ひかり‐その2‐
「あんたみたいなヤツに、初めて会った。」
ここの人たちは違うんだね。この世界に来て、何度となく思考の仕方が違うと思ったけど、これほどまでに認識が違うと、本当に自分の考えが合ってるのか心配になる。でも、ここの人たちが懸念することを、私はそうも思わないから。私は私の考え方でライトに接するまでだ。
『ライト、一つ言っておく。私の居た国ではね、誰でも権利を持ってるの。』
不思議そうに見ているその顔は、突拍子もないことを言い出す私をおかしく思っている様子だ。そんな顔が見れて嬉しいと思う私は、十分おかしいのだろう。
『生きる権利、自由であるという権利、発言の権利、多分ライトが欲しいと思ってる権利を全て持てる国に私は住んでた。だから、ここの人とはちょっと考え方が違うの。』
皆がみんな、ライトを酷く扱うとは思って欲しくない。
『私はライトをライトとして扱うし、仲良くしたい。友達になりたいの。今は、偽善者って言われてもいい。それが自己満足だってことも分かってる。でもね、ライトと友達になりたいのは本当だよ。今の私には、ううん、今までの私には友達って呼べる人はいないから。』
今まで地球では人と深く関わらないようにしてきた。だから、友人って呼べるような存在はいなかった。
人とは浅く付き合って、クラスに居ても、別に輪から外れてる訳でもないけど、皆と特別仲が良い訳でもない生徒を演じてたの。だって、私と関わる人はみんな私の所為で不幸になると思ってたから。
だけど、ここでは違う。クーンさんも、レークさんも宰相さまも、ミリアも、もっともっと多くの人だって、私と関わったことで大変な思いをしたって、自分の力で何とかしたいって思えるような人たちに巡り合えたから。だから、もっと人と深くかかわり合いたいと思った。
でも、私のこの国においての存在を知っている人と、そうなることは叶わない。むろん、侍女であるミリアやマーサさんだって無理だ。だったら、全然関係がない人と友達になりたい。私を私と見たうえで、仲良くしてくれる人がいてくれたら嬉しいって思ったから。
「…とも、だち?」
『そう。私にとって初めての友達になってよ。』
とにかく、ライトの事を知りたかった。今の国の状況を伝えてくれる人だし、それだけじゃなく、年が近いからよく知りたい。何でも話せるような、そんな存在になってくれると嬉しい。
「…気が向いたらな。」
『うん、嬉しい。』
にっこり笑顔を思わず浮かべてしまう。そんな私を、クーンさんが面白くなさそうな顔で見ていることに気付かなかった。今は眼中にライトしか入っていない。
「惚れるなよ。」
私をぎゅっと抱え込み、低い声でそう言うクーンさん。全くもって訳が分からない。今、友達になるって話をしてたのに。
『クーンさん、私の好きな人を知っているはずですよね。…心変わりなんてしませんよ。』
拗ねて言ってみる。
「違う、ネイに言ったんじゃない。」
「はっ。男の嫉妬は見苦しいぞ。それに、俺はそんなちんちくりんは好みじゃない。」
睨み合っているのか、視界に入ってくるライトの目力は強い。
『言い得て妙。自分の事なのに言い返せない。』
確かに私は二人と並んでると、残念過ぎる。クーンさんは男らしい感じで格好良いし、ライトはレークさんとは違う綺麗さがあって格好良い。私は子供っぽいし、背も低いし。
事実なんだけど、それを再確認させられたようで、私は落ち込んでしまった。
「い、いやっ、別に、可愛くない、とか言う訳じゃなくて、だな…」
なんかライトが焦り出したけど、よく分からない私は見ているだけに留まった。理解できていないのが分かったのか、諦めたようにため息をついて私から目を逸らす。その意味が分からなかった私がクーンさんを見てみると、こっちはこっちで目を逸らさずに私を見つめ続けていた。
なんだかなぁ。
収集がつかなくなった私は、何かを考えるようなポーズをとって二人から目を逸らした。
しばらくして、口を開く。はっきりさせておきたい事があったから。
『ライト、急に税金が上がったのって何年前って言ってたっけ?』
「7年前。」
その言葉に、考え込んでしまう。
『クーンさん、この国の税金はそのくらいに上がったんですか?』
「俺もさっき不思議に思ったんだ。ライトの言っていたような事実はない。」
やっぱり。そんな気はしてた。
「…っ、待てよ!俺が嘘ついてるとでも言うのか!」
声を荒げるライトに、クーンさんはクールなまま言う。
「誰もそんな事は言っていない。」
そうなのだ。ライトを信じていない訳じゃない。だけど、何かしら捻れが存在するのもまた事実。国の中枢で働いている様な貴族と、一般国民の間に歪みが生じてる。私はそれを明らかにしたいだけだ。
『クーンさん、これもまた腐敗してるせいだと言えますか?』
「…すまない。」
謝るクーンさんにその必要が無いと言う事を伝え、私はもう一度考えるポーズをとった。一人訳も分からないと言った様子のライトは、混乱しているみたいだ。それでも、私やクーンさんが考え事をしている邪魔は決してしなかった。
『7年前はまだ議会が解散されていなかった。一斉辞職をする前の議会は相当好き勝手していたはず。と言う事は、秘密裏に税を上げた可能性もあるのかもしれない。だけど、それが陛下に伝わらなかったのはどうして…?』
「俺さえも知らない。7年前ではまだ今の役職に就いてはいなかった。城下にも出ていたし、それなりに知ることもできたはずだが…」
悩ましげなクーンさんは、国の事をよく考えているのが分かる。そんな姿を見たライトが、少し感心している。さっきまでの尖った感じが完全に消え、一人話についていけない様子が捨てられた子イヌみたいで可愛い。って、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。
『でも、7年前にあげられた税が議会解散後に明るみに出なかったのはどうして?』
「解散しても、影響が無い人物かもしれないな。」
なるほど。大臣クラスになると関係ないのか。議会派は過激。だけど、王に対しては忠実だって言われてるから、それに関係ない人が原因かも。だけど、今回ルイスが大臣なのに、過激派トップ。おまけに今回私を誘拐した一件では、完全に独断だった。おまけに、陛下を軽んじている様な発言や行動ばかり。
私が<最後の乙女>としてこの国の中に存在してしまったことで、何かが変わってしまったのかもしれない。
正直、それが事実だったらきついなぁ。
そう思ったのが顔に出ていたらしく、苦い顔をした私をクーンさんが酷く心配してくれた。だけど、ひたすら何でもないと言い通す。納得してくれた様子はないけど、思っていたよりかは早く引いてくれたから、すごく有り難かった。
「国民の声が一切陛下には届いていないことが分かったな。これは、また大忙しになりそうだ。とりあえずは、ルイスの裁判を終えてからになりそうだが、なるべく早く進めるとしよう。」
いつもよりも饒舌にそう言うと、早く帰ろうする。それを止めると、私はライトと約束した。
『明日、今日と同じ時間に此処に来られる?』
私の腕を引こうとするクーンさんを諌めて、ライトを見上げる。見上げているにも拘らず、やっぱり置いてけぼりを食う犬みたいな表情が抜けていなかった。
「…たぶん、できる。けど、なんで?」
『さっき言ったでしょ。約束の証として、私の大切な写真をライトに持っててもらいたいの。それと、食べ物で好き嫌いある?』
「なんで?」
さっきと同じ質問を返され、私はニッと笑って見せた。その時の驚いた顔といったら。こう言う顔見るの好きなんだよねぇ。とか、久しぶりに腹黒い自分が出た事が嬉しかった。
こんな事が出来ないくらい、自分の身体が上手くできなかったから、こんな当たり前のことが嬉しくてしょうがない。自由って最高ですよね。ってことで、こんな気持ちをライトにも味わってもらいたい。此処で苦しい思いをしている人たちに味わってもらいたい。
私はそのために頑張るの。私を受け入れてくれたこの世界を好きになったから。
『ライト、甘いもの好き?今まで簡単なものしか作って無かったから、凝ったもの作りたいんだけど、クーンさんは食べてくれないから。』
「…別に、食べるが…」
言い訳めいた言葉に、私はクーンさんを睨みつけた。だって、苦手だって言ったの覚えてるもん。確かに此処のお菓子は甘過ぎるけど、それでも、私の居た世界のお菓子だって甘いから。
「食べる。甘いものなんて、食べたことない。」
『ホント?!じゃあ楽しみにしててね。ご飯も作ってくから、お腹空かせておいてね!』
なんか、嬉しい事に友達が出来ました!無理矢理作ったって言われてもしょうがない感じだったけど、それはひとまず置いといて仲良くなれたらいいなって思う。
何を作ろうか、どんな話をしようか。そう考えてると、これから先の不安な思いがほんの少しだけ晴れた気がした。




