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閑話‐その2‐

クーンサイドが続きます。

『…私、何歳だと思われてるんですか?』


 女性なら本来聞かれたくないことだろう。しかし聞かれては答えるしかない。


「14くらいだろう?」


 思った通りの年齢を述べる。少し強張った顔。やっぱり失礼な事を言ったのかもしれない。


『私、18です。』


「…すまない。顔つきや身長から言って、まだ成人していないかと思った。」


 返ってきた答えに驚いて、すぐに謝った。それにしても、若く見える。


『ここでは何歳で成人ですか?』


 あまりにも真剣な表情。それは普段からも若く見られがちな事を気にしている風に見えた。


「15だ。」


 そう言うと少し考えて、年齢を問われる。24と答えると、上から下までじっと見られて、大きなため息を零した。


 と、思ったら。


 ぐー。

 突然の大音響。彼女はさっきの顔よりももっと赤い顔をしていた。


「食事を運ばせよう。」


 ずっと寝ていた所為か、水分も口にしていない。もっと早くに気にするべきだったな。食事の準備をさせるように女中に言いつけ、ネイに目を戻す。


「大丈夫か?」


 ベッドに身体をもう一度預ける姿があまりに辛そうなので声をかけると、苦笑いで頷いている。何とか席に付けたようだが、身体は重そうだった。


 それからレークが来ると、話をしながら食事を始める。その時にいった言葉は初めて聞いた言葉は俺とレークの心に留まった。


 どう意味かを問うと、慈愛に満ちたような表情。それに惹きつけられ、思いがけず不躾にもじっと見つめてしまった。


『私の居た国では、食べる前に“いただきます”って言うんですよ。人間の他にも生き物はたくさんいます。そんなモノの命を奪って人間は生きる糧にしているんです。


 だから、犠牲になって私たちに力を与えてくれるものたちに感謝の意をこめて、あなたたちの力を“いただきます”って言うんです。


 あなたたちのお陰で私は今日も生きられるって感謝するのですよ。』


 なるほど。


 当たり前過ぎて気が付かないことにも感謝を述べている姿は、心を大きく揺さぶったような気がした。


「感慨深い思想ですね。確かに異文化のもののようです。」


 面白そうな顔をしているレーク。その間も手を止めないネイの食べっぷりに満足していると、急に手が止まる。


 嬉しそうにしているレークは気にしている様子もなく、少し上の空で笑顔を浮かべていた。


「もういいのか?随分と腹を減らしている様子だったじゃないか。」


 腹が鳴るほど空いている様子だった。それを掘り返した所為か、また顔を赤くしている。今日は何回顔を赤くさせたら気が済むのだろうか、と少し微笑ましくなった。


「ネイ?」


 何しゃべらないと思ったら、急に立ちあがり、ネイの物らしい荷物の所へ寄って行った。ガサガサと音を立てながら漁っている。


 何がしたいのか分からず、見つめることしかできない。


 しばらくすると、何かを抱えて戻ってきた。どん、と音を立てながら並べていく。訳の分からない容器に入っているそれらは、変な色をしていた。


「…ネイ。今更何を言われても驚くつもりはないが、それはなんだ?」


 さっきまでは戸惑っていたのに、今は随分と嬉しそうだ。楽しげな笑顔をしながら、俺の質問に答えてくれた。


『私の国の調味料です。右からケチャップ、マヨネーズ、ソース、醤油に味噌です。』


 調味料?味を整えるために使うヤツ、か。それにしても、どれも聞いたことない。


「それをどうするんだ?」


『私の国の味を食べたくなって。』


 国の味…ネイの国の味、は随分と気になった。


『これは大豆、という豆から作られたものです。醤油は日本人の心。何にでも会う万能調味料です。』


 そう言って、スープの中に少しだけ垂らした。ちょっと色が濃くなった液体。それを口に運んで、思わず笑みを浮かべている。口に運んで、何かに満足したように頷いていた。


『…食べてみます?』


 それがどんな味なのか、気にならないと言えばうそになる。…でも、まだ名前も知らないはずのレークに先に差し出すのは気に入らない。


 しかも自分が使っていた食器を使って、だ。


 少々恨めしくなり、横目でにらみ付けるように見届けたあと、自分にも同じように差し出されて満足する。


 あまり、このような事に頓着しない性格なのかもしれないな。


 差し出されたものを口に入れてみると自然と言葉が零れた。


「「おいしい…」」


 変わった味だが、深みがある。今までに食べていたものが、薄く感じられてしまうほどに。


『そうですか。それは良かった。』


 いつの間にか食べ終わっていたネイは、俺たちが興味深そうに見ていた調味料をかけてくれた。


 今まで俺が食べていたものと味が全く違う。格段に美味くなっていた。これ外国の味だと言うのだろうか?


 ネイが食べ終わっていた時の挨拶を言うと、女中を呼んでお茶を頼む。その作業を飽きることなくじっと見つめている姿は微笑ましかった。


 一服しつつ一通りの話をしてみると、段々表情を暗くしていく。大分、情報を詰め込み過ぎたのか、少し待って欲しそうだ。


「とりあえず、異国な恰好をしていたために保護するだけに留まった。詳しい話はまた明日にでもしよう。ネイ、疲れているようだから、もう寝ろ。」


 そう言うと、嬉しそうに笑顔を浮かべている。それに満足した。


 …満足?なぜ俺は満足しているんだ?


「そんなっ!情報がなければ私の研究は進まないのですよ?」


 歪んだ表情を浮かべるレークに目線だけ向けて諌めると、部屋から追い出した。


 強引だと分かりつつも、ついつい行動してしまったことに反省するべきだが、俺としてはレークに謝るつもりはない。


 …正直、この時間は俺に欲しい。


「…眠れそうか?」


 さっきまで長時間寝ていたはずだ。もし眠れないようなら、話相手にでもなろう。そう覚悟していたのだが。


『大丈夫です。クーンさん、有難う御座います。』


 ネイはそう言った。


 …何故がっかりしてるのだろうか。


 しかし、それをおくびにも出さずに礼を述べた。褒めて欲しいところだ。


「ネイが混乱しているのは分かっていたのに、こちらの事情で長話に付き合ってもらってしまった。礼を言うのはこちらの方だ。有難う。」


 …どうして手が出てしまったのだろう。無意識にネイの頭を撫でていた。思っていたよりも細い髪はサラサラして、指通りがいい。


 ん?一か所、髪が絡まっているような感触がした。


「ここ、絡まっているな。少し待ってろ。」


 近くの化粧台まで言って櫛を持ってきて、ベッドの上に座り、髪を丁寧に梳く。


「…綺麗な髪だな。」


 ずっと触れていたい衝動にかられたが、鏡であったばかりの娘にここまで固執しようとしている自分に驚いた。


 …きっと、妹みたいだから、だな。うんうん、と頷いて、自己完結する。


 もう一度頭を撫でると、おやすみ、と挨拶をして部屋を出た。





「クーン殿っ!聞いておられますかな。」


「…ええ。」


 …物思いにふけってしまった。


 気が付いたたら血圧が上がったような真っ赤な顔が目の前にあった。赤い顔と言っても、ネイとは全然違う。


 向こうを可愛らしいと言うならば、こっちは不愉快になる顔としか言いようがない。


 そう言えば、今朝の恰好はよく似合っていた。


 シュエランがやって来た時に驚いた様子だったネイには謝るべきだな。あいつも返事の前に扉を開けていたからな。




 ネイが俺とシュエランの会話をオロオロ見ていたのは知っていた。交互に見上げているのは小動物を連想させ、大きな黒い瞳に魅了されたのは言うまでもない。


「わかった。すぐに行くと伝えてくれ。」


 先にわざと行かせる。途中退場になってしまうため、言いたいことを真っ直ぐに伝える。その時に、

結われている髪を避け、額の辺りを撫でた。


「昼にここへ来るのは難しくなりそうだ。…その服も髪型もよく似合っている。まるで妖精のようだ。では、また。時間が開いたら様子を見にくる。」


 我ながら、柄にもない、気障ったらしい事を言ってしまったとは思う。だが、後悔などしていない。


 …そもそも、時間が空く可能性があるのだろうか?とりあえず、ジジイにもっと血圧でも上げてもらって、普段の仕事に戻ろう。


「昨日、ドラゴンを使ってレークの再従兄妹を迎えに参りました。その際、賊に絡まれていたらしく、保護を頼まれましたので、若輩者ながら承らせていただきました。」


「どうやって賊に襲われているのを知ったのだ?っ!まさか。まさか、あの方が本当に現れたのか?!」


 あほか。そう言いたいのを何とか抑える。


「大体は約束の時間に来ないことで何かがあったに違いないと分かっておりました。嫌な予感がするとのことで駆けつけて行きましたところ、襲われそうになっておりました。


 その再従兄妹君には見込みがあるらしく、今回は鏡盆を見せるために招いていました。」


 淡々と語る。ここ数年で無表情になることは慣れていた。何気ないことのように語るフリも。


 そして言えることは、こんな奴らにはネイを合わせたくない。


 実際はレークの再従兄妹と言うだけでも危ないが、異国、いや異世界からやって来た娘などと言っては、神話に沿って崇められてしまう。


 そんなことをしたら、ネイは飾られたものとして神殿に軟禁状態になってしまうのが目に見えている。


 そんなこと、絶対にさせてはやらん。


「そんなことっ、われわれに黙って行ってよいと思っているのか?!」


 あー、うるさい。こんな時間があったら、政の一つに時間を費やした方がいいことを知らないのだろうか。


 いや、こいつらにそのような事を考えるような能力はなかった。


 呆れたようにため息をつくと、丸投げにもとれる発言をする。後は任せた、と言う意味を込めて。


「今回のことは宰相殿にも知らせてあった故。未来の神官候補として受け入れる前に、その素質を確かめるために黙っておりました。まだうら若き乙女なのです。


 今後の幸せを考えると、中途半端な力の所為で人生を棒に振ることもないでしょう。そこの見極めのために、黙っていたことは謝罪いたす。


 しかしながら、そのように判断の鈍る若さを持った乙女に揺さぶりをかけようとする輩もいましょうから、黙っておりました。」


 ここまで言われては誰も何も言えないだろう。少し厄介な事と言えば、何も知らないはずの宰相殿が巻き込まれていることだ。


 そして、笑顔を浮かべていることから大層ご立腹だと分かる。


 …とりあえず、避けるとしよう。しかし三日と持つまい。そうなったら腹をくくろう。


 そう決意してその場を離れた。


クーンさん、意外と感覚だけで動いてますよね。

次回はまたネイちゃん視点です。

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