4 部活見学
「よし、プリントは行き渡ったな?」
担任から配られたプリントには、新入生部活仮登録用紙、の文字。
「まぁ、詳しいことは昨日の新歓で聞いたと思うから省くが…。仮登録とはいえ、よっぽどのことが無いかぎり変更はできないから…ほぼ本登録と同じだからな。慎重に決めるように。後は…抽選がある部活は、初回に行っとかないと受理されないから注意しとけ。期日は今週中。部活見学は今日からできる。後は各自でプリントをよく見ておくように。以上!」
帰りのSHRの後、生徒たちは各自帰りの支度を始める。
「なぁ。白河は、もうどこ入るか決めたん?」
「あー俺は、合気道を続けるつもりだから。」
「そうか。白河は、中等部からこの学校やったもんな。」
「葵さんは、何にすんの?」
「せやなぁ…いくつか興味あるもんはあるんやけど…」
「例えば?」
「剣道部。」
「へぇ…。何?中学でやってたとか?」
「うんにゃ。」
「…じゃあ、他には?」
「陸上部、体操部、弓道部…」
「…全部運動部なんだな。」
「こっち来てから体あんま動かしてへんから…このまんまやと鈍ってまうし。」
「え…こっちって?」
「……言葉聞けば分かるやろ。高校入るのを機に、引っ越して来たんよ。」
「あー、そういえば。」
「気にしてなかったんか。」
「うん。」
「……らしいというか、何というか。」
「今日は、どっか見学行くのか?」
「ん。剣道部見てきてみよー思ってんねや。…どや、一緒に来ぇへん?」
「…そうだな。行く。」
「あらら…ホンマに?冗談やったのに…。合気道入るんやないの?」
「それが、今日は休みなんだと。だから、ちょうどよかった。」
「へぇ…。ほんなら、今日早速行ってみよー思ってた子ぉは災難やな。」
「まぁな。…でも、大丈夫じゃないか?なんでか、今年は既に入るの決めてる人多いらしいから。」
「…白河がおるからなんちゃう?」
「……まっさか~。」
自分がどれだけ人を引き付けるのか、自覚していない聖夜なのであった。
二人が剣道場へ行くと、そこでは既に何人かの部員が練習を始めていた。
しばらくそれを見ていると、奥の部屋から部長らしき男が出てきて、部員に声をかける。
「集まれ。部活を始める。見学の一年生も来るように。」
彼の言葉に反応して、道場にいた生徒が集まりだす。
「それでは、部活動を始める。」
部長から今日のメニューが説明され、部員たちはまた散っていく。
残った生徒…おそらく入部希望の一年生は、葵と聖夜の二人を含め七人。部長は一人一人に経験の有無を尋ねる。
ほとんどの者が経験者のようで、担当の部員を付けて、それぞれ見学なり体験なりを始めていく。
そして最後に、葵と聖夜のところに来る。
「…二人とも、入部希望か?」
「あ…いや、俺は…。」
「入部考えてんのはこっちや。」
「俺は、付き添いです。」
「そうか…。お前、名前は?」
「蘇良葵です。」
「そうか。…なら、蘇良。手合わせしてみるか?」
「へ…?」
「あ、いや…こいつ、初し…」
「はい!やります!」
「え?」
初心者だから…と止めようとした聖夜の声を遮って、葵は前へ出た。
「おい、大丈夫なのかよ?」
「大丈夫やろ。先輩もレベル高そうやから、手加減の仕方くらい心得てるやろうし。」
「でも…」
「んなことよりもな、やってみたかったんや!自分が。」
葵の笑顔に、聖夜は一つため息をつくと…
「わかったよ。」
「おおきに!」
「ケガは無しだぞ?」
「まかしときぃや!」
葵の笑顔が、煌めいた。
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