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これもある種の異世界交流?  作者: 斉藤さん
一部 世界門
12/32

終章 介錯娘は欧州で最も評価されているデスメタルバンド(平均45歳)

 彼はどうにもならない状況を打開する時間を造る為に逃げていた。

 状況の全てを台無しにする為に、ちゃぶ台を返す機会を探し出す方法を模索しようとしていた。

 などと言えば聞こえはいいが、彼は現状でなにをしていいか分かっていない。


 そもそも頭脳労働が出来るほど彼は、お頭の出来はよろしくなど無い。

 現在は事象核の一時的な覚醒により、捜索の手を免れる事は出来ているが、守るべき存在は能力を掌握しきれていない。

 だからそれにも限界点があるのは必定だ。


 逃げ出してから、どうしたもんかと頭を抱える彼だが、した事自体には後悔は無い。

 むしろあるのは状況を未だに理解出来ていない彼女にある。


「結局私はどうなるの。殺されてあげたくは無いけど、どういう理由でこうなってるのかさっぱりなんだ」

「ああ、そりゃそうか君は知らなかったか。大雑把に言えば、君は今世界で四人しかいない世界を滅ぼす力を持つ存在になったんだ」

「それ自体は分かっているけど、どうして私なの、どこにでもいるような中流家庭の長女ってだけ、あとは最近能力が発覚したけど……も」

「その能力だよ。その能力の本質が、君をこちらの世界の根幹ともいえる力になっている。君は自身が持つその能力で悪の組織ではなく、異世界を引き寄せるだけの素養がある」


 どこまで労働組合が狙ってやったかと言えば彼にも分からない。

 彼らは世界を切り離す力として彼女をつかったようだが、その方向性が正反対だったからこそ、あのもんが現れたのだろう。

 きっとあれは自分が考えている以上に厄介な門であると彼は考えている。


 かつて世界がつなげられた亀裂とも言える場所に、世界の質量を引き寄せる存在を持って行ったのだ。

 亀裂は穴となって、世界は穴から別の世界に繋がった。

 異世界との距離は更に近くなり、世界と世界が重なり合うのも、次の事象核次第とも言えるかもしれない。


 天秤がどちらかに傾けば、世界は本当に終わる。

 そう言う意味では、目の前でなにが起きてるかまだ理解していない彼女の命次第で切り離せるのなら解決の為に処理をするのは確かに正しい。

 一人死ねば天秤が変わると分かっている状態で、可能性を得たい情彼らは間違いなく動く。


 この逃避行も結局は失敗で終わる算段のほうが高い。

 そんな事も理解は出来ていた。今はまだ可能性があるだけに過ぎない。ここからなにをするか、ここからどうして状況を覆すかを考えなくては行けない。


「私の能力っていわれても、どうにもならない部分だよそれって。自分でも制御出来ないし、勝手にあっちが私を使ってそうしただけなのに」

「はっきりと言って運が悪かったと言うしかない。だが、死にたく無いなら動くしかない状況にまで陥っているなら、どうするか分かるだろう」

「知らないよ。貴方はなんか圧倒的な精神力ありそうだけど、私はどこまで言っても普通のか弱い女なの、私の出来ることも、考える事も、全部、全部」


 実際彼のように良くも悪くも覚悟の決まった男ならともかく、普通は戸惑って当然だ。

 貴方が死ねば世界は救われるから死んでくれと言われて、はいそうですかと言える人類がいるかと言えば不思議だ。ただ数という名の暴力によって、諦めと言う感情で末期まつごを迎えるのが限界だ。


「私が出来る事なんて、あのふざけた連中の顔に拳を入れてやる事だけ、それ以上は、流石にそれ以上は出来ないに決まってるじゃない」

「は、はぁ……えっ」


 いや、まてよ。流石にそれは危機間違いだろう。


 彼の心の言葉そのものだ。だが言ってる。彼女は超言ってる。なんか殴るって言ってる。

 目を丸くし、口をぽかんと空ける。彼の行為としてはその程度だ。だがシャドーボクシングをやり始めて、力で適わなくてもせめて一発ぐらいといきまく彼女の姿を見て彼は愕然とした。


 今からの追及を考えれば、いやその前からの浴びせられる罵倒ですら、彼女は何故か気にしていない。自分が世界を滅ぼす存在と言われて、ただで殺されるかといきまく姿は、彼にとっては予想外だった。


 勇ましいと語るより、脅える感情が一切無い。


 彼ですら脅え、すりつぶされる現実を考えた。あちらが正解に限りなく近いと知っていたから。

 だが彼女は違う殺されるその時まで、皮肉の為に口上を述べるような女だ。

 彼にとって愕然とするほど予想外であっても、彼女にとってそれは当然の事だ。

 殺されるのだ。暴言を吐いてなにが悪い。相手の予想通りの行動をして納得いくのか、問われて彼女は否と首を振る女だけだ。


 殺されかけて糞度胸が付いたのか、それでも彼にとってその言葉は救いに近かった。

 いま二人だけでも諦めていない。なにがあっても、どうにもなら無くても道は決まっていた。


 自分とはベクトルは違うだろう。それもでもいい、この状況に納得がいかないと言ってくれるだけで、彼にとっては救う価値がある。


「ありがとう」

「え、感謝されるところあったの」


 助けた意味があったと彼女に感謝してしまう。本来ありえた結末を認めないと言ってくれるなら、それは進む力に変わっていく。それが彼には嬉しかった、世界から拒絶されるような暴挙を行っておきながら、一人ではないと言うことに少しだけ救われた。

 なにより当然でしょと、自然体で言い切る彼女の姿に、逆に自分が叱咤される気がした。


「そうだよね、確かにそうだ。それとして君はこの状況が納得いかないんだ」

「ん、だね。当然だよ。私はずっと状況に流され続けて不愉快なんだ。世界を滅ぼすんだったら、他人の意思じゃ無くて私は自分の意思で行うよ。

 それを勝手にこっちの所為にして殺そうとしたんだ。私は、私はね、自分の敵には容赦しないよ。死ねと言われて、殺されかけたんだ、笑顔でそうですかなんて私は言えない」


 殺されるなら殴られるぐらいの覚悟を持ってもらうと、いきまいている彼女の姿に彼は肩の力が抜ける。

 彼女が最も優れているのは、能力の有無ではなく、ただ生きているだけで染み付いた自然体の諦めない精神かもしれない。

 彼女は納得がいかないが、ある程度の相手の言い分も分かったと言うだ。しかし相手の論理の中で殺されるなら抵抗してやると、当たり前の事を言っているだけ、少なくとも彼女は生きることには妥協していない。


 絶望してその場に崩れないなら、諦めないなら、助けがいがある。

 命を代償に世界を救う方法はいくつもある。そう言う形を彼は認められないから、違う方法を模索しようとする。


「なら、精一杯足掻くしかないか。まだ方法はぜんぜん浮かばないけど」

「浮かばないのかー、命狙われてる乙女がいるんだから、追い詰めない配慮をしようよ」

「実は嘘をつくのは下手糞なんだ。それに君はありもしない希望を語られるよりは、そっちの事実のほうが好みのように思えたよ」


「ま、そうだけど」と、彼女は頷く。


 それで一度会話が詰まった。二人して対策が浮かばない。

 なにせ勢いだけの行動だ。その行動に対して前もってなんていう物が付いている訳がない。

 そして組織の中で一匹狼を通してきた彼は、渡りを付けるための顔が無い。仲間も存在せず、唯一の味方であった人物も敵にしたばかりである。


 協会と言う組織と戦う方向性は得策ではない。

 彼がするべき方向は、はっきりと言えば最初の悪の組織である異世界交流会との共闘をおいて他には無いだろう。

 だがヒーローである彼が受け入れられるとは考えにくい。彼らを見かけるたびに殺しまわっていた組織の男を受け入れられる土壌がある訳が無い。


 そして彼としても悪の組織に、事象核を渡す暴挙を行う訳にはいかない。


 彼がもし協会内で派閥を作れていれば話が変わっただろう。

 

「ハッタリを使いながら逃げるだけ逃げて、打開策をその間に必死になって考えるぐらいしか思いつかない。もしかするとその間に、何か状況が変わるかもしれない」

「決まって変わるのは最悪の方向だというのが相場だと思うけど」

「かも知れないが、真正面から向き合ったって、力でも勝てなければ頭でも勝てない。そういう時はつかまらない所まで逃げるか、もっと打開できる準備をするしかない。

 逃げると言うのは言葉が悪いかな。明日のための準備をするんだよ」

「結局逃げるのと変わって無いよ。けど、けど、私はそう言うの嫌いじゃない」


 その彼の言い方に琴線でも触れたのか、嫌いじゃないと何度か繰り返す。

 だが彼女からすれば、なぜがしっくりと来る言葉であったのだ。

 不思議そうに彼女の顔を覗く男は、心配そうな面持ちではあったが、何か違うと思って、何故しっくりと来たか理解する。


「ねぇ」と、ちょっと提案と彼女は手を上げた。


「ちょっと約束しない。私達は逃げるって言葉を使わないことにしよう。

 だってあっちに負けたみたいじゃない。あなたは彼らに勝ってこの状況を作り上げた勝者なんだから」

「こっちが勝者、なんで、ただ逃げただけだろう」


 何も解決できずに、自分の戦力を判断しても勝てないから逃げただけだ。

 そう思っているからこそ、彼女の言動に首を傾げてしまう。


「駄目駄目、そう言うのは悪い言葉だ。だって貴方は勝ってるんだよ。逃げたんじゃない、自分の目的をきちんと遂げたんだ。

 それが負けだと思ったら行けない。絶対にそう言うのは駄目だ。私の命を助けてくれて、殺されるかもしれないあの状況から逃がしてくれた。それを負けと言ったら私の助けられた意味が無い」


 卑下する場所は何も無いんだと、彼が言った敗北宣言に興味はない。

 あの土壇場を彼は切り抜けて見せた。詰んでいた筈の状況を彼は救ってくれたのは間違いない。

 欲しい言葉をくれると彼は笑う。それと同時に彼はなにかを突き刺されたような気がして、少しだけ表情を堅く固めた。

 彼女には自覚は無いだろう。だがある意味で、問いかけられている言葉はこうとも言える。


 何でヒーローになったのかと言う追及のようだと、少なくとも彼はそう思った。


 彼の起点ともいうべき場所を彼女は無意識に問いかけていた。

 一瞬言葉が詰まったのは仕方ない。どこかでまだこの選択に彼は負い目を感じていた。

 だがその一言が、負い目を払拭してくれたように思える。


「そう……か、い。君が言ってくれるならそうなんだろう。生憎と今までそう言う評価をされた事が無い所為で、悲観的になっていたようだ」

「悲観はほどほどにしないと、後ろ向きになって、前を向けないって、向くのなら後ろより前、倒れるならいつだって前のめりに、貴方は一般人にワンパンでやられる男だけど、ヒーローなんだからそっちの方らしいよ」


 人の前にいて涙を流しながらでも前を行く人、背中だけ見せて一番辛い先を見通す人、それはきっと彼があこがれたヒーローの形の一つだろう。

 一番辛い場所を、一番苦しい場所を、そして全ての形に一つの救いを、昔の言葉を彼は少しずつ思い出す。


「そう言えば、簪にも近い事言われたな。なにが起きたかしら無いけど、後ろを向いてばかりだと、次は前にいる人にぶつかってその人を怪我させるって、元々の悲観主義が悪い方向に出るようだ」

「ま、最悪を考えるのは悪くないと思うけどね。それでこれから起こる最悪とかって分かるのかな。それを考えて対策しようよ」

「いや無理だと思うけど。どう合ってもどうしようもないってやつだし」


 これから起きる事なんて、一つだけなのだ。

 予想以前の問題だ。それをしないのなら、協会と言う組織の構造そのものを疑わなくてはなら無い。


「へーどういう感じのやつ」

「君と俺の封殺の為にメディアを使って、あること無いこと色々ばら撒かれたりしながらってのが、世界中で行われるようになる。世界中で人狩りが行われるよ」

「メディアか、私の小さい頃の夢ってアイドルだったんだ。テレビに出たいなんて淡い夢だったけど、まさかこんな感じで適うなんて思わなかったよ。介錯娘懐かしいな」


 彼も聞いた事のあるフレーズにああと答える。知ってるんだとちょっと喜ぶが、彼は怪訝な目をしていた。

 確かに名前のとおりの色物アイドルである。ちなみに山田浅右衛門と言う派生グループもあるが、色々とあれ過ぎるので割愛する。


「あの当時のアイドルだから、介錯娘だったっけ、土壇場の赤い花一輪のフレーズが未だに記憶に残ってるよ。

 死者の供養に包む銭花なんてあったよね」

「あったね。たしかムッシュドパリって言う海外に派生アイドルグループを出した記憶もあるけど未だにあっちじゃかなり売れてるよ。デスメタルバンドとして……」


 懐かしいと良いながら割るのはいいが、介錯娘もそうだが、会話の中に出てくる処刑人の単語がアイドルと言う言葉を疑問系にしてしまっている。

 だがそうやって下らない話をしている間に、色々と余裕が生まれる。


「あ、そうなんだ。いつの間にか世界の介錯娘にって、それは言いとして、貴方の予想がそうなるなら、結婚は無理そうだよね。後もう少ししたら世界で有数の著名人の仲間入りだ」

「そうだね、否定してあげる理由が無い。ここで一発逆転出来る手があるならそれは無理そうだ」

「容赦なく切り落としてくれたところで、悪の組織からの干渉ってあるの」

「無いとは言えないが、あるとも言えない。現状は様子見か、異世界交流会が怪しいが、あそこは現状では動けないよ。ヒーロー達が封殺しているからね」


 それこそ全面戦争の覚悟無ければ動けないが、その為には絶対条件が絶望的だ。

 あそこには最強のヒーローである東松五郎あずましょうごろうがいる。彼を抜ける戦力は異世界にすらそう存在しない。その全てを睨み付けている彼をどうにか出来るなら、そのときには悪の組織は勝者として世界に進出している。


 そんな最強のヒーローの事を話しはしなかったが、彼女はそれ以上に携帯端末から緊急速報と言って流れている情報に困った顔をしている。

 協会からのリアクションだろうが、事象核を奪い逃げたヒーローがいるとして、人類の裏切り者として彼を晒している内容だ。そこには当然彼がかつて父親を殺し掛けた事も乗っており、裏切って当然の人物だと専門家や、協会の広報担当が、彼を悪し様にののしっている。


「そう言うなら信頼するけど、取りあえずは世界に公表された貴方の来歴が、色々と絶望的だよ」

「ああ、もう出てきたんだ。やっぱりそれはくるか、協会もやっぱり容赦が無い。ちょっと前だったら自殺級の内容だよ」

「色々と聞きたい所だけど、今は聞く時間はなさそうだ。さて、どうやってでも主導権が欲しい所だけど、その辺りに当たりを付けるのは歩きながらにしようか」


 困ったといいながら、彼らは余り困った様子を見せずにあるいていく。

 そして徒歩五分で、最初のヒーローと接触する。いやヒーロー達というべきかも知れないが、それが彼らに主導権を握らせる最初の機会になる。

 

 その時の二人の表情は酷く見物だったと言う。


/2


 彼らは納得がいかないと声を上げた。

 協会を裏切ったと言う言葉ではなく、彼が自分の都合で事象核を奪ったと言う事が納得出来なかった。

 だが事実として世界門は浮かび、彼は事象核と共に逃げている。


 そして広報によって彼の来歴が流され、父親を殺そうとした、母親を能力の暴走で殺しただの、色々と生まれてきた事が許されない存在のように、怨嗟の声が彼に突き刺さり続けている。


「どう思うよ。あいつがこれをすると思うか」

「経歴か、それとも事象核を奪って逃げたことのどっち」

「経歴のほうだ。事象核を奪うなんてのは、する必要があったって事だろう。良くも悪くもあいつは自分の信条を裏切らない。

 そう信じたから俺達は協会にいるんだろう」

「あいつがああなった理由が経歴なんだろ、それをトラウマにして克服したか狂ったかでああなった。その信条のままに協会と世界を裏切った」


 それは仕方ないとヒーロー達は言う。

 なぜかその事を嬉しそうに言うヒーロー達は、自分達の選択を間違ったとは思っていないようだ。

 よくやった、まるでそう言いたげな彼等の言葉は、それ自体を誇りにしているのだろう。


「だが自分の信条は裏切って無いんだろう。ならそれでいいだろ、あいつはそれだけで信じられるやつだ」

「それでこっちはどうするつもり、まさかとは思うけど」

「そりゃまさかだろう。まさかしかない、むしろそれ以外あるのか」

「ないけど、ないけどね。私達はあいつの派閥の人間だからね」


 ならそうするしか無いだろと男は笑う。新参の一人でありながら、それなりの地位にいるのか、色々と顔が利くのか、勝手に方針を決めて動かそうとしている。

 だが彼らとって、この方針は同時に沸きあがるものでもあった。


 たった一人だけだった。

 たった一人だけが、彼らを救いあげようとした。

 どんな状況に陥っても、脅しであろうとも、絶対に切り捨てる事は無く、彼らを助けようと足掻いた存在に救われたのだ。


 そして当然のように、彼らを救った彼が、何かしらの理由で組織を裏切った。

 だが彼が裏切った事を失望するものはいない。

 ほぼ確信のようにその男は、自分の利益の為に動く事は無い。だからこそ疑うことも無く信じる事が出来た。


 それだけは絶対にありえないと、言わせるだけの生き方を彼がして来たからだ。


「俺達はあいつの信条に救われて共感した馬鹿達だ。そして今回は、あいつを救える機会があるって言うんだぞ」

「ああ、確かにそうだね。そこまで考えていなかった。そりゃ誰だって乗るよ。彼が諦めていないから起きたなら、ここがチャンスか、今までのたまった借りの清算の機会になる」

「怪人だった俺達がヒーローを救う機会が訪れるんだぞ、そりゃいくだろ、やるしか無いだろう」


 聞こえるように監視されているかもしれないのに、怪人達は声を上げた。

 彼に救われた存在が、彼を救おうと動き出す。

 何もかもがうまく言った訳じゃないだろう。だがこれはヒーロー協会も予想が出来なかった。


 そのヒーローは馬鹿を言い続けていただけだった筈なのだ。

 だがその馬鹿をやり遂げると確信させてしまうほど、そのヒーローはおろかで必死だった。

 しかし彼を見なかったヒーロー達はそれを知らない。


 だが彼と敵対した全ての怪人達は、どこまでも彼が必死だった事を知っている。常に命を掛けていた事を知っている。その決意が嘘ではなく、彼は間違った事は絶対にしないと言う信頼を植えつけてしまう程に、彼の生き方は揺らいだ事が無い。


 協会が混乱しているこの状況で、保護観察ヒーロー(投降怪人)が一斉に協会から離反するなんて想像できるわけが無い。


「たまった借金を俺達で返しに行けるんだ。あれに関わりゃそうなる」


 たった一日で終わった世界門事件。

 だがこれを起点に世界は完全に色を変えた。


 事象核を一人のヒーローが略奪し、そのヒーローに共感されたように元怪人達が、彼に合流すると新しい悪の組織が作られる。

 状況を一気に覆すだけのA級該当のヒーローすら存在していたのだ。そんな状況下で世界はまた一つの形を変える。


 前線級のヒーローや事象核、様々な形が重なり、それが一人の頭の中で組織となって現れていく。

 それが彼女の能力だったのか、それとも彼の力だったのか、今更もう口にする必要は無いだろう。


 協会はその組織を世界の天敵と呼び、また世界に一つの均衡が訪れるが、組織と言うにはまだ脆弱な彼らの組織は、未だ余裕のある状況ではなかった。

 そしてもっと言うのなら、その頭にいる人間が、ありとあらゆる意味で普通ではなかったからこそ、後に世界全てが裏返ったとされる事件が起きる。


 最接近動乱、その始まりまでそれほど時間はない。


 それを起こす事になる原因は、もうそろそろ、そしてもう直ぐそこまで迫っていた。



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