リカット・ダイヤモンド
カツン……。
その光景を見て、わたしは青ざめた。
彼が買ってくれたダイヤモンドのリング。その一部が、ドアノブにぶつけた拍子にえぐれ取れてしまったのだ。
「え……うそ……」
呆然とした。
大切な大切なリングが、壊れてしまった。
しかもキラキラと輝いていたダイヤモンドが、えぐれてしまったのだ。
心臓が止まるかと思った。
一番硬いはずの石が、砕けるなんて。
彼になんて言おう。ダイヤモンドと同じくらい、キラキラした笑顔でこの指輪を贈ってくれた人に、なんて言ったらいいんだろう。
もうすぐ彼が帰ってくる。
直す方法も、言い訳する方法も思いつかない。
「ただいまー」
ああ、彼が帰ってきた。
わたしの泣き顔を見て、彼は固まった。
「お、おい、どうしたんだよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
ただ悲しくて涙が出た。
「指輪……指輪、壊しちゃった……」
「指輪?」
彼がわたしの手を取る。
「な……っ、ウソだろ!?」
彼も驚いてる。当然だ。
彼もしばらくバタバタしていた。
パソコンで調べ、電話をし、わたしの指輪について調べてくれているようだった。
「あー……色々と調べたんだけどな」
彼がようやく、落ちこんでるわたしに近づいてきた。
「ダイヤモンドも、ぶつけた拍子に割れるらしい」
「……え?」
「世界一硬いっていっても、石だから割れやすい方向ってのがあるそうだ。難しい言葉でいうと劈開性というらしい」
「じゃ、じゃあ、この指輪も……」
「この角度! っていう角度で偶然ぶつけちまったんだろうな」
彼が頭をかく。
「不運な事故だよ。お前のせいじゃない」
「でも……」
「それと、指輪はリフォームできる。石は小さくリカットすることになるだろうけど、もとに戻るよ。……いや、もっといいデザインにしよう」
彼の提案が、どんどん素敵に聞こえてくる。
「いいの?」
「お前の泣き顔を見ているよりは」
「……ありがとう」
嬉しくて涙が出てきた。
「泣くなよ~」
彼が困ったように笑って、涙をふいてくれる。
数週間後、わたしの指には新しい指輪がはまっていた。
初出:2013年癸巳09月09日