end.0 逢
とうとう、此処まで来ました。
最後まで、気合い入ってます!
...え?どの位かって?
うーん...文量が普段の二倍以上ある点?
まぁ、お楽しみ下さいな♪
彼女はベッドに突っ伏して泣いていた。
愛する彼が病気で死んだ。
しかしもう二度と聞くことの無い言葉を、手紙という形で聞くことが出来た。それは凄く嬉しかった。
その時ローザがエレーナを訪れた。「エレーナちゃん」
「何?」「エレーナちゃんに伝えなきゃいけないことがあるの」
彼女は話し始めた。リーシャが彼女に残した言葉を。
"君を一人にさせて済まない。
これから先、きっと君には沢山の試練や困難が待ち受けているだろう。
でも君は一人じゃないってことを、どうか思い出して欲しい"
──って。その言葉を言う前に、それが出来なくなったみたいね」
「そう…ありがとう」エレーナは礼を言う。
気丈に振る舞い、出来るだけ早く立ち直ろうとして。
そして彼女は、リーシャの分まで幸せに生きようと思った。
それから彼女は努力を重ね、科学者としての夢を叶える。
彼女が開発した新薬のお陰で、沢山の人々の命が助かった。
しかし彼女は本当の幸せを掴めなかった。
それでもなお最後まで彼女は、一人で懸命に生きた。
そして人生を静かに閉じる。
リーシャの優しさが詰まった二つのペンダントをつけて。
生命の重さと強さを知り、それを皆に教えた後で。
そして、これはローザの死ぬ前日の話。
つまり、まだエレーナが生きていた頃の話。
この日たまたま病室を訪れていたエレーナは、昔話に花を咲かせた。
「でね、一つだけ、気になることがあるの」エレーナは聞いた。
「どうしてローザは、リーシャの遺言を知っていたの?」
「死ぬ間際に頼まれたからよ」彼女は答えた。「彼から、直接言われたの」
「…そっか」少し安心したような、しかし淋しげな顔をしていた。
「どうかしたの?」「ううん。ただ、リーシャから直接…聞きたかったな、って」
「手紙を貰ったじゃない」「うん…けど、ローザは直接、声で聞いた」
そして思わず、こう呟いた。
「羨ましいなぁ…」
エレーナが病室を出た後、彼女は一人取り残されたようにベッドに佇んでいた。
「羨ましい、か」ぽつり、呟く。
「羨ましいのは、私の方なのに」
病弱なエレーナを支えて来たのは、私だった。
孤独なリーシャを支えたのも、多分、少しは私のお陰だった。と、思う。
けど、二人が結ばれて、居心地が悪いのは事実。
最初の内は、妹のように可愛がっていたエレーナをリーシャに取られたと言う、淋しいけど嬉しくて、少し残念な、物悲しい物だと思っていた。
いつまでも、そう信じていたかった。
例え間違いに気付いていても、そう信じていたかった。
…リーシャを愛していたからだと悟ったのは、二人が結婚した時だった。
好き、とか。
そんなんじゃなく。
愛してた。
何で、と言われても分からない。
けれど、私は彼を愛してた。
「ローザ。エレーナに言伝、お願い出来ますか」
懐かしい彼の声。
もう、二度と聞くことのない。
目を伏せれば、いつも思い浮かぶ。
あの日の光景が。
誰もいない、深夜の手術室で。
大事な話があると言って、彼を連れ出した日のことを。
…貴方が居なくなったら、私、生きていけないかも。
「って…エレーナが言ってたんですか?」
…いいえ。でも、言いそうでしょ。
「ええ、確かに」
…これ、私の本心よ。
「ご冗談でしょう」
あえて、答えなかった。
何処か遠くの窓の外で、風が桟を叩いていた。
…本当に、死ぬつもりなのね。
「ええ。もう、決めたことですから」
…何だか、淋しくなるわ。
「そんな。ローザが淋しがったら、エレーナを支えて貰えませんよ」
…大丈夫。彼女は強いわ。私なんかが居なくても。
彼女は、と小さく繰り返す。
「ローザ…貴女はまさか、死のうと思っていませんよね?」
…もう、うんざりなの。
この病院の方針には。
「本当に…それだけの、理由で?」
…何が言いたいの?
「今度は、貴女の言葉を僕に下さい。正直な声が聞きたいんで」
…見抜かれてたのね。
「何と無く、ですが」
…十分よ。
「僕には二人の人間を、同時には愛せません」
…知ってるわ。
「もしエレーナと出逢わなければ…」
…私を、愛してくれてた?
「さぁ、どうでしょうか」
リーシャははぐらかした。
…意地悪ね。貴方って人は。
「ローザも負けず劣らず、ですよ。お互い様です」
…大好き。
「…知ってます」
…ねぇ、わがまま言って良い?
「"死なないで"以外なら、何でも」
…、死なないで。
「言うと思った。だから、先手を打ったのに」
…でも、死なないで。
言葉と共に、目からは涙が溢れてくる。
「駄目です。もう、決めたことですから」
リーシャは小さく笑った。
…そんなに、エレーナが好き?
「えぇ、とっても」
…愛してた?
「世界で一番、愛してる」
…私が今、彼女を殺したら──私と生きてくれる?
「そんなこと、させません」
エレーナを生かすことが、彼女と僕の"夢"、なんだから。
本心は飲み込んで、彼は続けた。
「ローザに、そんな哀しいことはさせません」
…優しいのね。
「そうでしょうか」貴女はただ、僕の本心を知らないだけだ。
…ねぇ、聞いて。
「何でしょうか」
…死ぬ程、好き。
ローザは言った。
…一生分の愛を、貴方だけに費やしたわ。
彼女は、リーシャの目を真っ直ぐ見たまま言った。
──多分、本気なんだ。
リーシャは悟った。
「…ありがとう、ございます」
例え受け入れられなくても、"誰かに愛されていた"と言う事実は嬉しく思う。
死ぬ間際に、"誰かに愛されていた"と言う、些細な事実だけを抱き締めて、逝きたいと思った。
身勝手かもしれないけど。
それに彼女は、ある意味、家族より大切な人だ。
辛い時、哀しい時…いつも、傍に居てくれた。
…ねぇ。もしエレーナと出逢わなければ…私を、愛してくれてた?
「さぁ、今となっては分かりませんが」この言葉で、気休めになるのなら。
「もしかしたら、愛していたかもしれませんね」
…そうだったら、良かったのにね。
「…そうですか?」僕はエレーナと結ばれて、良かったと思うが。
…だって、こんなにも、
「…"大好き"?」
…当たり。いけないことだって、分かっててもね。
「じゃあ、もう一つ…いけないこと、しましょうか」
…え?
彼女は腕を引っ張られ、本来は手術に使うはずの台に乗せられた。
…何?私を殺すの?
「違いますよ。…僕を、生かすんです」
…私の脳を、移植する気?
「面白いこと、言いますね」彼は笑い、そして真顔になった。
「違うんです。僕じゃなくて──僕の子供を、生かすんです」
…どう言うこと?
「あー…こう言うこと、直接言うのは気が引けるんですけど…つまり、ですね…」
リーシャは濁した言葉を、クリアに言い換えた。
「率直に言います。──僕の子供を、産んで下さい」
…え?
ローザは頭がフリーズした。
…ちょっ、ちょっと待って!
「急な話で、申し訳ありませんが」
…そうじゃなくて!エレーナは?
「本人も知らないことなので、黙っていて下さいね」
彼は念を押す。
「彼女、心臓だけじゃなく──子宮も悪いんです。先天的に。だから、」
…仮腹ってこと?
「…だと良いんですが。生憎、彼女の身体は彼女自身の卵子すら作れません」
…そんな…知らなかったわ。
「僕だって。これは医師しか知らなかったらしいですよ。三日前まで」
…あの医師…!!
「怒らないで下さい。僕だって、怒りたいのを我慢しているんです」
…でも!!
「だから、黙っていることを条件に。僕の子供を産んで下さい」
…こんな、ことって…。
理不尽だ。
彼の愛したエレーナは子供を産めず、
彼の愛さない私が、彼の子供を産むなんて。
あまりにも、理不尽過ぎる。
「無茶だと分かっています。悩んだ挙げ句、見知らぬ誰かに卵子を提供して貰うことにしました」
苦しげな表情。
苦渋の決断だったろうに。
「でも、誰だか分からない人との子供を産む位なら…少なくとも、僕を愛してくれる貴女の方が良い」
…悪い子。
「分かって、ます。覚悟の上で」
…でも、共犯だから…私も悪い子ね。
彼女は笑った。
…良いわ。貴方の好きにして。
「良いんですか?」
…構わないわ。
「ありがとうございます」
と言うことで、交渉は成立。
しかし、公には出来ない。
「何か、不思議な因縁ですね」
…そうね。残酷だわ、運命って。
でも、嬉しい。
リーシャを取られたことで、エレーナに負けていた気がした。
でも、彼の子を産めるのは私だけ。
今だけは…優越感に浸れる。
「あ、このことは…誰にも言わないで下さいね」
…分かってるわ。
二人だけの秘密。
その言葉は甘美で、彼女を絶頂させるには十分だった。
その、数ヶ月後。
彼は全ての手術を終え、医師にとっては"用済みのガラクタ"となってしまった。
今は延命装置で動いている。
今日は、そのスイッチを切る日だ。
バツン、嫌な音がする。
私の嫌いな音だ。
生命の、終わる音。
まだ生きている生命を、
無理矢理絶たせる音。
「では、後は任せたよ。ローザ君」
医師はそう言って、出て行った。
部屋には、二人だけが残された。
「リーシャ君」ローザは言う。「無事、懐妊致しました」
「良かった…」まず、そう言ってから、「何故…敬語なんですか?」彼は小さく笑って聞いた。
「だって、貴方様のお子さんだから」大事に、したくて。
「ありがと、ございます…」
息が切れて行く。
彼が弱々しくなるのが、見て取れる。
思わず、顔を寄せた。
そして、彼の生命が止まる前に、私は。
時が、自身の心臓が、
止まるようなことをした。
一度も触れなかった唇。
最初で、最後に、
…重ねていた。
最初で、最後のキス。
…それが、やがて人工呼吸へと変わる。
ただ、生きてて欲しかった。
例え、私のことを見てくれなくても。
ただ、生きてて欲しかった。
そう思ったら、息を吹き込んでいた。
奇跡を信じながら。
しかし、
一瞬、正気を取り戻した彼は、
私の手を振り解こうとした。
…勿論、瀕死の彼に、そんな力は残っていなかったが。
彼なりの償い?
彼女への申し訳なさ?
それとも…私への、拒絶?
本当のことは、分からない。
けど、私は、
力づくで彼を押さえ込み、
彼から顔を離さなかった。
私の頬を伝う、
大量の、大粒の涙。
シーツを濡らし、
彼の頬を流れ、
私は訳が分からなくなる程に泣いた。
信じたくなくて。
何もかも。
例えば、
後ろで流れる心停止音。
温もりを失っていく、彼の唇。
冷たくなっていく、私の心。
そして、
二度と叶うことのない想い。
許されたかった。今だけは。
彼はそのまま、
眠るようにして亡くなり、
この部屋には、
私一人だけが取り残された。
私は、誰にも悟られぬように、
そっと涙を流した。
今、思い出しても哀しい想い出。
でも、
「ふふ」
何故だろう、今は少し、気が楽だ。
「きっと…もうすぐ、貴方に逢えるから、かな」
分かってる。
貴方の返事など。
"彼女を待つ"のでしょう?
分かっているけど、
その上で、
一つ問わせて欲しい。
"あの世(この世界)で、
貴方は私を
愛してくれますか?"
「ローザの意地悪。頑固者」
エレーナは病院のロビーにある自販機に、コインを入れていた。
ボタンを押し、しゃがんで缶コーヒーを手にする。
プシッ、と音を立てて缶を開けると、腰に手を当てて半分程、一気飲みをした。
「…苦っ」思わず、顔をしかめた。
よく見ると、ブラック。
普段は"微糖"なのに。
「何、やってるんだか…」
動揺、してるのかな。やっぱり。
ローザが、何も話さないことに。
「彼女…きっと真実を、墓場まで持って逝くつもりね」
薄暗い廊下で、彼女は一人呟いた。
独身であるはずのローザが、シングルマザーとなった。
相手は、不明。
誰にも明かされていなかったらしい。
一つの可能性が浮かんだ時、私は全力で否定した。
いや、したかった。
「まさか、ね」
だって、私ですら、
彼に抱かれたことはなかったのに。
そう、ローザに先を越されたと、
負けを認めたくなかった。
だが。
…嫌な予感は、的中した。
彼女が産んだとされる双子。
女の子の方は、勿論、ローザにそっくりだった。
そして…男の子の方は、
まさに"生き写し"と言う言葉が似合いそうな程、
──リーシャにそっくりだった。
「嘘よ…馬鹿」
彼が、そんな間違いを犯したとは考えられない。
いや、考えたくない。
だからお願いするんだ。
「もし、私がいつか…あの世(その世界)に逝ったら、沢山、沢山抱いてね?」
今晩は...。
ゴールが見えました。
良かったです。
とは言え、作品の完成がゴールではありません。
読んで下さった方々に何かを与え、何かを考えさせて、初めて...本当に"ゴール"に到達したと言えるのです。
と、言う訳で。
何かを訴えたいと言う方は、感想でどうぞ。
最後まで読んで下さった方々、本当にありがとうございました!!
言葉にならない程の、感謝の気持ちで一杯です。
これからも、皆様を楽しませ、皆様の印象に残る作品を沢山書けるように頑張りたいと思います!!




