僕の生きた、最期の日
僕はあの日、そう──運命が変わったあの日。
死を覚悟し、躊躇して。
決意した、あの日。
出来なかったこと。
彼女への"とある贈り物"を、彼女の居ない隙に隠すこと。
あの日は意志が揺らいだこともあり、出来なかった。
だが、今はもう──揺らがない。
だから僕は、あの日出来なかった贈り物を病室に残した。
そして手術の日々が過ぎ、僕は臓器を取られていった。
エレーナに不審に思われないようにするのは凄く苦労したが、何とか時は過ぎていった。
そして最後の手術。
エレーナへの心臓移植だった。
バチスタ手術は無事に終わり、退院可能な子供が増えた。
皆笑顔で。
僕は卑怯者だ。
エレーナは僕を失うと言うのに、僕は先に死んでしまうのだから。
そう、僕は全てを失う訳ではないのに。
彼女と僕の"夢"は、叶うと言うのに。
僕の生命を引き替えにして。
エレーナが退院する前日、僕はこの世との繋がりを完全に絶った。
「本当に、もう悔いはないのかね?」医師は問う。
「えぇ、もう十分です。今までありがとうございました」
その言葉が、医師への返事が僕の最後に残した言葉だった。
バツン、と何かが切れる音がした。
心電図の一定なピーッと言う音をBGMに、僕の意識は無くなっていく。
ふとエレーナの顔が浮かんだ。
楽しそうに笑う顔。
哀しげな顔。
怒った顔。
幸せそうな顔。
照れてはにかむ顔。
…沢山の、出会ってから今までのエレーナの顔。
ねぇ、エレーナ。
君は今、どんな顔をしているだろう?




