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拉致監禁は犯罪です


『ちょっと!何するんですか!』


 クーンさんの執務室を出てしばらくした時。人があまりいないいつもの近道を歩いてたところで急に後ろから声をかけられた私は、連行されるように連れ出された。


 引きずられるようにして連れて行かれる。辿りついたそこは、神殿の最上部にあるガラスの塔だった。


「やあ、乙女さま。お久しぶりです。手荒な真似をして申し訳ありませんね。」


 そんなこと、微塵も思ってないって顔してるけど?!


 私は目の前にいる人物をキッと睨みつけた。そこにいたのは、以前に出会ったその人。周りの人よりも一回り大きな赤い羽根の飾りを付けている、キツネ顔の男。つまり、過激派筆頭のルイスだった。


 ねちっこそうな笑顔。見ているだけで鳥肌が経つ。


 てゆーか、ルイス派って、王に絶対従うんじゃなかったの?それよか、宗教に心酔しきってるから<最後の乙女>に手を出すことはしないって言ってなかったけ?


 混乱したまま、表向きは冷静になってるように振る舞う。後ろで掴まれた手は、ガラス張りの部屋に入れられてすぐに解かれたけど、少し赤くなってて痛かった。そう思って腕をさすると。


『なに、これ?』


 金に赤い石がはめ込まれた腕環がいつの間にやら付いている。ごついその造りは、お金をかけた、と言わんばかりにキラキラしてた。


「それは魔法封じですよ。貴方は魔法が使えるとのことでしたので、逃げだせないように失礼ながらつけさせて頂きました。それは、腕環を造ったその本人の魔力でしか解除できないという代物ですから、無理に取ろうとしても無駄ですよ。」


 ひょうひょうと言ってくれちゃって。てゆーか、陛下!約束はどうしたんですか。


 そう文句を言ってやりたい。だけど、それは無理だ。


 陛下は今病に伏せっている。その体調の悪さは今までにないくらいで、意識がはっきりしていないらしい。らしい、って言うのは、様子を見に行けてないから。謁見を申し込んだけど、あまりの体調の悪さに、王妃様でさえ見舞いに行けていないようだった。


『…説明、していただけませんか。』


 唸るように低い声が出る。威嚇するように、私は睨みつけた。


「おやおや、仔犬が牙をむいているようですね。」


 うるさいっ!睨みに威力がないことくらい自負してる。だけど、これが精一杯の虚勢だ。だって、このうすら笑いを浮かべてるおじさんが、何も企んでいないはずがない。だから、牙を剥くのも当たり前だ。


「…我々は先王が退いた後、共にその座を奪われた。いくら王へと忠誠を誓おうとも、我々も欲深い人間。己の欲望に忠実だ。我々も神の恩恵が欲しいのだよ。


 現王が貴女独り占めにしておられる。それは、許せない。だが、今は自由にできる。あのお方が病床にいては貴女との逢瀬も叶わないだろう。だから、そのうちに事を進めるのだ。」



 逢瀬って…あんたアホか!私は…クーンさんが好きで、オウサマとは何の関係もないっつうの。


 邪推もここまでくると意味不明だな。私は睨みつけた。


 だけど、すぐにそれを止めて、ちらっと横を向く。さっきから気になっていたことがあった。



『あんたさぁ、助ける気とかないわけ?』


「無いねーぇ。」


 どこから湧いて出てきたのか、ジュノのヤツが隣で積み木をしている。何を作ってるのかは分からない。言えることは、完全に使い方間違えてるってこと。


「か、神がそこに…」


 ええ、いますよ。明らかにやる気のないヤツが。私は今ピンチってやつなんですけど。


「どこに、どこに…私を、守人に…」


 …へぇ、そう。それが目的な訳ね。守人になって、乙女の恩恵を受けよう、と。そりゃまた、図々しいこと考えたね。


 睨みつけるのも嫌になって、プラス、隣のヤツにうんざりして、私は積まれた積み木をぶち壊した。


「あー!もう少しで完成だったのに!」


 知るか!てゆーか、完成っていったい何作ってたんですか。


 ここにいる人物たちにほとほと呆れ、私はこれからのことを考える。まずは、ここからどうやって出してもらうか、か。


 つまり、守人になることを諦めてもらうしかない。てゆーか、もう守人はいるしねぇ。


『守人なんですけど…』


 ここまで言い掛けて、服をツンツンと引っ張られた。大事な話をしようとしてたのに、ジュノには邪魔ばかりされる。何よ、と睨みつければ。


「言わない方が良い。」


 さっきとは打って変わって至極真面目な表情でそう言われてしまった。


 意味を計りかねる。だって、ここから出してもらうためには必要な事でしょ。なのに、それをしない方が良いと言われた。それって、ここから出るなって意味なのかな。うーんと唸り、考え込む。その横にいる神は、また積み木を重ねながら言った。


「守人がもう居ると分かれば、その人物は殺され兼ねない。」


 衝撃が私の中を駆け抜けた。


 殺、される…?クーンさんとレークさんが?でも、だって、それじゃ神の意志に従わないってことなんじゃないの?


 そう考えていたことが伝わったのか、ジュノは続けざまに言う。


「今まで従ってたはずなんだけどねぇ。先王の一件以来、自分たちに権力を集中させるように算段を立てていたみたいだ。そうでなければ、僕の乙女に魔法封じの腕環を付けた上で、軟禁することなんてしないだろう。」


 そこまでして、自分に権力が欲しいの?人間の欲は、本当に強欲だ。特に、お金や愛なんかに対しては。


 それが神にも逆らう事態となっては、この人はもう止まらないだろう。どこまでも自分の欲求に従って、突き進むしかない。


「神よ…どうか、私を、守人に…」


 祈るように言い続けてるルイスは、トチ狂ったようで少し怖い。本当に、誰かを殺してしまうかもしれない。私の知り合いである、誰かを。


 ここは日本じゃない。誰かが何かを殺すことなんて、身近にある世界だと聞いた。それを思い出して、私は震えた自分の身体を抱きしめるように両手で自分の身体を抱える。



 いつもなら、クーンさんの腕の中でそうすることが出来るのに。私の一言にクーンさんの命が掛かってると思うと、どうしても震えが止まらなく、自分の腕でそうするしかできなかった。


「僕の言う通りにして。」


 ゆっくり、頷いた。


 いつも貶してばっかでごめん。ジュノに、こんなに頼り甲斐があるとは思わなかった。


 私は真っ直ぐに前を見据える。両手もちゃんと前で組み、怯えを見せないように構えた。


『…これより、二月の間に守人としてふさわしい者を決める。我こそは、と思う者は神殿の前に出でて、祈りを捧げよ。』


「神の、お言葉…確かに賜りました。」


 恍惚としていた表情は固まり、難しい表情になっている。きっと、この場で自分が認められなかったことに腹を立ててるに違いない。ホント、自分勝手だよなぁ。


「乙女さま、貴女の部屋をガラスの塔のこの最上部の階下に用意した。貴女の侍女を連れて来よう。しかし、ここから出られるとはお思いにならない方が良い。」


 それは一般的に、脅しって言われるんですよ。


 私は成す術もなく、違う方向に顔を背けることしかできなかった。小さ過ぎる反抗だ。だけど、今はこれくらいのことしかできない。だって、自分を守るための魔法が使えないんだから。


 全員がガラスの塔から出ていく。そこに残ったのは私と、皆にはその存在が分からないジュノだけだった。


『これからどうしよう。』


 外の誰かに伝える事は出来ない。こう言った行為を取り締まることのできる陛下は、病に伏せっている。


「どうしたものかねぇ。」


 考えてるんだか、いないんだかの曖昧な返事。それは私の心を余計に乱した。


『一緒に考えてよ!もし、クーンさんが死んだりしたら…私…』


 もう、絶対なにも思えない心になる。


「考えるよ。とりあえず、クーンに伝えよう。」


 そう言って、何かを考えている。私は恐怖で涙が止まらず、緑の上に寝そべって左腕で自分の目元を隠した。


 涙があふれる。どうしていいのか分からない。


 こんな時、一番頼りにしていいはずのクーンさんに会えないことが、今は一番辛いことだった。


 私がここに連れて来られて10分もしない頃。ここに繋がる私の横にあった戸が、ゆっくりと開かれた。


 そこから顔を出したのは…


『ミリア…』


 真っ青な顔をしている。何を言われたのだろうか。怯えている事が明らかだった。


 ミリアが完全にここへあがると、同じように顔が見えた。そこにいたのは、私をここに軟禁し始めた大元だ。


「いいか、お前も他言無用だからな。


 乙女さま。これにてあなたの生活は保証されました。しかしながら、ここを出ようとしても貴女の部屋の階へとつながる階段の下に騎士がおります故、そんな変な気は起こさないようにお願いします。貴女はただ大人しくしていればいいのだ。」


 最後に本音が零れたのだろう。ねちっこい笑みを浮かべていたルイスの顔が、おおいに歪んでいた。


 扉が閉じられる。足音が遠のき、次第に聞こえなくなった。


『ごめんね、ミリア。巻き込んじゃって…』


 そう言いながら抱きついた。


「構いません。ネイさまのためですから。」


 そう言ってたけど、やっぱり体は小刻みに震えていて。怖いのを我慢して虚勢を張ってることは、一目瞭然だった。


『ミリアは、何て脅されてここに来たの?』


「ネイさまがガラスの塔で生活することになったから、私がそこでの生活を支えるように、と。」


『そうじゃない。脅されたでしょう?』


 泣きはしなかったけど、表情は歪んでいる。綺麗に整った眉の先に、皺が寄った。


「私の家も、弱小ですが貴族の部類です。慎ましやかに生活し、父母共に民を守って生きているのです。」


 確か、ミリアの家は辺境にある領地の領主だ。農作が主に盛んであり、丘陵地で作られる果実酒で主に生計を成り立たせているらしい。何もないけど、空気も景色も水も澄んでいるところなんだって、ミリアが楽しそうに話してくれたことを覚えている。


「その領地を、潰すと脅されました。これを他言してしまえば、民の命も家族の命も無いと。」


 あのオヤジ、サイテー。


 私はブチ切れる寸前だ。私だけならともかく、いろんな人巻き込みやがって。


「私は必要最低限しかここを出る事を許されておりません。食事の用意や洗濯、掃除など。それ以外の生活は、ネイさまの部屋にある備え付けの小さな部屋でするように、と言われました。


 この国の象徴である乙女さまと生活を共にさせるなど、何て事を考えているのでしょうか。」


 さっきまで泣きそうだったのに、今度はプリプリ怒ってる。これでこそミリアだ。その様子を見た私は自分の怒りがどこかへ引いて行くのを感じた。


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