08これからを話し合う
「よしでは諸君、第一回会議を始めるぞー」
「 にゃー 」
「畏まりましたシロ様、その前にお茶のお代わりは如何でしょうか?」
頷く俺に笑顔で少々お待ちくださいと言って彼は俺の前にある陶磁製のカップを持ち上げた。
朝目が覚めて、眠気を噛み殺しつつ起き上がれば待っていたのは彼、ユリウスの笑顔でした。
テントを後にして寝起きで働かない頭を強制的に覚醒させる為に顔を洗おうと水場を探してもあるはずも無く、キョロキョロと忙しなく辺りを見回す俺にユリウスが笑顔の儘、すっと両手で抱えたほんのりと温かい水の入った桶を差し出してきた。
そして、ユリウスが作ったふわふわ卵とベーコンを挟んだパンと野菜スープ付きの朝食を食べ(凄く美味しかった)、ユリウスが用意した服を着て(手際よく着せられました)ユリウスが淹れてくれたお茶を飲んで(紅茶っぽい綺麗な琥珀色でこれも美味しかったです)……ゆ、うしゃ?アレ勇者だった…よな?
「執事か…」
ボソリと呟いた言葉に反応したのは猫だけ、彼は少し離れた所で楽しそうにお茶を注いでる。
「猫ーユリウスは元だけど勇者だよ…な?何であんなに甲斐甲斐しいの…?」
「 お前の望んだ姿だからじゃないかにゃあ 」
素っ気なく返された言葉に愕然とした。俺勇者望んだつもりが執事望んでたの?!
た…確かにユリウスの名前呼ぶ前にこの姿だと生活困るなーとか軽く思っちゃったけど、もしかしてそれが反映されてんの?!
「うわぁあ…俺やらかしたかな……」
思わず頭を抱えて項垂れるが、猫はさして気に掛けていない様子で大きな欠伸をした。
ま、前向きに考えればユリウス万能じゃないか!素晴らしい!ってことにな…らないな、うん。
多少なりともお手伝いをしようと心に誓った。出来る事は限られてそうだけど…幼女なんかじゃなければまだ…いや思いだせ俺、自分の家事能力は最低限出来る程度じゃないか…片付けくらいはやれるけど料理は……
自分に出来る事だけしよう、そうしよう。
「お待たせしましたシロ様」
遠くを眺めて空が青いなー今日は晴れかーなんて虚ろな目で見つつ俺はユリウスが持ってきた二杯目の茶を一口含んだ。
「気を取り直して第一回会議を始める」
「 にゃー 」
「はい」
軽く咳払いをして俺は考えていたことを猫と彼に言う。
「まずはこの世界について、後は猫が言ってた神々のゲーム?についてだ。」
俺と猫、そして彼が持つこの世界の情報共有。そして神々のゲーム…まぁ後者は猫も曖昧に鳴いたから詳しくは知らないっぽいな。
このブラッドアシードの世界、グラナート。
俺の知識だと確か…タイトル以外は独語で名が付けられてたと記憶してる。開発者にドイツ好きがいたからだと何処かで見た気がするが真相は知らない。
勇者が召喚された場所はシュタットと呼ばれ大陸の南東に位置しゲームでもかなりの規模を誇る王の住まう場所…だった筈だ。ゲーム内で広すぎて迷子になったから覚えてる。無駄に入り組んだ迷宮みたいに複雑な都市だった!
そのシュタットから西に向かえば海に面した都市キール。此処は確か水棲族が管理する所だったと思う。まぁ王道RPGに良くある、土地に寄って住む生き物が違うってパターンだった筈。大陸中央部にある大森林の中には森人の住まう街があり、名前はヴァルト。種族は確かエルフが居た。北東には獣人が住んでてベスティエと呼ばれている。北西は極寒の地エムデン。ここは人の住む場所だけど確か説明書には王に逆らって居場所を失った者が身を寄せ合い辿り着いた終の地、何て書いてたような…。
記憶を頼りに思い出せる範囲で大陸の主要箇所を言えば、猫が肯定の相槌をうつ。成る程ゲームの中と変わらないってことか。
ゲームなら、主要な都市や街に仲間になるキャラが居た。ただイベントを起こしてフラグ回収してと…それがかなり面倒な手順だったから俺は最初から仲間になる聖女と騎士。そして道中で必ず加入する賢者だけ連れていたが。
「なぁ猫…」
「 にゃあ? 」
「ゲームの中でさ…ユリウスの仲間になるかも?な奴らってさ、もしかしなくても他の神の使徒…っぽいのか?」
「多分使徒である可能性は高いと思いますよ、シロ様」
「あ、はい。ソウデスヨネ…」
猫じゃなくてユリウスが即答した、にこやかな笑顔なんだけど背後から漂ってくるこの冷気は何なのでしょうか…思わず敬語になっちゃったじゃないか
こほんとわざとらしくユリウスが咳払いをして、笑顔を貼り付けたまま言う
「その内確実に襲撃はあると思いますのでそれまでは使徒に関して放置でよろしいんじゃないでしょうか?襲ってきたら潰す、が効率的かと私は思います。」
「……ユリウスこわ…「何でしょうかシロ様」ナンデモナイデス…ッ」
ユリウスコワイ
怖いよこの元勇者!
「 使徒は確実に来る、ユリウスなら殺れる 」
殺すとかいてヤると言う字なんだろうな…猫も大概好戦的だ…。
「ユリウスは撃退する手段あるけどさ、俺とお前は?俺は特殊能力なんてないぞ?」
「 ?お前、力ある 」
猫が可愛らしい仕草でこてんと首を傾げた、たっぷり数秒置いて、俺は脳内で猫の言葉を反芻した。
えっ?
初耳なんですけど?
◇◇◇
少し考えれば納得出来た。元々この身体、器は誰だった?
「あんっの聖女の能力かよぉおおおおおおおおおお!」
苦虫を噛み潰して水を求めたら出されたものが酢!的な表情でオーバーリアクション気味で叫ぶ俺に猫は溜息をつき、ユリウスは終始にこやかな表情を崩さなかった。
「そういえば…そうでしたね、器が誰か、何て忘却の彼方へ放り投げたので失念していました。」
「……」
素なのか、どうなのか…判別に困る。ユリウスの僅かに下がった低い声で零された発言に俺は冷静さを強制的に取り戻されました。はい。
聖女の能力ねぇ…、俺は少し思案する。説明書とゲームの攻略サイトに載ってたのは聖女の力は癒やしと聖属性攻撃…だったかな。聖属性攻撃?お前は性属性だろって画面に向かって突っ込んだ記憶があるから覚えてた…一人でうまいこと言った!みたいにその後ドヤ顔しちゃった事も同時に思い出して羞恥で頭を抱えた。
あの時の俺どうかしてたんだ…そうだ、そうに違いない。
「 ユリウス戦う、お前補助、ワタシ留守番かんぺきにゃあ 」
「…なんでお前だけ留守番なんだよ…」
猫の発言にテンション低く突っ込みをいれる。完璧じゃないだろお前元魔王だろうが…。力ある…いや無いのか?まさか全部使い果たしましたとか?
「 この身体じゃ戦えない 」
猫は少し項垂れて語る。力は多少残っていても小さい猫の姿では魔法も使えない、攻撃も引っ掻く程度にしか出来ないと。
俺は思わず猫を膝に抱き上げて撫でる、元魔王のくせになんて思ってごめん。お前も慣れない身体で大変だよな…
「 肉あれば…吸収できるのに… 」
前言撤回する、肉ってあれだろ死んでない肉体ってことだろ。こんにゃろう。悔しそうに呟く言葉に俺は猫の頬肉を思いっきり引っ張った。