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あいいろのそら  作者: 逸見真希
一章 親友
3/73

1 ふたりの出会い

  あの時は…こんな気持ちになるなんて、思ってもみなかった。



 二人の出会いは、高校の入学式。

中高一貫のこの私立青龍学園(しりつせいりゅうがくえん)高等部に、聖夜(せいや)は中等部から、(あおい)は高校からの編入という形で進学してきた。


 成績順でクラス分けをされるこの学校で、聖夜はギリギリのところで2組に来てしまった…裏を返せばクラス一の頭脳を持っていて…

整った顔立ちにスラリとした体。

身長は、まだ170cmあるかなしというところが、スポーツ万能の合気道部のエース。

今年で16歳になる彼は、まだまだ伸び盛りだ。

つまり何が言いたいかというと…聖夜は、かなりモテる。


 葵は偶然、そんな聖夜の隣の席だった。

 白河(しらかわ)聖夜と

 蘇良(そら)葵。

「し」と「そ」で、教室の窓側から3番目と4番目の隣同士で、前から4番目。

ちょうどクラスの真ん中。

自然と先生の目にも付きやすい位置で、別にやましいことがあるわけじゃないけど、あまり好きな位置ではなかった。

せめて、隣の席の人と仲良くなれたらいいな。

葵はそう思いながらも、入学式の後クラスに行ってから、先生の今後についての話が終わるまで…

緊張の方が勝って、隣の人をよくみることができないでいた。



 担任が去ると、一気に教室は騒つきだした。

中にはすぐに帰る支度を始める者も居たが、大概は数人ずつで固まり、雑談に花を咲かせている。

このクラスは何故か高等部からの編入生が多いようだから、同じ中学出身か、式中に仲良くなった人で集まってるのが多いだろう。

葵は同じ中学出身者は居なかったし、式中は寝不足のために睡魔と戦っていたため今は一人だった。



 「あ、あの…すみません!」


近くで聞こえた女子の声に、葵は横に目を向けた。


「何?」


話し掛けられたのは、隣の席の聖夜。

一応言っておくが、自分にかけられた声と勘違いしたわけではない。


「キャー!声もカッコイー。」


彼女らは、返事をした相手が困惑気味なのも気にせず、顔を赤く染めてきゃーきゃー女子特有の高い声で騒いでいる。


「あの…何か?」


そんな彼女らに聖夜は内心では訝しく思いつつも、それを見せずに笑顔で話を促す。


「あ。えっとー…その…。今日の放課後は、空いていますか?」

「…何か用事?」

「いえ…その…帰り、一緒に帰れたらうれしいなぁ、なんて…。」


もじもじしながら一番前にいた子が訊ねると、後ろの子たちは「ホントに言ったー」とか、「えらいこの子ー」とか。

また騒ぎだした。


「あー…ごめんね。今日は、一緒に帰るやついるから。」

「「え゛ー!」」


聖夜の様子からしてほぼ初対面の相手だろうに、なんて勝手な反応をしているのだろうか。

葵はその様子を横目に見ながら、呆れていた。


「あの…それって、女の人ですか?」

「まぁ、女だけど…」

「うそ~!!」

「まじー?!」

「ショック~。」

「まさか、彼女なんてことは…」


不安そうに訊ねてきた女子の問いに、聖夜は答えに詰まった。

何かを考え、傍目にはわかりにくいがわずかに切なげな色を目に浮かべていた。

少なくとも、葵にはそう見えた。


「あの…?」

「…あ。いや、違うよ。…てか、二人だし。幼なじみと、その親友。家近いから、送って行ってんだ。」

「ほ、本当ですか?!」

「あぁ。」


そう言って女子に笑い掛ける顔が本物の笑顔に見えないのは…さっき感じた色のせいだろうか。


「よかったー。」

「じゃあ、またお話しましょうねぇ。」

「あー…うん。」


彼女らはそう言って話を打ち切ると、またきゃーきゃー言いながら自分たちの席の方へ戻っていった。



 「……ふぅ。」


聖夜が小さくため息をついたのを確認してから、葵はしっかりと横を向いた。


「なんや、あんた、モテモテやん。」

「え…?」


聖夜が、多分初めてこちらに意識を向けた瞬間。


「話は、終わったんやろ?」

「あぁ…うん。…えっと…あんたは?」


いきなり話し掛けてきた、方言丸出しの葵に、聖夜はまたも戸惑っているようだった。


「蘇良葵っちゅーもんや。隣の席なんやで?覚えときぃや、白河くん?」

「あ…ごめん。…ソラ・アオイ?青井空とかじゃなくて?」


担任が一度全員の名を読み上げたが、覚えていなかったらしい。


「蘇我氏のソに、吉良のラ、葵の御紋のアオイや。」

「え…キラ?」

「日本人やろ?吉良上野介を知らんのか。忠臣蔵や、赤穂浪士や!」

「あ~忠臣蔵は聞いたことあるんだけど…」

「…仲良しのヨシの字や。」

「あ…了解。」


葵の説明に申し訳そうな顔をしつつも…呆れながらも説明を続ける葵は楽しげでもあって、自然と聖夜も笑顔になった。


 「…なぁ、さっきの話のことやけど…」

「聞いてたのか?」

「聞こえたわ。」

「あ…そうか。」

「白河くん…好きな子おるやろ。」

「え…」


葵の唐突な発言に、聖夜は固まった。


「なんで…」


先ほど垣間見た切なげな表情からの推測であり、鎌をかけてみただけだったのだが…

聖夜の反応に、葵の中でそれは確信に変わった。


「まぁ…いる…けど。てか、なんで断定系なんだよ。」

「白河くんわかりやすいし。」

「マジ?!」

「うーん…結構冗談?」

「は?」


コロコロと変わる聖夜の表情に、葵はクスクスと笑みをこぼした。

好きな人がいることを当てられたうえに笑われた聖夜は、拗ねた顔をする。


「蘇良さんこそ、どうなんだよ。好きな人、いんのか?」

「葵でえーよ。うーん…そやなぁ。おる…?おった?…やっぱおらんのかなぁ?」

「結局どうなんだよ…」

「どないやと思う?」

「俺教えたじゃん。ずるくね?」

「…白河くん。スキなんは、お前や。」

「……え?」

「冗談に決まっとるやん。おもろいやっちゃなぁ…。」

「な、なんだよそれ!」


笑う葵に聖夜は憤慨したように声を上げる…が、絶妙な間合いの後、自然と笑みがこぼれる。


「ハハ…あんたこそおもしろいよ。」

「おーきに。良かったわぁ、嫌われんで。」

「俺こそ、隣の席があんた…いや、葵さんみたいな人でよかったよ。」

「嬉しいこと言うてくれるやん。でも、葵さんて…もう少し言い方無いん?他人行儀やなぁ…。」

「いやぁ…なんか、付けなきゃいけないようなオーラが…」

「なんやねん、それ。」

「でも、葵さんだって、俺のこと白河くんじゃねーか。」

「…ほんなら、白河でえぇ?」

「俺も名前でいいよ?」

「あー…今はやめとくわ。」

「なんで。」

「白河の名前呼ぶんは…なんや特別なもんがある気がするんよ。」

「それこそ何だよ。」

「お互い様や。」

「「……ははっ」」


また、笑みがこぼれる。


「まぁ、これからよろしくな。葵さん。」

「こちらこそよろしく、白河。」


初めて会ったときから、何というのか、波長があった。


.

次話更新⇒4月9日

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