01終わりの始まり
ただ、ふと思いついただけ。
目の前で膝をつきそうな程ふらつく黒い塊。
人型っぽいソレは魔力の塊で構成されているのだと、俺の斜め横で疲弊した聖女が数刻前に教えてくれた。
聖女と逆側で片膝をつき瀕死状態の騎士が早くトドメを、と俺に訴えてくる。騎士の少し後方で、火力を上げる支援魔法を俺にかけようとしている賢者をチラリと見れば彼もまた目で同じことを訴えている。聖女も右に同じ、だ。
殺せ、と。
馬鹿げている、三文芝居の様な俺とこいつらの立ち位置。魔王、と称されるモノの末路。必死にレベルを上げ、装備を整えて、隠された術を手に入れ、乗り込んだ先で待っていたのは蹂躙としか言いようのない戦闘。俺一人だけが無傷で佇む。なんて巫山戯てると思わないか。
僅か数ターンで事が終わる寸前、なんてつまらない状態。それでも俺以外は疲労困憊して次に魔王のターンがくれば皆死ぬんじゃないかな、と頭の隅っこで考える。
発売されて即クソゲー認定されたこの-bloodAseed-ブラッドアシードはやっぱりクソゲーだった。
一旦手放したコントローラーを軽く両手に持つ。画面からは荘厳な音楽とチカチカと点滅する敵のHPバー。そして俺の分身とも言える勇者とPTメンバーの聖女、賢者、騎士の姿。
対峙するような黒いモヤのエフェクトを纏い時折苦しそうに身を捩らせる魔王と呼ばれるモノ。
このブラッドアシードは前評判が高かっただけに、落胆の色を隠せないゲーム好きが続出した。と、ネットの掲示板で散々叩かれていた。まぁストーリーは良くある魔王退治をする勇者の話。俺はネタバレ等気にしない質なので攻略掲示板やその他の情報を見てやってみたが、ありきたりなゲームと一括りにできない訳がある。
落胆するプレイヤーの多くはある事でこのゲームがクソだ!と叫ぶ。
曰く、このハゲ肥満のために?!だとか、勇者なんて名前だけじゃねーか!とか、爽快感ゼロねーわ。と数々の感想と言う名の不満が転がる。
プレイすればわかる。と締めくくられた言葉達に興味を惹かれ一足遅れでネット購入した俺は今、先人の言葉に肯定の頷きを落とす。やっぱゲスいわ。
なにがって?
---味方陣営が下種いのだ。
そりゃもう言い尽くせないほどのゲスさ清々しいまでの横暴私欲の発言。ないわー。このゲームないわー。
まず異世界から召喚された俺=勇者を持ち上げに持ち上げまくるプロローグから始まった。言葉の端々に勇者だから無茶な要求してもいいよね、無欲でやってくれるよね、使い捨てる気満々だけどいいよね。と匂わせてくる国王と側近たち。
ドン引きする画面外の俺と画面内で粛々と従う勇者(仮)。
「おぉ異世界から遣わされし勇者よ!仲間と共に魔王を討ちこの国に永久の平和を!」
とかさ、ハゲあがって肥満体型のちっさいオッサン国王らしき人物に偉そうな態度で宣言されてみよう。白目でないわーなんて呟くしかできなくなる。
そりゃまぁ言ってくる内容は至極国王としてまともに聞こえるかもしれない。
だが解って欲しい。このハゲおっさんは両隣にだな
おっぱいぶるんぶるんさせた美女を何人も侍らしているんだが。全員薄衣程度の下着だろ!ソレ!と突っ込みたくなる衣装でハゲっさん(ハゲたおっさん国王の略)にしなだれかかってるんだぞ?この謁見シーン考えたヤツ何考えてるんだと小一時間説教したい。出発前からゲームする意欲大幅ダウンってどういうことだ。
渋々先に進めれば…途中で仲間になる聖女は傲慢クソビッチだし、お供としてついてくる騎士は女なら誰でも構わないチャラいヤリ魔だし、後半仲間に加わる賢者に至っては男女どっちでも良いとか言い出して、行く先々の街の見目麗しいヤツに手をつけた挙句、勇者のケツを狙ってくる始末。オイ十五歳以上推奨ゲームだからってここまでそっち方面を隠さない発言もどうなんだよ。
深夜の宿イベントが聖女とまぐわりますか、とか賢者と一時(意味深)を過ごしますか、とか騎士とナンパにでかけますか…とかさぁ
バカじゃねーか。
戦闘シーンも色々とオカシイことだらけ、まず敵のグラフイックがありえない。
ボロボロの布を纏った奴隷っぽい人間、傷だらけの動物達、魔物と思しき敵も何かしらの負傷痕がある。
逆に盗賊みたいな格好をした奴らは無駄に装備も豪華で小奇麗なのがまた強烈な違和感を醸し出すというか…コレ本当にありえないだろう。こんなゲーム販売してよかったのかオイ。
敵の名前表示機能をオンにすれば虐げられた…から始まり逃げ出した奴隷、家畜…魔物とか出てくる。
盗賊の奴らは弱者窃取、悪戯に奪うモノ、強者の強欲等、中二臭い名称だった。ゲーム製作者が心の病にでもかかってたんだろうか。キャラ設定考えた奴大丈夫かつらいことでもあったのかと勘ぐりたくなる始末。
兎に角このゲームは世間一般で評される勇者ストーリーと真逆、略奪すれば賞賛される。善行をすれば貶される。
…勇者ってなんだっけ…?と固定観念が崩されていく。
言いたいことは腐るほどあるが、こんな状況になってるのも勇者である俺以外クソ弱いのもちゃんと理由がある。
仲間の筈の三人はレベリング中にサボる、逃げる、ナンパする。
そりゃあお前ら強くならねぇよ。全部俺に押し付けて挙句魔王も俺一人で削りきったモンだ。賢者の支援魔法?あぁ気持ち少しだけ攻撃力や防御力あがってるかも?なお粗末魔法だし、騎士の攻撃はミス連発しやがるし。聖女の回復も俺以外にしか使われてないし。こいつら必要無いよな、と心中で盛大に舌打ちするくらい許して欲しい。仲間が邪魔とかストレスにしかならないだろ。
後一撃で魔王を倒す。その状態から動こうとしない俺に焦れたのか仲間達が、勇者何してるの!、早く殺して!、トドメを!なんてチャット表示が左右からぽんと浮かぶ。
攻撃ターンはアクティブ化してないが時間経過でこんなチャット出る仕様だったのかと今更気づいた。
戦闘中は何時もサボったりその辺で寝てくるわー発言してた奴に急かされると結構くるものがありますね。えぇ、イラッとする。
画面に次々と浮かぶ白いふきだしチャット。浮かんで消えて又浮かんで
魔王を見習えば良いのにコイツラ。ジッと勇者を見詰めて意地でも膝を付くものかと頑張って耐えてらっしゃる魔王に視線を遣る。
黒いモヤが勢いを無くし人型の原型が所々じわりと掠れる。ぶらりと力なく垂れる右腕はクリティカルヒットした俺の攻撃のせい。煌々と輝く緋色の二つ丸は丁度目の位置にある。やけに強く俺を凝視している様に見えた。
断続的に落ちる雫は赤い血溜りを生む、魔王だからって青くないんだなぁとぼんやり思った。
さて、どうしようか。
此の儘魔王を倒してエピローグか、つまらない結末だな…コントローラーをちゃんと握り直して攻撃アイコンを押す寸前
魔王が僅かに恭順の意を示すように俯いた
「は…?」
見間違いか?気のせいか?目を擦り魔王を凝視しても目線は下方を向いたまま。さっきまでの凝視は何だったのかと言いたくなるくらい項垂れた儘、だ。
じわりとした感情の波、曖昧なモヤっとした言い辛いナニかに突き動かされた俺は不意に思いつき感情に任せる儘
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読み専でしたが書いてみたくなって書きました。
楽しんで頂ければ嬉しいです。