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bloodAseed  作者: 伊織
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04過去を振り返る




-俺、東司狼あずま しろう



今年で二十五歳を迎え社会人生活にも慣れ、日々緩く過ごしている。主に趣味と仕事で構成されており、ごく普通の社会人として社会の大多数を占める歯車のひとつだ。職場の人間関係も多少摩擦はあれど概ね円満だし、飲み会はまぁぼちぼちの頻度で交わされる。社内恋愛をしてる同僚の愚痴を聞いたり、上司の文句を互いに言い合ったり、偶に異性との飲み会もセッティングしたりされちゃったりしながら人生を楽しんでいた。


小中高と並みレベルの学校に平均点な成績。これといって特出するモノは無い。初めてのお付き合いは高校二年のときに成り行きで付き合って大学受験があるからーと別れた。

大学時に付き合ってた彼女とは俺が社会人になったら徐々に疎遠になって自然消滅。覚える事が盛り沢山な一年目は彼女優先出来なかったから仕方ないのかな…と彼女の番号を削除した。


元々性欲は薄いし、向こうから付き合ってと言われなし崩しに流される儘、スタートした交際は彼女の気持ち一つで終わってしまうものだったのだろう。

結構好きだったけどこの人じゃなくちゃ生きていけない、なんて熱情は無かったと思う。


別に運命だとか俺だけの人がいるだとか、そんな思いは皆無だけど。そこそこ性格が良くて普通に穏やかに一緒に暮らしていける人がいれば良いなと漠然とした願望くらいはある。

って大学の友人に話したら老後か!何て突っ込まれた。何事も程々が一番だと思うんだが、どうもその辺は友人とは意見が異なる。恋してねぇんだよ!と騒ぎたてる彼は毎度美人さんに告白して玉砕してるのを俺は知ってる。

それ恋じゃなくて高望みなだけだ、と忠告すれば美人スキーで何が悪い!と鼻息荒く宣言したのでもう放っておこう。コイツそこそこモテ系な外見なのにガッカリ感が滲み出てて異性から敬遠される。まぁチャラ男に分類されちゃうから仕方ないか。友人としては面白くて良い奴だけど女性の評価からすれば軽薄っぽいのはマイナスなのかもしれないな。



この悪友とも呼べる友人、須藤真(名前負けしているとか言ってはいけない)と仲良くなった切っ掛けはゲーム。俺もこいつもゲームが趣味だ。

大学の休憩時間に携帯ゲーム機を持ち込んでせっせとレベリングに励んでいたらこいつに見つかった。それ以来頻繁に会話するようになってどっちかの家に泊まり込み、徹夜でゲームもした。


さすがに社会人になってからは頻度が下がったがお互い休みが合えば一緒に遊んだりしてる。某狩猟ゲーだとか、赤い帽子がトレードマークの配管工が主役のゲームだったり、君に決めた!とか言っちゃう主人公のゲームだったり。割りと王道ゲーが多いのは二人で遊ぶ時だけ。


お互いジャンルがイマイチ被らないというか…真が好きなのが所謂恋愛ゲーだからな…。一緒にはできないんだよアイツマニアックすぎる。その手のゲームほぼ網羅してんじゃね?てレベルだ。

対する俺はRPG系が好みだ。キャラ育成が好き…とも言える。主人公のレベルを上げて装備を整えて万全どころかボスも余裕!くらいまで上げるのが癖になってしまってる。

まったりゆるゆる牧場育成も好きで毎朝収穫や手入れをして出社するサイクルになってる。ああいうゲームは終わりがないからどこまで育成していいのか悩む。






そうだ、そうだった。

bloodAseed をやってみようかって気にさせたのはこいつだった。








◇◇◇



「しっろー、前評判めっちゃ高いゲームあるんだけどさーお前やったー?」

「はぁ?どれのこといってんだ?」


仕事も終わり、明日は休みだ!休日だ!とここ数日ハマってるゲームをプレイしようと本体を起動した直後の電子音。この軽快な流行りのポップス曲は真の着信音だ。

緑の受信ボタンマークを軽くをタップして俺が出た一声がソレか。前評判高いゲームなら腐る程あるだろ。大人の事情とかいうやつで前評判だけは…な。


「あれあれ、ぶらっどあ……あ~「あぁ」」

「ブラッドアシード、な。」

「そそ~ソレ~、お前もう予約した~?」

「してねぇなー」


カチカチと手慣れた動作でゲーム起動させてコンティニューを押す。その間も軽いやりとりは続く。


「そなの~?何かお前好みの育成系RPGじゃん、てっきり予約してるかと思ったわ~」

「へぇ…それは知らなかったな、何か王道RPGってのは見たけど俺好みっぽいの?」

「お~今日買った雑誌に書いてたぜ~、えーとな内容は…」



……

………

ふむ真の話からすれば俺の好きそうなツボ抑えてるし買ってもいいかな。


「ありがと、興味でたから今やってるゲーム終わったら買ってみるわ」

「あいあい、またヒマなら遊ぼうぜ~。今度は是非!合コンよろしくな!」


合コン!のとこでやたらとでかい声上げやがった。どんだけ飢えてるんだコイツ。仕方ないな今度セッティングしてやるか。上手くいくかは真次第だけどな。


「気合いれんなバーカ、耳いてぇよ。まーヒマがあったらな」

「わりーわりー、んじゃ俺まだ残業あっから切るわ~まったな~合コン楽しみにしてっからな!」

「おーまたなー」



プツリと音が切れる。

ディスプレイを操作して待機モードに切り替えた。

結局真の言いたいことは合コンしよう!だろうな。手土産もナシだと断られる可能性があるから俺の好きそうなゲーム情報も添えてってことだろう。アイツの考えることはわかりやすい。

良く言えば裏表があまりない正直者、悪く言えばお馬鹿、

そんな性格は嫌いじゃない。彼女が出来るかはアイツ次第だけど


「ま、たまにはセッティングしてやるか…」



クソ忙しい決算期だろうに、昼休憩途中で買った雑誌から俺好みのゲームが無いか探した労力と熱意分は付き合ってやるか。

データロード画面で止まったままにしていたディスプレイを見て、俺は指を動かした。






◇◇◇







「……」

「………」


遠くて近いような、ところから音がする、

しゃらしゃらと俺の意識を撫でる様に、落ちるソレはゆるく低い音。誰かの喋る声にも似ていて、眠たい意識を覚醒へと浮上させる。俺はどうしてたっけ?何か懐かしい夢を見ていた気が…

ゆめ、夢…あっ

ぱちりと目蓋をあげれば、黒猫が視界を埋めていた。

「--ッ」


………っ危ない

情けない悲鳴を飲み込んで、じわじわと黒猫から距離をとる。畜生こっちが夢じゃなかった。


「 起キタ? 」



聞こえないフリをしたい!切実に!猫は俺を見て、できたよー褒めてーと言わんばかりの態度だ。一体何なんだ…。と、俺が溜息を吐き出して猫を軽く見詰め、気付く。

猫の隣、俺の眼前斜め前に立つ彼に意識を持っていかれる。…勇者…?だった筈?


闇を切り取り光を反射する漆黒の髪、群青色に輝く目は真っ直ぐ俺を射抜く。白銀の鎧は影も形もなく、光を吸い込む様な黒いコートに変わってる。アンダーウェアも黒、パンツも黒。装飾品の類は銀色だったのが救いなのか?だが黒含有率が高すぎて闇が立ってる風にしか見えない。オマケに利き手から下がる剣も同じ、黒を基調に所々深紅に輝く切っ先。持ち手すら黒いって…


「ちゅーにか…」


俺の勇者だった筈の彼は真っ黒になっていた。

お願いだ、言わせて欲しい言葉がある。息を吸い込み勇者を見上げて俺は叫ぶ。




「どうしてこうなった!」





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