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宰相さま、登場

お気に入り登録をして下さった人がいるみたいで。

とてもうれしいです。


これからも頑張りますので、ひとつ気長にお付き合いください。


では、続きをどうぞ。


「それでは、箱のようなものに映像が映し出されるんですね!


 でもそれは…」



 勘のいい方はお気づきでしょう。私がレークさんに説明しているのは、テレビです。


 いやーね、もっと上手く説明するはずだったんだけど、箱って言っちゃったわけですよ。


 さらには絵心が最悪なもので、言葉を探すしか伝える方法はない。


『目に見えているものとほぼ同じ映像を映し出せるんです。』


 その一言に、おお、と驚きの声を上げて、目を丸くしている。ちょっと、面白いかも。


 …ああ!ちょうどナナメ掛けの鞄の中にケータイ入ってたと思う…


 そう思って鞄の所へ近寄って行こうとしたら…


「失礼する!」


 おう?!


 何事かと思ってドアの方を見る。そこにはオロオロしているミリアと、厳格そうなおじさんが立っていた。


『どちら、様でしょう?』


 明らかに怒ってらっしゃいますよね?ってくらいの雰囲気を纏っている。初対面なのに、私、このおじさんを怒らせるような事を何かしたんだろうか。


 否。…記憶にない。


 てゆーか、この部屋から一歩も出てないのに、むしろ迷惑をかけるって言う方が難しい気がする。


 困ってレークさんを見てみると、苦笑いを浮かべて肩を落としていた。


 …その反応、なに?


 何が起こるか分からない状況に戸惑う。そして、どうすることもできなくて、とりあえず身構えてみた。


「宰相殿、ようこそ御出でで。もちろん、このことはクーン殿は知っておられますよね?」


 何この空気。現代っ子だから、もちろんそこは読んで黙るけど…


 一触即発?


 でもなさそーだけど、レークさんの笑顔が胡散臭い、いや、どす黒い…でもなくて、張り付けた様なものなのは確かだ。


「ヤツにはめられた。」


 お気の毒に。


 何にはめられたかはよく分からないけど、眉間のしわの深さに、何だか哀れになった。


 さっきまで怒ってるみたいな感じだったのに、そうでもなかったのかな。顔つきは元々そんな感じみたいだし、この人もクーンさんと同じく疲れた顔をしている気がした。


「ミリア、あいつを呼んできてくれ。」


 かしこまりました、と言うと、当たり前のようにミリアは行ってしまった。


 なになに?!今から何が起こるって言うの?


 それよりも、あいつでだれか伝わってしまうのがすごいと思った。


 一人、訳も分からず立ちつくす。すると、おじさんの目が私を捕えて離そうとしない。


 …怖いんですけど。かなり。


 苦笑いするしかできなかった。


「貴女がレークの再従兄妹、かな。」


 うっへぇ。本気で怖いっす。


 けど、ここで委縮する訳にはいかない。クーンさんのマイナスに繋がることだけはしたくない。


『お初にお目にかかります。ネイと申します。』


 ゆっくりと丁寧に礼をして見せる。顔を上げた時に部屋にいた四人は驚いているようだった。


 ちょうど入ってきたクーンさんとミリアは入口のところで固まっている様子。


 どこか変、だった?


 一人オロオロとしていると、おじさんは急に笑いだした。ひとしきり笑った後、さっきの顔とは違う柔らかなものを浮かべている。それにちょっとだけ安心した。


 それにしても、急に笑い出すなんて、ワライタケでも食べたのかな?


「実に肝の据わった娘だ。...気に入った。」


 ん?気に入られた...って何事?


 周りを見渡してみても、どうやら状況が理解できていないのは私だけみたいだ。とりあえずお茶にしましょう、というレークさんの言葉で、この空気は一時保留。


 ミリアがお茶を入れて部屋から出ていくまで、椅子にくっついたように留まるしかなかった。


「さて、この馬鹿が丸投げした話の真実を教えてもらおうか。」


 おじさんが顎で指したのはクーンさんだった。クーンさんが馬鹿だなんて、そんなこと言ったら私はどうなるんですか?!って、言いたくても言えない。


 だって、ここの中で話しを理解できていないのは、私だけみたいだから。


「ネイ、設定を言ってくれるか?」


 急に話を振られた私は、中身を溢さないようにカップを置き、三人の顔をしげしげと伺いながら口を開いた。


『私はレークさんの再従兄妹にあたり、一族の中でもレークさんに次ぐほど力があると言われています。


 そのために神官見習いの候補生として王都を訪れようとしたところ、賊に襲われそうになってしまい、そこをクーンさんに助けられました。


 現在はその休養をとるために、城の一室を借りています。』


 早口でそう言うと、大きく息を吸い、同じように大きく吐いた。


 間違えてはいないはず。ここ二、三日ずっと確かめられてたことだから。


 そんな私の様子を見て、おじさんは大きくため息をついた。どうやら、聞きたかったのは、そういうことではないらしい。


「設定などではなく、事実を教えてくれ。」


 なるほど。それなら、確かにさっきのでは答えにはなっていない。


 ここで口を開くのは私であるべきなんだろうけど、事情を話し始めたのはクーンさんだった。


「ネイは鏡盆に映し出された。」


 それだけ言えば分かるのか、妙な沈黙が息苦しい。おじさんは目を見開いたまま私をその瞳の中にとらえていた。


「この方が…」




 何処の方よ?


 急な態度の変化。それに、崇めるような暑い視線は、かなり居心地が悪い。私は目を逸らすと、カップを手にとり、息を吹きかけて冷ましにかかった。


「ネイは砂漠に倒れていたんだ。それでここまで運んできた。話を聞いていると、予言通り、とでも言

おうか。


 この娘は価値観がどうも異なっていて面白い。しかし、政に引き込まれていいような子じゃない。純粋な、良い娘なんだ。」


 私に注がれているクーンさんの熱い視線には気付かなかった。それ以外の二人は何かしら悟ったみたいだけど。


「しかし、そうもいかんだろう。鏡神祭は一月後に迫っている。


 それまで見鏡盆が使えないことが知れ渡ったら、ただじゃ済まされない。」


 そうだろう、とレークさんに問いかけるから、私はそちらを向く。目があったレークさんの表情は少し困っているようだった。


 事実、らしい。確か、前にもそんな話してた気がするけど。


「その通りですが、私はクーン殿に賛成です。この乙女を政には引き込みたくない。大人の汚い世界に巻き込むなんて言語道断です。


 ルイス派の人間にとっては格好の獲物となるでしょう。それに、まだ預言者<最後の乙女>と決まった訳ではありません。」


 …私は動物か?獲物になって狩られるなんて、冗談じゃない。


 それにしても最後の乙女ってナニ?


 意味のわからない単語に戸惑っている私を置いて、話は進んで行った。


「一月後まで何とか隠しましょう。国王陛下には鏡神祭の後に報告すると言うことして、とりあえず乙女かどうかの判断は明日の日没後にいたしませんか?」


 私のことなのに私を省いて話が進んでませんか?


 ふとした疑問だが、助けてもらった時点でこの話が始まっているみたいだ。


 私は一体何者な訳?ここでは稀有なものとでも言うんだろうか。さっきのこのおじさんの熱い視線の事も気になるし。


 もう我慢ならない。分からない事を聞くことにした。


『口を挟んでごめんなさい。だけど、分からないんです。私はこの世界にとってどんな存在なのですか?』


 それが分からないことには私の中で話は進まない。理解できないに等しい。


 置いてきぼりをくった私は何とか追い付こうと努めた。


「話していなかったな。」


 そう言ったクーンさんに目を向けると、少しだけ愁いた目をしている。なにか、大変な事なんだろうか。


「鏡盆には人間が一人だけで映ることはないと言っただろう?」


 その問いに大きく頷く。いつか聞いた話だった気がする。


「それに一人きりで映されるのは<最後の乙女>と相場が決まっている。


 <最後の乙女>とは神からのお告げを伝えることができる、預言者のことだ。


 そして、最後、と呼ばれるのは、未だかつていなかった預言者のことを指し、最初で最後の乙女の意を示している。」


 なんすか、その仰々しい話。私には無関係に思えるんですけど。そんな大それた存在のはずないよ。


 今まで日本のどこにでもいる女の子の一人だったんだもん。


 ワンピースの裾をギュッと握る。その手に柔らかく乗って来たそれは、クーンさんの物だった。


 心配そうな瞳。きっと、相当酷い顔してんだろーなぁ。なんてしみじみと思ってみたり。でも、混乱してるから、そこは許してほしい。


「ネイにとっては巻き込まれたくないものだろうが、この国の神話に記述されていることなんだ。


 それに、ネイが一度映ってしまった鏡盆はネイが神殿にいかない限り、使うことはできなくなって、この国の政治に関わってしまう。」


 う~ん。映らないのは困るよね。それにしても、神様を信仰してるのかぁ。それはちょっと厄介だよね。


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