02選択肢間違えました
「っぐぁ!」
まず騎士の腹部目掛けて剣を叩き込む。コントローラーから伝わる鈍い振動がクリティカルヒットを告げる。碌に防御すら取れない騎士って騎士じゃなくね?カカシだろ。鼻先で嘲笑いつつ騎士の腹に刺さった俺の剣を抜く
一撃で騎士が再起不能のダメージを負ったのを見届けてチェインボーナスによる連続攻撃で賢者を袈裟懸けに切り裂いた。ローブや高価そうな装飾品がボロ切れのように破片のエフェクトを舞いあがらせる。
「ゆっ…なにをしてあぁあ”ぁ”!」
俺の操る勇者が仄暗い笑みを湛える。まるでこれが正しい行為だと言外に滲ませて。
「っあ…勇者……なぜ仲間を…彼を…っ!!」
聖女が信じられないと目を見開いて勇者に詰め寄ろうとする、その手を避けて勇者のターン終了。聖女はあらん限りの罵詈雑言を俺に浴びせてつつ回復の祈りで騎士を蘇らせようと行動するが無駄だ。サボリまくって碌な術を習得していない彼女じゃ死者蘇生なんて出来ない。
画面外でヒャッハーやってやったぜー、とか一人で呟く俺痛い!勇者は何故か嬉しそうに笑うだけ。もしかしてコレも仕様なのか?魔王をかばうと別のエピローグでもでてくるのか?ラストくらいはネタバレを見ないようにしてたから良く解らないがこんな終わりもありだよな。うん。俺は魔王の方に目を向ける。さぁどんな行動を取るかな俺に攻撃してくるのか、してこないのか。戦闘開始から魔王は俺以外の奴を狙って攻撃してきた。まぁ攻撃されたトコで俺の勇者はかすり傷程度のダメージしか受けないだろう。
仲間を先に沈めて一対一の戦いにもっていくつもりだったのか、それとも…
紅いエフェクトを纏わせた文字列が画面中央で踊る。
エネミーターン、つまり
魔王の攻撃がくる。
「………」
無言で佇んでいる魔王から発せられたのは狂喜の気配。ま、状態アイコンに魔王は嬉しそうに佇んでいる。とか出てたから分かったんだけどね。黒いモヤがリズムでも刻んでいるように強弱をつけてうねる。さっきまで項垂れてた魔王は何処いった。犬の愛情表現みたいだなぁなんて場違いな感想出てくるくらい嬉しそうにしてる魔王に嘆息が漏れる。じぃと赤く輝く目で俺を見て、負傷した右腕にうっすらと深紅に染まるエフェクトが纏わり付く。あ、回復持ってたのか流石魔王。
回復を終わらせて即勇者のターンに戻されました。
拍子抜けして脱力した俺に罵声をくれる聖女、成る程こいつも始末しろってことか。最後まで仲間…もう仲間ではないけど倒してから魔王とどうにかなるのかも知れないな。別に魔王に対して特に何も思ってないがこれはどうするべきか。ふむ、と顎を無で擦り一つ息を吐いてからコントローラーを操作する。
念の為もう一度だけ魔王のターンに戻してみようか、俺は防御を選択して終了ボタンを押した。ちなみに仲間はAIで動くようにしてある。こいつらに指示したトコで言うことを聞かないからな。やばいなそう思うと何でこいつらと旅してたんだ勇者、良く耐えた。画面に映る勇者が一層不憫に思えてきた…。
聖女がまだ何か喚いてるがあーあーきっこえなーい。白いチャットが凄まじい勢いで画面に浮かんでくるが無視。罵倒にバリエーションってものが無いのだから仕方ない。ほぼ勇者に対して自分の魅力に跪かないなんて男としておかしいだとか、この不能だとか言ってる。いくら美人に分類される容姿してても傲慢ビッチはお断りですってば。コイツ俺がまぐわりイベントスルーしたの根にもってたのかな。直ぐに騎士とアレコレしてたのを知ってる俺としては白い目でしか見れないんだが。綺麗な顔が台無しになるくらい醜く歪んで怖いことになってる。
まだ諦めずに騎士に回復かけてるけどもうソイツ死んでないか?無駄なことをご苦労様。皮肉くらい言いたくもなる、この女俺を罵倒しながら回復するなんて違うイミで器用なことしてる。
数度目かの紅い文字列乱舞を横目に、俺は魔王を真っ直ぐに視る。
魔王も俺にひたりと視線を合わせる。身体から立ち上る黒いモヤは勢いを増し画面半分以上を染め上げる。軽くホラーに感じるんだが…止めてくれないか俺はホラーは苦手なんだよ。ぶるりと震える身体を両腕を交差して擦り、気持ち温める。うぅ怖いのマジ勘弁。
聖女が黒いモヤに呑まれて悲鳴を上げたのを視界の端に捉えた。が、俺は動かない。俺の分身の勇者も無言だ。
チカチカと聖女のHPバーが明転して
消えた。
横たわる騎士と賢者の死体も黒に塗りつぶされて聖女と同じようにステータスアイコンすら消滅して消えていく。黒いモヤに包まれた彼らの生死は解らない。勇者の周囲以外すべてが黒く塗りつぶされた画面。キラキラと輝く勇者の金髪だけが眩しく光を放ってる。ふわりと風も無いのに靡く髪が、白銀に輝く鎧が、黒いモヤをやんわりと拒絶するように弾き返す。
「………ヤット」
ん?喋った?戦闘前も開始してからも一言も発さなかった魔王から低く掠れた声が聞こえた。苦悶の唸り声らしき音は魔王から出たけどてっきり喋れないのかと思ってたら…コイツ喋れるのかよ。
ヤット?やっとって何だ。ずっとって意味か?それとも呪文でも唱える気か?
身構える俺に黒いモヤの中心にある紅い目が嗤った様に光を増幅させた。おぉおおヤバイ本格的にホラー染みてる怖いぞコレ!
「ヤット…ミツケタ」
ずるり
画面から黒いモヤが溢れだす。限界まで見開いた俺の目の前で現実と思えない光景が広がる。何だコレは何だこの異常事態は!何ですかこれぇぇえええ!
「なっ…は?!」
叫びが声にならず溢れた。俺の並みレベル脳が拒否反応を示す。何処のホラー映画だ!自慢じゃないがホラーは本当に苦手なんだよ!ガチ嫌だ!!マジムリだから!!と心で発狂しそうな程叫んでも消えない。
液晶ディスプレイからじわじわと這い出る黒いモノは徐々に中心が迫り上がりやがて人の手らしき塊へ形を変える。
ヤバイ。これに掴まったら拙い事態になる。絶対ロクなモンじゃない!思考の隅で訴える危機感に従ってコントローラーを放り出し人生最速な動作で立ち上がる、火事場の馬鹿力って本当にあるんだ!即座に踵を返して逃げ出した俺すっごく偉い!今だけ自分で自分を褒める!阿呆なことでもやっておかないと精神崩壊しそう!
「ッヒィイイイイーーー!」
情けない声が漏れるのは仕方ない、マジで怖いないない!こんな恐怖体験ない!
ダッダッ大股にドアに向かって走る。背後から不穏な気配が漂ってきてもうがむしゃらに足を動かすしかなかった。
ドアのノブを掴み助かる!と少しだけ安堵したのが悪かったのか俺にはわからない。
視界に映るノブを握る手が、いや手から上、つまり俺の腕に
黒い指先みたいなのが絡んで
スローモーション再生を覗いてる様に俺の
腕を 緩慢に 掴んだ
「はっ…え?」
ぐらりと歪む視界、背後から抱き廻される黒い腕、何本も何本も
俺を包み込みそして、意識が防衛本能に従って
ブラックアウトした。