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心の安寧

私生活が立て込んでいて、更新が遅れてしまいました。

これから先も忙しくなりそうですが、なるべく頑張ります!


 誰かの手が、髪を撫でてる。その感覚で目が覚めた。


 ゆっくりと目を開けて行くと、いつもと違う光景が目に入る。私の顔を覗き込んでいるのは、男の人だった。



『ゆ、め…?』


 思わず声が零れる。寝起き特有の声で掠れた小さい声だったにもかかわらず、ちゃんと聞きとったのか、頬笑みがこぼれている。その人がとった行動で、それが現実だと分かったのは次の瞬間だ。


『い、たい…』


 鼻をつままれて、痛みが帯びる。痛みが感じられるってことは…


『…現実?』


「そうだ。お早う。目が覚めたか?」





 ええぇぇぇぇええっ!


 現実ですか?私の願望が実現化しちゃってるんですか?なにこれ何これナニコレ?!


 慌てふためく私は眩しいものを見るような目で見やり、微笑んでるクーンさん。その微笑みは、寝起きにはきついです。キレー過ぎて、破壊力倍増。


『ホントに本物?本物のクーンさん?』


 その問いに一言だけ肯定をくれ、私は頭を撫でてくれている人の胸の中に縋りついた。


 ぺたぺたと不躾にも触ってみると、ちゃんと物体としてそこにある。妄想ではなさそう。それに、温かい。その感覚が夢じゃないとも教えてくれた。今、私の感覚全部で感じられているものは、現実だ。


『ホントにホンモノだ。クーンさんだ。』


 名前を何度も繰り返して呟く。その間中、クーンさんは返事をしながら私の頭を撫でてくれていた。

そこで、気付く。これが現実なら、きっと昨日の事も現実。私は、知らない男の人に…



 次の瞬間には、眼前にある身体を突っぱねていた。


 驚いた顔をしてるクーンさんが目に移る。その表情の中には、少し寂しげなものが混ざっていた。そう思うのは私の願望かもしれない。


『わ、たし…』


 声が震える。だって…怖いっていう感覚が襲って来たから。


 私は知らない男の人に触られた。自分の意思とは関係なく、自分の身体を勝手にまさぐられた感覚の気持ち悪さ。それを思い出した私は、クーンさんを裏切るような行為をした気がして、思わず拒絶していた。


 まだ他の人にも触られたことがない場所を触られたことも思い出す。すぐに助けてもらって安心していたけど、あの助けがなかったら、今自分は自分としてここに在れたのだろうか。答えは否。


 あれが続いていた時の結果は見えている。私は私を好きだと言ってくれているクーンさんを裏切り、信頼を失っていたかもしれない。そうしたら、私の心は終わりだ。


「ネイ、拒絶はやめてくれ。たとえどんな理由があろうとも、次にされたら俺は立ち直れないかもしれない。」


 そう言われて、もしも自分が拒絶されたら、と思ってみると、心が締め付けられるような気がした。それこそ、立ち直れない気がする。


 自惚れかも知れないけど、クーンさんは私の事を想ってくれている。だから、思っていることを正直に話そうと思う。


『知らない人に、触られた…』


 その一言を聞いた途端、クーンさんは私をその腕に再び納めてくれた。


「俺の方が、いっぱいネイに触れているよ。」


 そう、なんだけど、その通りなんだけど…何かが胸につっかえてる。何かが引っ掛かって、その答えじゃ心が納得してくれそうにないの。


「これから、俺の方がいっぱい触る。その事実はかえられないと思うが…」


 いいい、今、さらっと恥かしいことを!


 埋めていた顔を思い切り上げた。きっと顔は赤いと思う。


 目の前にいるクーンさんは、何だか表情では感情が読めなくて。いつもの板についてる無表情じゃなくて、いろんな感情が混ざった複雑な顔してた。


 そんな顔が見れたことを嬉しく思い、私は抱きしめてくれてる腕を緩めてもらって手を伸ばす。それから、クーンさんの頭を、いつもしてくれてるのと同じように撫でた。


「…ネイ?」


 さっきとは違う複雑な表情。その中に照れるっていう感情が読み取れて、心がくすぐったくなった。


 いろんな感情を見せてくれて、いろんな感情をくれるこの人のことが、すごく好きだって思う。本気で心配してくれて、全力で助けに来てくれた。それだけで十分だ。


 急に頭を撫でていた手を取られる。その時の顔は至極真剣で。私は目を離すことが出来なかった。


「ネイ、俺とネイの関係はなんだ?」


 カンケイ?それは、つまり…


 ごにょごにょと言い渋ってしまう。それは、恥かしいから。だって、今さっきどれだけ私がクーンさんを好きか、自覚したところだって言うのに、それを暴露するようなものだもん。


 答えない私に、クーンさんは答えを急かす。居た堪れなくなって、仕方なしに答えた。


『こ、恋人?』


 小さくどもっていったその言葉に、クーンさんは不満げだ。もしかして、恋人同士だって思ってたの、私だけ?!不安になって、顔を真っ青になった気がする。


 ももも、もしや私は勘違いやろーですか?!


 そう不安に思った時、予想外な答えが返って来た。


「頼むから、言い切ってくれ。俺だけがそう思っていると思って不安になる。」


 その言葉に胸が高鳴った。不安に思うのは私だけじゃない。クーンさんも、同じなんだ。


 嬉しくて、言葉にできない。だから、行動にあらわそう。私はもう一度クーンさんに抱きついた。いや、飛びついたと言った方が正しい。首に両手でしがみ付いていた。


「…ネイ、積極的なのは嬉しいが、場所を考えてくれ。」


 そう言われて状況を考える。絡ませていた腕を外し、クーンさんから離れた。


 さっき目が覚めた時に頭を撫でてくれていた。もしや、添い寝?!つまり、今居るのは…ベッドの上。って、ちょっと待てーい!


 私は一気に顔に熱が集まるのを感じた。


「青くなったり赤くなったり、忙しいな。」


 クスッと笑ってくれたその顔の妖艶さと言ったら!女の私に、その色気をください!


 私は身悶えそうになりながら、赤いであろう顔にもっと熱が集まるのを感じた。そんな私をクーンさんは笑顔のまま、頭を撫でてくれている。そんな状況だからこそ私はもっと恥ずかしくなった。


「俺としては大歓迎だが、ネイのことは大切にしたい。ゆっくり進むのも悪くないだろう?」


 なんとも言えない感情が心を動かす。昨日のことなんか忘れて、注意されたことも忘れて、私はもう一度クーンさんに飛びついた。


 小さな声でやれやれ、とか聞こえてきたけど、私はお構いなし。だって、そうしたいんだもん。


 えへへ、と笑いは零れるし顔は緩むしで目も当てられない私だったけど、自分の感情が溢れて止まらないなんて初めてで、どうしていいか分からなかった。


『クーンさん、好き。…大好き。』


「俺も、好きだよ。」


 私たちはおでこを合わせて、小さく笑いあった。


 その時。


「あら、申し訳ありません。」




 ?!?!?!


 声にならない叫びがあがった。


 急に扉が開いて、女中さんが入って来たのだ!


 振り向いたそこには、ニヤニヤ笑顔を浮かべている女中さんが三人もいた。


 私もクーンさんも離れるどころか、吃驚し過ぎて固まっている。それに加え、極めつけは奥さまだった。


「あらぁ、二人は仲良しさんなのねぇ。」


 私が戻って来たということを聞いた奥さまは部屋に行ったのに私が居ないのを心配したらしい。それを聞こうとしてクーンさんの部屋に着たらこの惨状だったと言う…


 もう、本当にごめんなさい。


 悪いことは何もしてないつもりだけど、土下座して謝りたい気分だ。


「あらあらあら…初々しいわねぇ。私もお父さんとこんな時期がありましたし、構わないとは思うけれど、婚前だしまだそういう関係は早いと思うわ。」


 ふふふ、と笑いを溢して去っていく奥さま。女中さんたちもそれに続く。残された私たちは、漸く身体の緊張を外すことが出来た。


『み、見られた…』


 ショックですよ。人と初めて恋人同士になって、自分では考えもしなかったイチャイチャを経験してたら、それを相手のお母さまに見られるなんて…顔から火が出そうだ。


「気にするな。あちらも気にしていない。」


 そんな事言っても、って言おうとしたんだけど、クーンさんがあまりに平然としていたから、そんな気も失せてしまった。


「それよりも、これからの出方を考えた方がよさそうだ。ネイとのこんな時間がなくなるのは惜しいが、早く厄介事を取っ払ってしまった方があと後楽だろう。」


 サラッとそう言うと、女中さんを呼んで私の用意を手伝うように言いつけていた。


 って、ちょっと、待って。さっきの見られたから、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。


 そう言う間もなく、私はニヤニヤしている女中さんに連行された。着替えを手伝ってもらっている間もその笑みが絶えることは無く、私は赤面したまま着替えをすることになった。


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