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忘却

短いです。


 頭が上手く働かない。それは、ルイスがこちらにやってきた日から、日に日に酷くなるばかりだった。



 折角反撃に出ようと思って、暗い自分の考えを払拭させたのに。


 今日もまた、ガラスの塔で力無く寝転んでいる。頭が働かなければ、身体も動かない。ここに上がってくる時も、ミリアに手を貸してもらわなければならないくらい、自分の自由が利かなかった。


 どうしちゃったんだろう、私。


 ご飯食べる気にもならないし、何をする気にもならない。いや、なれないと言っても過言じゃないくらい、無気力だった。


「乙女さま、お久しゅうございます。」


 ひょっこりと顔を出してきたルイスは、相も変わらずいけ好かない笑みを浮かべてる。だけど、そんなことを気にしてもいられないくらい、何も考えられなかった。


 ルイスが上がり切った後、ミリアもやってくる。そして、私の体を支えてくれた。そのために上がってきたみたい。迷惑かけっぱなしで、本当に申し訳ないの一言に尽きる。



「貴女は神官殿の再従兄妹と最初おっしゃられていましたね。神官殿とは仲が宜しいのですか。」


 いきなりなんだって言うの。こっちは体調良くないってのに。察してくれ。


 そう思っても、ここで空気を読まないのがこの男だろう。今日もまた一段とタイミングが悪い。


 この状況では話をしないと帰ってくれないだろうと諦め、私は口を開くことにした。


『レークさんとは、たくさん話をしました。私の知識に興味がおありのようですね。おそらく仲良しさんです。』


 こんなこと聞いてどうするんだろう。そう思ったのに、私の答えには興味がなかったのか、次なることを聞いてきた。


「陛下がまた伏せったのはご存知ですか?」


『そうなんですか?!無事なんですか?状況はどうなのです?』


 それって、ヤバイでしょ。折角の時間稼ぎなのに、もしかしたら二ヶ月じゃ足りないかもしれない。そうなったらどうしよう。


 …後でジュノに相談しよう。


「命に別状はないそうです。」


 だったらそんなに深刻そうに言うなよ。


 私は思わず脱力した。そうツッコミたかったけど、この人にそんな事言ったら面倒になるからと止めておく。賢明な判断だと褒めてもらいたい。


「卑しい血が、この辺りを嗅ぎ回っているようです。」


 また急に脈絡も無く話が変わる。この人が何をしに来たのか、本当に意味不明だった。


『誰の事を言っているのか、分かりかねます。』


「…魔道師ですよ。騎士団団長の。」


『だから、誰の事言ってるんですか。』


 急に訳の分からないことを言い出すから、返答に困る。だって、さっきまではみんな知ってる人のことだったのに、知らない人のこと話されたって答えられる訳ないでしょう。


「ネイ、さま…何をおっしゃられているのです?」


 後ろから支えてくれているミリアが震えた声でそう言った。訳が分からない私は理由を聞こうとしたんだけど、キツネ男がそれを許さない。侍女の分際で口を挟むなと言っていた。


「ほう、それが貴女の…」


『…何、ですか。』


 そう問えば、何でもないと返ってくる。ここまで意味が分からないと、本当に怒りたい気分だ。


 用がないなら帰れ。こっちは具合が良くないんだっての。


 そう言おうとしても、ひゅーひゅーと喉が鳴って言葉にならない。私は何かが身体を蝕んでいる様な気がしてならなかった。


「今日は、貴女をお誘いするために参りました。」


 それが用件なら、最初から言ってくれればよかったのに。


 本題に入るまで遠回りしたのが訳も分からず、しかしボーっとしてた頭では考えられない私は喋ることをもう止めていた。


「貴女はずっとここから出ていない。気分転換が必要でしょう。今夜夜会が開かれます。そこに出席していただけますね。」


 無理だよ、こんなにダルイのに。それに、いきなりここから出してくれるなんて、裏があるに決まってる。絶対、そうだ。


 考えはそうまとまっているのに、口は思いとは正反対のものを語っていた。


『…はい、もちろん……』


「無理です、このような体調ではっ!」


 うん、そうだよ。その通りなんだよ。


 だけど、私は頭まで何かに浸食されたようで、今度は考える事までを止めていた。正しいと思えるミリアの意見も、よく意味が分からない。言葉は、右から入って左に抜けた。


「侍女風情が口を出すな。お前は従ってればいいんだ。」


 二人の会話が続いている。私は、よく分からなかったけど、何かを口走っていた。


『様式、分からない…だから、ミリアも、いっしょ…』


「乙女さまがそう申されている。仕方ない。お前も同行しろ。」


「了解いたしました。」


 そんな会話がなされ、今までになく上機嫌になったルイスが笑みを浮かべながら去って行ったことに私は気付かなかった。


 頭、重い…


 そう思ったのと同時にまぶたも重たくなり、私の意識はブラックアウトした。


 遠くで、知らせないと、というよく意味の分からない呟きが聞こえた。きっと空耳に違いない。



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