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唐突に登場

 その日は、なんとなくそうしなきゃいけない気がして、神殿に来ていた。

 私があんまりにもぼーっとしていたからか、ライトがクーンさんを呼んだらしい。神殿に辿り着く前に合流した。


 もちろん神殿にはレークさんがいる。三人が揃うと、他の人たちは次々に出て行った。

 オウサマと違っていつも空気読んでくれるよね。有り難い。オウサマに見習ってほしいもんだよ。


 って、最近の私、オウサマに容赦ない気がしてきた……うん、こないだから冷たくしちゃってるから、明日にでも前に説明した時に食べたがってたシュークリームでも作ってあげよう。


 そんなことより、今は目の前の事だった。

 何でか分からないけど、ここに引き寄せられた。鏡盆の中の清水に触れてみる。でも、何にも怒らない。


 いつもなら、さっさと帰るところ。だけど、そんな気にもなれない。ちょっとだけある段差に腰を下ろす。膝を抱き込んで左の頬を膝にくっつける。身体を前後に揺らしながら、持って来た籠をじーっと見つめた。


 せっかく作ったベリータルト。苺とラズベリーがたくさん乗ってる。ラズベリーっていっても、形はそのままで濃い紫に近い茶色。あり得なくはないけど、色的には完璧に熟しすぎてる。味は吃驚するくらいいいんだけどね。


 それを、みんなのおやつにするために作ったけど、これまた何となく持って来たわけで。居たらあげようと思ってたのに……私が食べるか。


 そう言えば、こっちに来てからよく食べるようになったけど、太らないよねぇ。有り難いけど、ちょっと変。


『何でかなぁ?』


「それは、魔法を使ってるからだよーぅ。」


『へぇ、そーなんだ。』


「そう。魔法を使うには沢山のエネルギーを使うからね。沢山食べるのは消費するエネルギーを補ってるって訳さ!」


『ふーん、って、ええ?!何でいるの?!』


 当たり前のように私の思考を読んで当たり前のように会話を成り立たせないでよ!

 ……久しぶりだな、この感覚。イラッとくる~!


 私の今度の思考は読まれなかったのか、はたまた無視されたのか。それはわからないけど、頭に来たのは事実。だって、どこに消えたかもわからなかった奴が、急に現れてさも当たり前のように喋ってるんだから。


 奴の手には金魚すくいのポイ。それだけじゃ、まったくなんの役にも立たないのになぁ。って、突っ込まないけど。面倒だから。


『ジュノ、今まで何で出てこなかったの?!』


 ずっと呼んでたのに。


「いやぁ、僕にも色々あるんだよ。」


 あ、ポイに穴開けた。使い方、分からないんだろうなぁ。……教えないけど。


「ネイ、神が現れたのか?」


『ハイ……何の緊張感もないやつが現れましたよ。』


 そう答えると、クーンさんとレークさんはそれぞれ私の肩に手を置く。見えたと分かった瞬間にジュノは軽ーく、やっほーと挨拶した。


「お久しぶりです、神よ。」

「そんなに仰々しくしないでよー。」


 ほんと、そうだよ。こんだけ緊張感がないと敬う心って言うのを忘れそうに、いや、忘れたくなっちゃうよね。


「あ、それ、ケーキだね!よし、食べよう。」


 いや、なんでそうなる?!別にあげるけどさぁ。

 切り分けたものを皿にのせて渡すと、添えられていたフォークでジュノは優雅に食べはじめた。なんだか、無性に殴りたくなってきた……抑えるけどね。


 あからさまに嫌な顔をしてみても、やっぱり反応ないし。うん、世の中広い心が大切だよ。

 ジュノが大きな口でタルトを運んで行くのを横目で見る。それだけじゃ耐えられなくなって、私も切り分けられたケーキを食べ始めた。


 うん、我ながらいい出来だ。

 大口で食べていると、後ろから視線を感じた。レークさんだ。羨ましそうな目をされると、なんか罪悪感感じるよねー。


『ねえ、ジュノ。二人にも食べてもらいたいんだけど……』


「そうすればいいじゃないか。」


 いや、手を離したらあんたが見えなくなるっての!

 突っ込みたい気持ちをきつく手を握ることで我慢する。大人になったって褒めてほしいところだよ。


「神よ、手を離すと貴方が見えなくなってしまうのです。」


 レークさん、よくぞ言ってくれた!まぁ、自分が食べたいだけなんだろうけどね。

 手に取るように分かる思考に、思わず吹き出してしまった。その私を見る目が痛い。笑顔って言うのが余計怖いよね。


「ああ。それなら、ネイの一部を手にしていれば問題ないよ。」


『一部?』


「そう。髪の毛とか、血とか。」


 それって、あんまり気持ちのいいものじゃないよね。ついついげんなりしちゃう。その表情を見たジュノは面白そうに声を上げて笑った。


 腹立たしい。ヒジョーに腹立たしい!

 少し考える。髪の毛を渡すのは……キモチワルイ、よね。だからって血って。あ、でも。


 私はひらめいた。一つ思い浮かんだことは―――あの腕環。


 私の意思を奪うためのあの腕環。それを元にするのはなんかイマイチ嫌な気分なんだけど、他には思い浮かばないもんね。あんな風に、装飾品に私の血で宝石みたいなの作って埋め込む、とか。魔力を石みたいにする、とか。


 ふむ。考えてるだけじゃなく、やってみるか。

 二人に離れてもらって、目を瞑る。両手を合わせて握り、ただ念じた。掌に魔力を集める。それを一つの塊にするように意識した。


 しばらくして目を開ける。目の前にいる人たちは目を丸くしていた。


「そうキタか……まあ、間違ってはいないよね。」


 そう言って、ケーキを食べ続けるジュノ。


「ネイ、何をしていたんだ?」


 とにかく吃驚しているクーンさん。


「すごく、光っていましたね。」


 呆然としながら状況を説明してくれたレークさん。

 三者三様の感想を聞いた私は何も答えることなく掌を開く。そこには直径5mmくらいの斑のある半透明の丸い塊ができていた。宝石で言うと、オパールみたいな感じ。


 やったー、成功だよ!って、まだこれを持っただけで見えるかどうか分かんないから成功とは言わないか。


『どちらかで構いません。これを持ってみてくれませんか?』


 そう言うと、すぐにレークさんが手を差し出してきた。私はその掌に石を置く。持った瞬間の表情で、やっぱり成功だったんだと理解した。


「これは……」


『魔力固めてみました。』


 簡潔に言いすぎたらしい。

 何やら説明を聞くと、やってみた、ハイ出来ました、というものではないらしい。そう簡単に行くはずがないものを簡単にやってしまったことに驚いたんだって。そんなの自分も吃驚だわ。

 でも、私、チートらしいし。出来ても不思議じゃないかもしれない。


 そう考えてると、そうだよー、と返事が返って来た。別に心の中で整理するために考えてるだけだったから、答えてくれなくて良かったんだけどね。


『これを持っていれば見えるみたいですね。レークさん、その腕環貸して下さい。』


 渡された細い金の腕輪。私はマジックよろしく、遊ぶようにそれに親指と人差し指を合わせて一カ所を平らにする。そこに石を埋め込んでからレークさんに渡した。

 ちょっと超能力みたいで嬉しくなったのは内緒だ。


 私はもう一個塊を作って、次はクーンさんの分だと思ってクーンさんを見る。だけど、装飾品を付けてない……


 ふむ。後で何かプレゼントするかな。

 そう思って、今はとりあえずそれだけを渡した。


『それで?何があって今まで出てこなかったのか説明してもらおうか。』


 さっき適当に流されたけど、聞くまでは絶対に何回も質問してやる!

 この意志が伝わったのか、諦めたようにジュノはため息をついた。のはいいんだけど。


 どうして今お皿を差し出されてるのかな?

 睨みつけてみても、飄々とした態度は変わらない。気が利かないって言う暴言が耳に入った気がするんだけど、気のせいかな?いや、気のせいじゃないらしい。クーンさんもレークさんも心配そうな顔で私を見ていた。


 怒らないよ、大人だからね。

 それでも二人はいつ私がキレるかハラハラしながら様子を窺っている。私は怒りを抑えながらお代わりのケーキをジュノのお皿に置いてやった。


 満足そうにまた食べ始めたジュノにガンたれる。しばらく見続けていたらようやくフォークを置いた。

 って、食べ終わってるし。成る程。食べ終わったから語る気になったのね。


「さて、思い返せば嫌なことばっかりだったんだけどさぁ。」


 いきなりだらけ出したジュノ。二人とも、慌てないで。私、まだ我慢できる。……手を握りしめたのは秘密だけどね。


「いやぁさ、上司の神がね、怒っちゃったんだよ。ほら、あの神殿でみんなに姿見せちゃった上に、死人まで出ちゃって。謹慎処分だよ。」


 謹慎処分……学生じゃあるまい。


「厳罰処分喰らうし、当分異世界旅行は禁止だし。しばらくは乙女の手伝いをしろってさ。」


 その体勢で言われると、腹が立つ。おじさんがテレビ見る体勢だよ?いらついちゃう。

私はジュノの顔をじっと見つめながら近づいて行く。


 何事かと見つめ返してきたジュノに笑顔を向けながら、その腕をえいっ、と叩いて勢いよく抜いてやった。

 案の定ジュノはがくんと頭を落として驚いている。別の意味で他の二人は驚いていた。


「ネイさん、貴女が神に気易いのは分かりますが、その……直接的な攻撃はやめた方が良いと思います。」


 はいはい、ごめんなさいねー。


『そんで、ジュノ。あたしはこれから何をしたらいい?ジュノが望むのはどんなこと?』


「別に、何もないよ。」


 あっけらからんと言われて拍子抜けする。だって、私、この世界にチキュウの文化とかを伝えるためにきたんじゃ…?


「まあ、強ちそれで間違ってはいないよ。」


 そう言うと、よっこいしょ、なんて言いながら起き上がった。どうやら、また勝手に思考を読んだらしい。


「乙女、君は好きなように生きて、その都度必要だと思った知識を少しずつ人々に与えるんだ。」


 言われて、拍子抜けした。自分の持ってる知識を全て余すことなく出す必要があると思ってた。


「当面はこの国を建て替えるためにも君の力が必要になる。僕はそれを支えるよ。」


 クーンさんとレークさんも支えてくれると言った。なんか、頑張れそうな気がする。みんなでいると

楽しいし、心強いから。


『ありがとう。私、頑張るね。』


 いつもよりももっと前向きになって、とにかくまずはこの国を変えるために頑張ろうと思った。


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