表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺稿  作者: 緋色友架
5/10

第贄章 懺悔(散華)


 自慢する訳ではないのだけれど、思えば私という人間は幼い頃から矢鱈と優秀だった。周囲が全て低能に見えるほどに秀逸で、自分と周りとが姿形の似ているだけのまったく別種な生物だと思えてしまうほどの非才だった。

 今から思えばそれは逸脱に過ぎなくて、非才なのではなく悲惨の一言だったのだろう。

 勉強も運動も、周囲が必死に努力して出来るようになったことを私は容易く再現してみせた。逆に何故このように簡単なことを周囲の人間らしきモノが出来ずに悩んでいるのか、理解に苦しむ時期さえあった。出来ないだけならまだいいものを、彼らは、彼女らは、なんでも出来てしまう私を執拗に妬んだ。羨んだ――――裏病んだ。

 理不尽にも、不条理にも、身勝手にも、我儘にも、横暴にも。

 彼ら彼女らにとって、私が優秀であることは許し難い罪悪だったのだろう。愚劣であることこそが、私という人間に求められた唯一の特徴だった。しかし、それは私にとって大層苦痛であった。当たり前だろう? 蠅に生まれた者に飛ぶなと言うか? ハイエナに生まれた者に肉を食うなと言うか? 生物として生まれた者に死ぬなと言うか? そんな理不尽が、世界において許されていいのだろうか。

 私は優秀に生まれてしまったのだから。

 愚劣であれ、愚昧であれと命じられるのは、耐え難き苦痛だった。

 そもそも耐える必要があったのかも分からないほどに。

 多かれ少なかれ人間は不満を抱いて生きている。彼らは抱えた不満を私というサンドバッグを上手く用いて、発散していたという訳だ。ならば、ストレスの捌け口となった私はどうすればいい? 同じようにサンドバッグになりそうな人間でも探せばよかったのだろうか。しかしそれは、私が別種のようにしか思えない、自分よりも遥かに劣る下等種族でしかない彼らとまるっきり同じ、卑怯で姑息で罪深いクソガキと同じであると認めることになってしまう。それだけは死んでも嫌だった。死んでも嫌だ。実際にこうして死を決断した後でさえ嫌なのだ。

 私は結局、全てを耐えることにした。耐え切れるほどに強くもない癖に。弱い癖に。身の程も知らずにそういう決断を下してしまった。毎日毎日ボロボロに傷つく自分を慰める為に、私は自分だけの物語を紡ぎ始めるようになった。その物語に、世界に、空想に没頭している間だけ、私は救われているような気がした。物語の中こそが、私にとって唯一の楽園だったのだ。

 その物語は、しかし果たして、結局他人に踏み潰されるようなものでしかなかった。

 幼稚で、古臭くて、新しみがなくて、意味不明で、気持ち悪くて、鬱陶しくて。

 私は全世界から、死ねと言われ続けて生きてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ