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その後

 あの裁判から、一月が経った。清水の泉に落ちたルイスは即死だったらしい。思い出すと思わず顔を歪めたくなる事実だった。


 その事を考えながら、私は今日もため息をつく。だって、未だにルイスの調査は終わってないから。妙に疲れた体に鞭を打ちながら書類に目を通す。ホント、呆れちゃうようなことばっかだった。


 今までよくこんなに悪事を働いてきたもんだよ……なんでバレなかったんだろう。

多分、ちょっとずつの変化だったからみんな気がつかなかったのかも。それか、黙認して同じく甘い汁を啜っていたか……


 どの道、サイテーって事には変わりない。ホント、あきれ果てちゃう。

 そんで、更に驚いたことには、ここ数年でルイスの悪事が大胆になってたってことだ。


 ライトが街を追い出された時期から税や役人の配置、新たな改革をしていたらしい。力を入れる事象がどんどん大きくなったところを見ると、どうやら傲慢にも過信していたんだと思う。


 悪事が露呈しなかった事。それが自信に繋がったんだろう。だからと言って、誰がこんなに明らかになることがあると思うんだろうか。


 散々な報告書を読みながらため息をつく私に、ミリアが紅茶を淹れてくれた。


「ネイさま、かなりお疲れのようですね。どうぞ、これを飲みながら一息ついて下さいな。」

『ありがとう、ミリア。』


 カップを受け取って中を見る。どうやらミルクティーを淹れてくれたみたいだ。


 うーん、いい香り~。ミリアって、本当にお茶淹れるの上手だよねぇ。

 そうやって和やかな所に……


「ネイ!」


 おやおや。せっかくの休息の邪魔しないでくださいよ、オウサマ。まあ、名前呼んでくれるようになったのは嬉しいけどね。


 こんな時に現れた人物を気にしないかのように、ズゾーっとお茶を啜り飲む。だけど、すごい顔をしたオウサマを無視することはできない。ってことで、ミリアにオウサマの分のお茶を頼み、近くにいる騎士の人に椅子を頼んだ。


 それに座り、お茶を手に持つオウサマ。明らかにすねてる表情。それを見て、私は笑わずにはいられない。ってことで、空になったカップで隠しながらほくそ笑みましたよ。


 彼の人が何を言いに来たかはわかってる。だけど、ちょっと気分転換のために犠牲になって下さい。

 という、私の勝手な理由で苛々の矛先が決まった。


『どうしたんですか、オウサマ。』

「あの報告書はなんだっ!聞いていない!」


 言ってないからねぇ。てゆーか、そんなこというなら、最初から全部自分で調べればいいのに。――…とは言えまい。


 今までの報告書はほとんどオウサマに届いてなかったか、偽装されたものだった。


『まあまあ、血圧上がりますから、そんなに興奮しないでくださいよ。とりあえず、ミルクティーで落ち着きましょう?』

「落ち着いていられるかっ!」


 あらあら。こんなに興奮してる人を余計に刺激しちゃダメだよねー。


 ということで、私の鬱憤は飲み込むことになった訳だが……オウサマのムッスーとした態度がどうも気になる。大きな子供だよ、まったく。


 今の姿を見てると、子供加減がジュノといい勝負だ。


 あ、てゆーか、最近ジュノ見かけないよねー。あとで神殿にでも顔出すか。


 そう思って、何とかオオサマを撒いた後、私は久しぶりに向かう神殿に手土産を持って向かった。

 っていうのに。ジュノはいない。いくら名前を呼んでも、鏡盆に触れてみても出てきてくれなかった。


 不思議がって首を傾げていると後ろからレークさんが来た。他の人たちは気を使って神殿から出て行っていた。


「どうかなさったのですか?」


 小首を傾げる姿。……なんか、女として負けた気がするぜ。

 中身を知ってるだけに、意外と腹黒い事はわかってる。なのに、キレイに見えちゃうのはなんか癪だよねー。


 って、今はそんなことはどうでもいい。私は、ジュノがいないことを話した。


『私が、<最後の乙女>ではなくなったってことはないですか?』


「それはありえませんよ。最初で最後の乙女と言われていますし、この国はまだ変化していません。神との対話が今の時点で出来なくなるということは、乙女の定義に反しています。」


 なるほど。そう言えばまだ何もしてない。確か、チキュウにあった技術を伝えるために頭ん中が爆発するほど知識詰め込まれたんだった。


 あの悲惨な日の事を思い出すだけで吐き気がする。それに、ジュノに対するちょっと恨めしい気持ちも思い出した。


 あんにゃろう、次に会ったら今までの鬱憤を晴らしてやる。

 そう思ってたのに、もうしばらくジュノに会う事はなかった。


 それとは違い、毎日会うのはオウサマ。こんな厄介な人だとは思わなかったよ、まったく。


 ため息が出ちゃうほど呆れてますよ。

 この人は、毎日愚痴を溢しにやってくる。愚痴を言いたいのはこっちだっての。


 だって、あの一件以来、私は城に住んでいる。執務室的なものまで出来ちゃったし。まあ、あんなことあったし、しょうがないとは思う。だけど、悲しいよね。


 つまり、私はシェパード家から引っ越したわけで。クーンさんと離れ離れになっちゃったってこと。


 滅多に会えないんですよ?そりゃあ、キレたくもなりますわ!


 今日もオウサマは私の目の前に座って、私の作ったお菓子を食べてる。美味しそうに食べてくれるのはいいんだけど、殿下さえここにきておやつ食べるの我慢してるってのに、大したお父さんだよ。


『ミリア、後で殿下たちにこのティラミス届けてくれる?』


「はい。」


『それから、こっちはミリアの分ね。』


「ありがとうございます!」


 ミリアは甘いものが好きみたい。私が作るお菓子のファンになったって言ってくれた。これだけ嬉しそうにしてくれると嬉しい。


 それに満足して頷き、それからもうふたつ差し出す。届けてほしい人を告げると、その内の一人分は自分で届けた方がいいって言われた。


 だけど、首を横に振って意思を示す。それに渋った表情を見せるミリアに、本心を吐露しちゃうのは、私の甘え。


『会ったら、ずっと一緒に居たくなっちゃう。』


 だから、だめ。


 最後の言葉は飲み込んだ。口に出したら、泣きそうだったから。


「ネイさま……」

「ネイ……」


 二人の零した言葉は、私を心配してくれている。私は微笑むしかできない。


「すまないな。まだうるさいやつらがいて、二人を一緒にいさせることができない。ネイをこの城から出す事はできない。最終的にはクーンをここに住まわすことになりそうなのだがな。時間がかかりそうだ。」


 わかってるよ~。だから協力してんじゃん。って、拗ねたくなる。

 そうじゃなかったら投げ出したくなる事だらけですからねぇ。


 机に倒れて伸びきってみる。そんなところに、やって来た人物がいた。


「何、やってんだ。」


 不躾な言葉。オウサマがいると言うのに全く動じない。流石だよ、ライト君。


『ライト~、構って~。』

「うわ、面倒臭っ。嫌な状況に来ちゃった?」


 ミリアにそう聞いてる。だけど、ミリアは何も言えない。

 だって、オウサマはいるは、何だか知らないけどこの国の象徴的な人物らしい私がいるはで、不敬な態度はとれない。


 てゆーか、ミリア曰く、まったく臆さないライトが変わってるらしい。


 そのままミリアはティラミスを持って出て行った。


 状況が理解できないライトは一瞬困った顔をする。だけど、ティラミスにつられて席に着いた。――…愛い奴め。


 ライトはたくさんの諜報活動をした後に、身分が回復されて私の部下になった。身分回復といっても、周りの人たちの目が変わるわけじゃない。それでも、国は少しずつ変化していた。


「ほら、追加の報告書。各部署から漸く上がって来たな。」


 ホント、ようやくですね。

 長いことかかって上がって来たレポートに目を通す。


 ……駄目だ、こりゃ。思わずげんなりしちゃう。


『やり直し!』

「本気か?」


 ライトが聞くのも良く分かる。これでも、いろいろ指示したわけだし。形式まで指定したし。だけど、まったくもってなってない。


『駄目なもんはダメ!修正する場所、赤ペンで直したほうがいい?』


 なんて、先生みたいな事言ってみたけど、実際はさせないよね?って威圧をかける。勿論、ライトは引きながらティラミスをを平らげて出て行った。


 さっき報告書を出した各部署を回ってるんだと思う。私がした事だから何か悪い気がするけど、お疲れ様で~す。



******



『はぁ~、疲れた……』


 思わずため息と独り言が零れる。椅子の背もたれにだらけきる。天井を仰いで手足は完全に放り出した。


「乙女さまともあろう人が、あられもない姿で……情けねぇな。」


『うるさいぞー、ライト。乙女さまって言うな。』


 呆れたように、はいはいと言いながら、ライトは帰る稀を伝えて出て行った。


 ミリアは寝室の用意をしてくると言っていないし、気を抜くにはいいタイミング。これを逃したらこんな風には出来ない。ま、ミリアにはいつも情けないとこ見られてるから見られてもいいんだけどね。

 目を瞑って、もう一度深く息を吐く。その時、ノック音が聞こえた。


 ミリアかなぁ?

 そう思って、だらけた状態で返事をしたら――――。


「お疲れですか、乙女さま。」

『ひゃあ!』


 どうして、なんで!クーンさんがここに?!


 驚きすぎて、奇声を上げた後は声が出てこない。そんな私を見て、クーンさんは悪戯が成功した子供みたいな顔をしていた。



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