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冬休みを目前にして

季節は巡り巡って行き、僕が入院して早四ヶ月半。もう十二月の寒さが部屋の外には広がっている。

しかし病室の僕達にはあまり関係ない。風邪をこじらせて体に負担をかけないように、いつも部屋には暖房がかかっていたからだ。


こんな病院生活が長く続き、時間が過ぎて行く中、僕はエレーナに惹かれていった。考えるのはいつもエレーナのことばかり。

彼女の笑顔はいつだって、僕の渇いた心を潤してくれる。僕は心から彼女を愛するようになった。


彼女の、とても叶いそうにない夢でさえも全て。


だが、もしかしたらそれは、家族や今まで仲の良かった友人が急によそよそしくなったことに対する淋しさから来たものなのかもしれない。だからこそ、この想いを彼女に伝えるべきかどうかで悩んでいた。僕はその想いが愛情なのかどうか、確かめる術を持たなかったから。


「どうしたの?」ある日、よろけた僕に心配そうにエレーナが声をかけた。「具合、悪い?」

その頃にはもう、彼女は僕と普通に接するようになっていた。多分、僕のことを信じてくれているのだろう。もしくは、本当に僕を子供扱いしているのだろうか?

「だ、大丈夫。大したこと、ないよ」僕は途切れ途切れに言った。最近の僕はどうもおかしい。頭がぐらぐらする。…うん、きっと、彼女のせいで。


もう、駄目だ…我慢出来ない。

僕は、エレーナを愛しておきながら…彼女と今まで通り、普通の友人みたいに接するなんて、出来ないよ。


「…エレーナ」

僕は想いを告げる覚悟を決めた。もし此処で今振られても、悔いはない。僕はどうせ退院出来る。そうすればすぐには無理でも、彼女のことを忘れられるだろうから。

…しかし、何と言えば良いのだろう?


「…君のこと、好きになったみたいなんだ。勝手に片想いしても良いかな?」

やっと声となって出てきた言葉。しかしこれでは、はっきりと自分を伝え切れてないのではないか?

違う、僕の想いはこんな、曖昧な物なんかじゃない。なのに…まだ、伝え切れていない。一体、どうすれば良い?


気付いたら、抱き締めていた。

…勿論、離したくはなかった。


言葉に出来ないから、

言葉に出来ないなら、

こうするしかないんだ。


僕の言葉で驚きに見開かれた青い瞳。そして彼女は「駄目」と言った。

やっぱりな。だって僕達は仲の良い兄妹みたいで、恋人同士になどなれないのだから。


「駄目。だって…片想いじゃないもん。リーシャ、私も貴方が好きよ」


突然の彼女の告白に、僕は夢を見ているのかと思った。

そして本当に夢──、ではなかった。僕の想いが通じただけでなく、彼女も同じように僕のことを想ってくれていたのだ。


今こうして突き付けられた現実を、素直に飲み込めない。そんな僕を見て彼女は笑った。


だが奇跡って言葉を使おうとして、止めた。

もしもこれを奇跡と呼んでしまったら、彼女が助かると言う奇跡が無くなってしまうかもしれないから。


ただ、そんな気がしただけ。


その年のクリスマス・イヴにエレーナが僕に話してくれた。「私の心臓、手術で治るんだって」

「本当?」驚いた。彼女はもう、治ることはないと思っていたからだ。病院を出ることも…。

「うん、今ドナーが現れるのを待ってるんだ」「良かった…」僕は安心した。しかし僕とは正反対に浮かない顔のエレーナ。

「でも、ドナーってことは誰かが死んじゃうんでしょ?」「そうだよ。でも必ず、全ての人間が助かるなんてありえないことなんだ。そんなの、理想郷でしかないよ」

「そう…」落ち込む彼女に僕は必死でフォローした。「だから君がこれから頑張って、沢山の人を助ければ良いだろう?」「そうね…でも私、そこまでして生きたくないよ。誰かが死ぬのなら、私が代わりに死んであげたい」

冷たさを感じる声。どうして僕よりも幼いはずの彼女が、こんなにも大きな闇を抱えているのだ?


「駄目だ!君は何があっても生きなきゃいけない。君は病院の外の世界を知らないんだから。それなら僕が、君の代わりに死んであげる。僕は君無しでは生きていけないんだよ…」

そう言って僕は彼女を抱き締めた。彼女を、エレーナを失いたくなかった。絶対にこの腕を離さないと、絶対に彼女を守るんだ、と神に誓うリーシャだった。


それから2人は仲睦まじい恋人同士となった。周りが羨ましがる程、2人は幸せな日々を送った。

暖かい人々の心。それに触れて、僕は家族から切り離された哀しみを癒していった。それはきっとエレーナも同じだろう。


僕等は永遠に、傍に居たいと願っていた。叶わないと分かっていても、叶えたかった。


そして彼等が付き合い出して一年後、二人は結婚した。囁かでも、美しい結婚式を挙げて。


皆は、こんな時間が当たり前のように永遠にあるものだと感じていた。しかし──、


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