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これもある種の異世界交流?  作者: 斉藤さん
二部 ワールドエネミー
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二章 ヒーローに本気なれると思っているの?

 新たな事象核同士の体面が協会で行われていた頃の話だ。

 世界門の発生から、世界の天敵と名づけられた組織の設立に至る三日間を知る者達は、未来において最も予想の出来ない変化を起こした三日と言った。

 そして最も協会が失敗をした三日とも後に言われる事になる時間であった。

 世界は取りあえずの均衡を保ち、悪の組織などの暴走も無く協会の懸念していた最悪までは訪れる事は無かったが、現場ヒーロー達として雇っていた元怪人ヒーロー達の逃走や、存在し得ないはずの二重能力者の話など、混乱する情報だけは矢継ぎ早に報告として上げられ続けていた。


 更に民間人などの混乱を収める行為や、もう一人の事象核に対しての対策に、マスコミ各所の説明に、世界門から現れてしまった生命の処理など、やる事だけは多岐に回り、これが彼らの失敗となる原因の一つとなる。

 彼らの行為自体はなんら問題は無かったが、正解ではなかったのも事実であり、彼が作った組織の話を聞かされたときは流石に、上から下まで大騒ぎになり、本当に協会の機能が麻痺してしまったほどだ。


 それがそもそもの大間違いだったのだ。

 彼らがするべき行為は、粛々と戦力を整えて、圧殺する事だけだったが、協会の一割にも及ぶヒーローが、彼の方に付いただけならまだマシで、そこにはちらほらA級ヒーローの名前もあった事も一つの問題だろう。

 その全てを隠蔽する為の努力と、戦力確保の余裕が彼らを縛った。


 結果として、一つの組織が出来上がる余裕を作ったのも事実だ。

 だがそれだけの激震があっても、その組織が地名的な欠点を抱えていたのも、隠しようの無い事実だったが、今はまだ不気味に見える異様な存在感だけが目立っていた。

 たった三日の経過で、その全てを安定に持ち込んだ協会の上層部の実力は確かなものであったが、敵の行動力は彼らの上をいった、これはそう言う話である。


 更にそこから三日が経過したが、彼が作り上げた悪の組織が不気味な事を上げれば枚挙に暇が無い。

 何度かの襲撃で誰も死なず、それだけならまだ協会にとっては厄介で済んだが、もう一つの行動は看過出来るものではなかった。


 彼らは次々と悪の組織を吸収して行ったのだ。

 これがどれほどの衝撃を協会に与えただろうか。それで無くても戦闘力とすれば、それで無くてもヒーローの一割を掻っ攫っただけの事がある戦力を持ち、事象核すらも手にして居る悪の組織が、他の組織を吸収して行っている。

 流石の協会上層部もその事実を知った時には、天を仰いだと言う。


 冗談じゃないと叫んでも、彼らの戦力が増えていくことには変わりは無く、B級とは言え、ヒーローの鍛え方を知っている者達が居る以上は、その組織はゆっくりと確実に力を付けて言っている事だけは、遠目から見ようと周りから見ようと理解できる。


 だがまさか、それが首領と集積機が出歩いて勝手に起きている事象だと誰が気付けるだろうか。

 例え彼女の能力がそうであったとしても、彼らはそうは考えられない。

 なにせその二つの組織の関係は、悪の組織と正義の組織だ。多分だが最も矛を交える事になるだろう言葉から作られる組織は、その存在肯定的になんて見られる筈も無い。


 少なくとも有史以来、その言葉が矛を重ねなかった事は無いのだからどうしようもないのだ。

 どちらが悪だって構わないが、例え行いに悪意が無かったとしても、完全に二分化された関係同士が、その行為を見ればどちらだって疑心暗鬼になるのは当然だ。

 悪の組織が故も無く、他の組織を取り込む現象に納得を付けるのならば、それ以外の結論が出るわけも無い。


 ただ存在するだけで対立し合う関係が彼らと彼らの関係だ。


 それが引き金になる理由も当然だが、それを正確に読み切ったところで彼らがする事は、悪の組織の殲滅以外にありえないのだが、その結論に至るまでに彼らは、自分達が最善だと思う行為をしながら大失敗して行く。

 だがそれは、悪の組織である彼らにも言えることだ。

 彼らは、この行動が不透明な時期に、協会に対して何らかのリアクションを見せる必要があった。宣戦布告でもいいし、一時的な停戦要求でもいい。


 どうにかして彼らを止める必要があった。

 史上最高の暴力機関である協会の力を止める術が必要であったのも事実なのだ。それをしなかった事が、彼らにとっての最悪の失態。組織設立から一週間で、他の組織との停戦交渉をすると言う発想自体が、異次元過ぎる発想だが、それでもその発想をする必要があった。

 だがそれを望むのが無茶苦茶であるのも事実ではある。


 失敗にはいくらか種類がある。だがそれも大きく分けて二つの失敗がある。

 一つは補填の聞く失敗、そして取り戻すことが出来ない失敗だ。

 そして協会は前者であり、悪の組織のそれは後者である。だからこそ、彼らの失敗は致命的なものであると断言する必要があるのだろう。

 悪の組織として、彼らの選択は間違いなく失敗だ。力を付けるまでの時間が、彼らには必要であり、協会に二の足を踏ませるだけの力を確保する必要があったが、その可能性はもう潰えた。


 現状の不安定さの中で行動出来なかった。組織としては当たり前であったが、混乱時に無理矢理に約定を一つねじ込めばそれだけで、正義と言う大義名分を抱えているからこそ重く圧し掛かる。

 彼らは、約束を敗れない。正式に契約した悪の組織との関係を切る事が出来ない。それが組織としての協会の欠陥であるが、もう不必要なほど警戒された悪の組織は、ただその存在の不気味さだけで一時的な均衡を保っているだけである。


 それによりにもよって組織で最初に気付いたのは彼だったが、そのときには既に遅しと言う奴であり、協会から門前払いを食らうことになる。

 誰よりもそれを失態だったと、感じて居た彼は顔を蒼白とさせ俯いた。まだ一人でヒーローをしていた頃なら間違いなく彼はそれをねじ込みに行っただろうが、首領と言う立場が彼の足を重くさせ、不必要な思考を増やしてしまった。

 そしてなにより、周りが彼が居なくなる事を拒否する。


 この組織に置いて間違いなく彼は置き物だが、同時に組織と言う形を作るために必要な蓋でもあった。彼の理想によって立ち上がった者達が、彼の死を何より拒絶し、逆にそれが彼の歩みを緩めていた。

 多分だが彼は、ヒーローが孤高である理由を教えられただろう。

 余分を持てば、それが彼らの足を引っ張る。組織としてヒーローを続けるには、この歩みこそが彼にとってはもどかしく感じるかもしれない。


 だがそんな風な重さが彼を救っていたのも事実だ。

 一人じゃないと言うだけで、遅くなった歩みの変わりに、広げられる手が増えたのだと感謝した。全てが全てマイナスであった訳ではないが、それでもこの失態は大きいと彼は予測する。

 何よりの問題は悪の組織の人間だった彼らには、絶対に気付けないないようであり、彼だからこそ気付けた内容であった事が、彼の焦燥を悪化させていたのである。


 協会と言う世界に属し続けた彼だからこそ、その組織の欠点を見切れていた筈なのだ。

 無論これはたらればの話であり、普通あの混乱のした状況でこれに気付けという方が無茶苦茶に近いが、無駄に責任感が強い彼は、勝手に気付いて勝手に自爆した。

 組織の設立からきっとこうなると分かっていたのに、それでも設立の混乱で気付けなかった自分に、絶対に後悔するだろう自責の念が彼を縛って行く。


 ヒーローなら気付けないはずが無いと、彼はそう本気で思っている。

 目指すところだけは、大気圏を超えるのが彼だ。その理想の高さが彼を傷つけ続けるだろうが、その無駄に高い志が周りを引き連れているのだから、トップの人間として彼は、部下の前ではその歪んだ表情を隠し続けた。


 嫌われるのにはなれていたが、好かれて信頼される現状は、心地よいものであったがそれに伴う責任を彼は思いと感じていたのも間違いでは無いだろう。

 必死になって笑顔を作り、馬鹿の様に理想を語り続ける。部下はそれに習うように、自分の知っている悪の組織に渡りを付けて力を付けていく。それが少なくとも設立二週間の流れとして存在した。


 人生を開拓に例える人が居るが、そう言う意味では彼は道を切り開く人なのだろう。

 ただ道無き道をある居て道を作り、後に歩く人の為の導を作る。だがその本質があっても、これから先の予想は間違いなく地獄である事は間違いない。

 彼は世界に優しいが、世界は万人に厳しいからこそ、生物は生きるために足掻き続けているのだ。


 老子の言葉で言うのなら、きっと彼は魚を上げる人であり、釣りを教える方では無いだろう。

 元々ヒーローとはそういうものなのかもしれないが、それでも彼は自分を責め続けるだろうし、これから先も、自分の行動に後悔し続けるだろう。

 命を預かる側になった時に、彼は自分の信条が毒になるのを知っている。何せみを持って経験していたのだから当然だ。


 何度病院の世話になったか、それだけでも分かるだろう。彼の理想は最低でも自身の流血を伴うものであり、それを他者に強要するのは、行為だけで確実に暴力に値する暴挙である。

 彼もそれは分かっている。分かっていて、協会に対して悪の組織の草刈場を作ったのだ。正確には草刈場を作ってしまっただが、情報を冷静に分析し、戦力や彼の思想を理解して、協会がその組織を潰そうとする時に間違いなくそれに変わるのだ。


 ヒーローに成りたかった。誰もを笑顔に出来るヒーローに成りたかった。

 彼の生きる理由でありながら、その言葉を振り返った時に、随分とはなれた場所に居る事を自覚するが、それでも今の現状を彼は理想だったと思っていた。

 殺し、殺されをする世界ではなく、少なくともこの組織の中では、色々なわだかまりがあるにせよ、誰もが手を取り合って生きている。これが彼が協会に求めた理想であり、そのための努力をしてきたはずだった。

 成りたいと思う。今だってずっとだ。


 彼は簪が救った自分の姿を知っている。振り下ろした殺意を必死になって受け止めた簪。

 止めなよと必死になって自分に語りかけ、諦めたはずの自分を必死になって説き伏せた。


 彼は忘れられない。


 ―笑おうよ。泣いているより絶対楽しいよ。


 ただそれだけの言葉だった。それまで彼は笑った事も無い、ずっと父親に脅えてうずくまって耳を塞ぎ続けていた。母親を殺したと罵られ、殴りつけられる事で父の気が晴れるなら良かったと本気で思っていた。

 だがその生き方が無駄であると彼女は教えてくれた。護衛対処だった彼女は、後ろ向きに考える事を止めようと言ったが、二人していつでもしかめっ面をして生きて行く事を止めようと言ってくるが、無理だと彼は首を横に振った。


 前向きにと言われてもと、今の現状でそんな行為は許されない。

 周りを笑顔にしたいだけだと言うのに、一体どこで間違ってこうなるのかと思いながら、あの日の簪のようには、簡単になれないのだろうと溜息を吐く。

 あれがヒーローの理想と言われながら、本人は誰よりも遠い場所にいると思う。皮肉な話であるが、彼はただ諦めること無いから、その度し難い己の感情に吐き気がした。


 自分が出来もしない事を他人にも止めながら、それによってきっと命を落とす者達が居ると知っていながら、その男は自分を曲げる事が出来ないから、協会に脅えるように身を竦めて、誰も居ない一室で助けてくれよと呟いた。

 なんども助けてくれと、助けてくれと、彼は確かに誰かに望んでいた。


「助けてくれよヒーロー」


 その願いが聞き届けられるわけも無い。

 誰もが信じる一つの完成形である男は、その全てから逃げるように、自分と同じ存在に助けを求めるが、それがかなえられるわけが無いのだ。

 誰もが諦めた道に挑み続けて、誰よりも先の道を行って居るのは、他でも無い彼であり、誰もが彼以外に、その称号を渡す事は無いだろう。


 憧れ続けて先に進んでいる存在が彼しか居ない道なのに、どうにもならない現実の壁に、隠れて彼は潰され続けていた。

 どうにもならないのに、どうしようとも待ちうける現実を知っているのに、彼らは間違いなく追い詰められ続けていたのだ。協会は甘くない、協会は弱い訳が無い、その中で彼は手にしなくては行けないものがあるのに、どこにも届かない。


 彼が説き伏せなくてはなら無い者達は、世界崩壊を食い止める為なら、彼の戯言を聞かないために鼓膜の一つでも潰すような存在であり、彼が今まで一度として説得が出来なかった意地っ張りばかりなのである。


 そんな彼らをどうにかする事が出来るのかと彼は自答し、結果は分かりきっていた。


 自分の信念を歪められない彼が、自身を説き伏せる程度には、彼の言葉は協会に届かないのは、確定した事実として彼に刻まれている。


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