

 骨が足から突き出ているので、見る私側にとっては、ひどいグロ画像でした。貧血になって倒れそうになるぐらいには、本当にひどい傷になりました。


 その傷に彼は顔色一つ変えていませんが、むしろ医療促進系悪の組織だけあって、怪我などにはそれなりに気を使うのか、怪人は心配そうに質問を投げかけます。


「お前のほうこそ体のほう大丈夫なのか」


 正直に言えば、体よりも頭のほうが大丈夫なのかと言う気分でした。


「これは、これは親切にどうもありがとう。だがすまない、緊急の為とは言え体当たりをしてしまった事を陳謝する」


 怪人に謝ったヒーロー生まれてはじめてみたよ。

 と言うか心配しちゃしけないと思うんだけど怪人側も、いや確かに完全に足が再起不能になっているのに、そんな言葉を発する彼にはだいぶ問題があるとは思うけどさ。


「いや、そこは立場的に仕方ないだろ」


 絶対に怪人側はフォローを加える必要は無かった。どこかの営業みたいな会話だなとか今になって思う。


「暴力なんて、するべきじゃないんだ。こちらに非がある時は、きちんと頭を下げるさ」


 もっと、絶対に、言うべき言葉は、あったと思う!!


 いい事言ってるけど、あなたと相手には、絶対的な隔たりがある。だがなぜか相手は感銘を受けたのか、そうかもしれないとか頷いているから、両方同レベルなのかもしれない。


 しかし怪人は、まだ怪人としてのプライドがあるのか、武器を抜きます。

 一瞬にして緊迫とした空気に変わるけれど、そして同時に彼はまた手首にナイフを当てて、また場が変わった。

 確かにそれは立派な武器だけど、天丼はさすがにお断りだ。



「お前は……」


 けど怪人は愕然として武器を地面に落としてしまいます。

 彼と怪人の間にいったい何のコンタクトがあったのか、私にはまったく理解できません。

 (頭の構造が)違う世界の住人なんで仕方ないのですが、いったい本当に何がおきたんでしょうか。


「なぜ命を粗末にする。そうやって今までこなしてきても、これからには」

「いつだって命がけで相手と向き合う事を忘れたら、ヒーローは作業になるじゃないか。粗末にしてるんじゃない、初心を常に忘れていないだけさ」


 いい事を言っているのに、なんだろうこの不一致な会話は、絶対どちらもがずれてるって断言できる。

 怪人は困った顔をする。もしかしてだけど、上はゴミでも下は高潔とかそういう類の組織なんだろうか。


「医療の促進を願う組織が、必死になって人を助けようとする人間を殺せるわけが無いだろう」

「それでも、それでも、傷付けようとするんだろう。そうしてでも成し遂げたい事があるから、その願いはきっと間違っていないのかもしれないけれど、こっちはヒーローだからね」


 向かい合うヒーローと怪人。

 緊迫しているはずなのに、私には違和感の塊に見える。


 もしかしてだが、もしかして、ボロボロになっている(自分の所為)が、戦えない代わりに、自分の命一つでここは収めてくれと願っていると勘違いでもしてるんだろうか。


 私の予想通りだったらどうしよう。

 過去を思い返しても、私はこうだったと確信できる。彼の手首の躊躇い傷は、後々のことを考えれば自分が人を傷付ける事実に怯えているだけだ。けれどそうやって傷付ける行為自体が、どうしても信憑性を持たせてしまったのだろう。

 ふっと怪人は笑って、両手を高く上げて降参のポーズをとった。いやとるな。


「負けたぜヒーロー。その意地っ張りな根性をこっちは砕けない。あんたみたいなヒーローばかりなら、俺も怪人にならなくてすんだんだ」


 私が知る限りチンピラに一撃でノされた唯一のヒーローですよ。


 などと言う私の心の声は届くわけも無くヒーローは、「よかった」と、言いながら地面にばたりと倒れます。

 そりゃ足折れてますもんね。しかも骨突き出てますし、いろいろと肉体的には大問題ですし。

 この状況に少しずつなれていった自分に違和感を持たず。怪人も逃げる事も出来たにも関わらず、彼に蘇生系の能力を使って骨などを治しているが、警察に拘束されるときも、目の前のヒーローに感謝を伝えてくれと言っていた。

 いったい何に感激したのか私には理解できないが、きっと彼らの間では心を振るわせる何かが起きたのだろう。

 私は恐怖で体が震えたぐらいだが、きっと何かあったのだ。


 これから先の驚きを考えるなら、あの怪人がA級保護指定ヒーローになって彼の前に現れる事実の方が異常事態だったと思うが、それはまだ少し先の話だ。



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