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狂気‐その2‐

お久しぶりです。


「ははは!はーっははは!!」


「何が可笑しい、ルイス。」


 オウサマの鋭い視線がルイスを射ぬく。でも、奴は全く気にした様子を見せなかった。……ちょっとは気にしろっての。

 てゆーか、突然笑い出すとか怖いんですけど。


 あんまりにも驚いた私は咄嗟にクーンさんの後ろに隠れた。

 盾にしたつもりはないけど、ルイスがあんまりにも怖すぎて。だって、キツネ男が見てるのは私。それ以外は全く目に入っていないかのように、瞬きもせずにこっちを見ていた。


 クーンさんの後ろから覗き見る。やっぱり私を見つめてた。

 クーンさんの腕につかまって、恐る恐る見ていたからか、手が震えていたらしい。それを空いてる方の手でそっと包んでくれた。


「大丈夫だ。ネイには触れさせない。」


 たった一言。なのに、ひどく安心感を与えてくれる。触れているその温かい手から、私はなんだか勇気をもらえてる気がした。


 自分を落ち着けるように、ゆっくりと深呼吸をする。確かにさっきと同じように恐怖心はあるけど、幾分かは冷静になれた。


 影から一歩前に出て、クーンさんに並ぶ。この勇ましい様子を是非写真に納めてほしいよ……っ!

 とか、無理だけどさー。それくらい頑張って決心して前に出た。


『ルイスさま、何が可笑しいのですか?』


 オウサマがさっき質問したのに、答えないから同じ質問を投げかけた。

 キツネ男は立ってるってのに、上半身だけ力を抜いてるから、ちょっと…いやかなり変な体勢になってる。


 顔も完璧に下に向けてうつむいていたと思ったら!急にこっちを見てきた。


 怖すぎるっての。ホラー映画よりももっと怖い。

 生きた人間の方が怖いって名言残したの誰だろう?今の状況が当てはまり過ぎて、その人に君は偉大だって言って、表彰したい気分だ。


「王よ。そこまで大きく出て、周りの人間がついてくるとお思いですか。」


 ……なるほどね。そのことについて笑ったわけだ。

 てゆーか、そんなこと死ぬほど失礼。ついてくるとか来ないとか、その人次第じゃない?キツネ男が今まで周りの人間をどう動かしてたかは知らないけど、あの男が周りを操ってたってことは確かだ。


 ごめん、オウサマ。口を挟ませてね。


 ということで、口を挟まれる前に話に割り込んだ。


『貴方には関係ないことですね。だって、貴方はその地位を剥奪されて、この国の政治には口出しできなくなる。この後の事は、私たちにお任せ下さい。貴方は自分が何を仕出かしたのか反省するべきです。』


 そう言ったら。やっぱりね。逆上された。


 目は血走って、口からは何を言っているのか分からない音が零れ落ちている。ついでに唾液も。

 あんまりにも怖かったから、もう一度クーンさんの後ろに隠れることになった。


 背中にしがみつくと、その手をクーンさんのそれが包んでくれる。温もりに反応して見上げると、優しい瞳が私を捉えてくれていた。


 普段なら、二人だけの世界にすぐ入る。だけど、今はそうはいかない。


 何か訳のわからないことを言っていると思いきや、充血して見開いた目が私を捉えた。血走った目は、狂気を表している。叫び、目を見開き、訳のわからない言葉を言い続けている。最早、言葉とは言えないものだった。


 その様子を見ているジュノは、いつもと違って何も感情が見えない。あまりにも無表情過ぎて少し畏怖を感じた。


 いつものジュノと違う。状況が状況だけに戸惑ったけど、やっぱりいつものジュノとかけ離れ過ぎて不気味だった。


 それでも時間は過ぎてく。

 どうやっても結末が見えてしまう時が来る事になった。こんな時はいつでも刻の流れが嫌になる。だけど、絶対に避けられない。


 誰かが小さくため息をついた。その方向に目を向けると、居るのはジュノ。本来なら見えないはずなのに、みんながその一点を見つめていた。


 さっきまで狂ってたはずのルイスまでもがそれを止めて見つめている。私は何が起きたのかさっぱりわからなかった。

 だけど、何かが起ころうしている。それは確かだ。


 クーンさんの背中から一歩前に出る。手はまだ握られている。さっき私が動いたせいで離れていたレークさんの手も、私の肩に触れていた。


 私の目に映っているジュノは、何だかいつもとかけ離れ過ぎていて、なんだかんだ仲良くしていたはずなのに今はその時の雰囲気の欠片さえもない。まさに、圧倒的な存在感と、厳格さを持っていた。いや、神々しいと言った方がいいかもしれない。


 段々とジュノが光を帯びて行く。光が当たっていると言うよりも、ジュノ自身が光っている。

 誰もが息を呑み、発光し始めた空間を見ている。この時、みんなにジュノの存在が確認できたんだと思う。


「か、神よ…そこに、おられるのですね……」


 ルイスは両手を伸ばしてゆっくりと前進して行く。その恍惚とした表情は病的だった。



“「触れるな。」”



 私たちにしか聞こえてないと思った。だけど違った。

 みんながあまりにも驚いてるから、おかしいとは思ったんだけど……やっぱり、聞こえてるみたい。


『ジュノ……?』


 話しかけちゃいけない。そう思ったけど、名前を呼ばずにはいられなかった。


「おお、神よ…何故そのような事を、おっしゃられるか……」


 わなわなと震え、まだ近づいて行く。それをジュノが振り払うかのように手を動かす。

 よくわかんなかったけど、何かが弾けたようにルイスの身体が弾かれた。それは明らかな拒絶。


 そこから、ルイスは一変した。


 さらに目が血走って、口からはまた訳のわからない言葉を溢している。まさに狂気。私は恐怖のあまり、クーンさんに縋りつく。クーンさんは抱きしめてはくれなかったけど、宥めるように私の腕を撫でてくれた。


 ここからは、もう、誰も口を開かない。ただ只管見守るしかなかった。


 ゆっくり、ゆっくりと歩き続けるルイス。と、急に走り出した。ジュノはそれを避ける。彼はそのまま清水が溜まった場所へと落ちて行った。


 それはつまり……死を意味する。清水は毒にもなり得る。そう教わった。

 私は咄嗟に目をつむった。恐怖におびえていると、クーンさんは今度こそ抱きしめてくれる。それは逃げでしかない。そう分かっていたけど、甘えてその中に私は留まった。


 周りの人はざわめいている。


「……ここから、出よう。」


 私は腕の中で小刻みに何度も頷いた。

 沢山のざわめきの中、私は抱きかかえられるようにして神殿を後にする。


 本当はそこにいて、最期までルイスを見て居るべき。だけど、人の死に際を見るのは初めてだ。命の灯が消えてく様を自分の目で見ることがどうしても怖かった。


 クーンさんに連れられて行く時、ジュノの事を思い浮かべる。人に見え、声が聞こえるようになった。だけど、今それを問うことはできない。


 ジュノ、どうなったんだろう?いつもと違ったけど大丈夫かな。

 そう思いながらも、神殿に戻るのは怖いし、今はどうしようもない。


 もうしばらくしたら聞いてみよう。そう思って、悪いとは思いながらも、一足先にクーンさんの邸に戻った。



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