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事実と決心


『ジュノは私をこちらの世界へと引き込んだ。それは、自分が異世界へ行った時に生じたひずみの所為で私の人生が変わってしまったからだと言った。』



 そうよね、と聞けば、そうだね、と返ってくる。少しだけ笑っているその表情は、これから何を聞かれるのか悟っているような感じだ。それでいて、訊いて欲しくないという空気を醸し出している。


 だけど、そんなの無視だ。なんか、この国の政治に思いっきり巻き込まれそうな気がするから。いや、現在進行形で思いっきり巻きこまれつつあるのか。


『ジュノは自分で一人一人に干渉することは許されていないと言っていたよね。それって、異世界なら余計にそうなんじゃないの?』



 ここまで訊けば、もう諦めたようだ。自嘲気味に笑っているその表情は、ジュノには似合わない。そんな顔をさせているのが私だということは悲しかったけど、それでも真実が知りたかった。



「僕は君に叡智を与え過ぎたようだね。


 時には気付かなくていい、残酷な運命って言うものがあるのに。」


 これがジュノの地だ。完璧に素に戻ってしまったその様子から、これから待ち受ける事になるその言葉が真実だと信じていい気がした。


『ねぇ、話してよ。本当のこと。』


「今言った言葉の意味、分からない訳じゃないよね。君は確実に傷つく。それでも聞きたいのかい?」


 これから何を話されるのかは分からない。だけど、他の世界の神様が干渉してくるほどのことがあったのだと理解は出来ている。私は覚悟を決めて、ゆっくりと深く首肯した。


「君は両親に捨てられた。これは運命。」


 胸の奥がチリッと痛む。


 それは前にも言われたことだった。それは最初から定められていたことなのだと。


 でも私は、辛い事は乗り越えられる人に神様から与えられたものなんだって、クーンさんに言われたことがあるから信じてるの。


「彼に言われたことで、今の君が在ることは分かっている。


 けど、君が望むから、残酷な事を言おう。君は地球の神に捨てられたんだ。悪戯に見放された存在だったんだよ。」


 ジュノの話は正直に言って、相当苦しかった。顔が何度も歪んだ。でも、それが事実で、今私がここにいる事が現実。覆す気にはなれなかった。


 ―――とある神様は暇を持て余し、何か面白いことはないのかと企んだ。そして、それは一人の人間の生活に干渉することだった。それが、私。


 一人の私は自殺したけど、もう一人の私は強く生きた。それが面白くなかったのか、新居へと買い物帰りに向かっている私を、交通事故に見せかけて殺そうとしたらしい。



 そんな理由で人間をやすやすと殺そうとするなんて。それが癖になったらどうするんだろう。


 神様が快楽殺人者とかになったら嫌だな。ってか、そんなことしたらいつか人がいなくなっちゃうんじゃ…?


 自分の恐い考えに身震いする。それを追い払うために、2、3回首をフルフルと回した。気を取り直さないと。


 つまり、神様は干渉材料が詰まらなくなったから、消して次の対象者を見つける。そう行動をしようとした。


 それを見過ごせなかったのがジュノだという。事故に遭う前に干渉して、私を異世界へと取り込んだ。


 それに加えてこっちの世界の過去を干渉し、<最後の乙女>という存在を信じさせ、王家に伝承させたらしい。


『ジュノが私をこっちに引っ張った理由は納得したけど、どうして<最後の乙女>なんていう、面倒な存在を作ったの?』


 これが今日一番訊きたかったこと。これさえなければ私は穏やかな日々を送れたはず。なのに、これの所為で私は平穏を取り逃しつつあるから。


「それはね、色々とあるんだよ。」


 急に緊張感がなくなり、ジュノは胡坐を掻いたまま宙で逆さまになった。


 これは…ツッコんだ方が良いのかな。…いや、止めとこう。とりあえず今は時間がない。陛下のところへも行かなくちゃならないんだもん。話を進めなくちゃ。


『色々って?』


「うーん、神様の世界も、掟とか上下関係とかあるんだよ。君の運命を歪めた神と僕は同等で、かなり上位に位置づけられている。僕らのもう一つ上の位が、僕ら神を統括する最強神さ。それが今回の乙女の件で大分お怒りになってね。特別措置を命じたんだ。」


 それで作られたのが<最後の乙女>?なんて厄介な特別措置を取ってくれたのさ。


 確かに地球では酷い生活になってたかもしれないけど、こちとらそれが普通だった。不幸慣れしてて、それが当たり前だったんだから、今さら特別なものなんて望んでなかったのに。



『今からその措置を取りやめる事は…「無理。」



 で、ですよねー。


 最強神と言う神の上の神が私のことを取り決める、とか訳わかんないけど、どうやら神様も上下社会らしい。つまり、ジュノは上司に命じられてそれを実行した、と。


 あまりの事実に私は頭を抱えた。ジュノはおどけたように、喋るのを止めた私にどうしたのかをしきりに聞いてきたけど、いつもながらに間延びした声はより脱力させるだけだった。


 あからさまに嘆息を溢す。そして、真っ直ぐにジュノを見据えた。


『正直に答えて。私は<最後の乙女>をまっとうするしかないのね?』


「そうだね。」


 やっと、事実が理解できた。


 よし、と私は決心した。


『ジュノ、また来るよ。人の私生活の覗き見は勘弁してよね。』


 それだけを言い残すと、私は神殿を後にした。後は陛下に私の意志を聞かせるだけだ。




「話はもう済んだのか。」


『はい、一応は納得しましたから。』


 後を追ってきてくれた心配げなクーンさんに笑顔を返す。ならいいんだ、と安堵したように私の頭を撫でてきた。今までよりクーンさんが近くに居るように感じられる。思わず照れ笑いを溢してしまった。


 二人で交わすやり取りが、前よりも甘く感じられるのは私だけだろうかと、ほんの少し照れくさく思いながらも考えてしまった。


 それをレークさんがほくそ笑んで見ていることには気付かなかった。そして、一人理解が出来ていない宰相さまの表情に気付く事もなかった。



「さて、予定も大詰め。陛下のところへ行くのでしょう。私と宰相さまが前に出ましょう。ネイさんはクーン殿と後ろを付いて来て下さい。


 陛下の周りの使用人には、神官の件の報告と、クーン殿に助けられた稀の報告、とのことにいたしましょう。」


 にこやかに笑みを浮かべてそう言うと、さっさと歩きだしてしまった。


 良くそう容易く嘘が思い付くな、とクーンさんが厭味を言っていたけど、それも軽くスルーしたレークさんは大物だと思う。


 私も話を合わせたりほらを吹くのは得意だから、人の事言えないけどね。


 私が城の中で見知らぬ人物だといっても、他の三人はかなりの有名人。廊下を歩く時には道を譲られ、スイスイと進むことが出来た。


 だけど、厄介なのはこれからだと思う。


「ここはお通しできません。」


 ほら、キタ。


 前回は調度誰もいなかったから良かった(それはそれで警備が成っていないという問題だ)けど、前々回もそうだったように命じられた仕事を全うしようとする騎士さんたちやお貴族役人様は中々頑固だ。陛下とクーンさんが接触しようとすることに過剰反応を示す。



「申し訳ありませんが、私たちは陛下に呼ばれたのです。」


 レークさんが一歩前に出てそう述べる。比較的宰相さまとレークさんには好戦的ではないのか態度は柔らかかったけど、見知らぬ女と騎士団長様には手厳しかった。


 てゆーか、同じ騎士団でしょ、ってツッコミたかったけど、小声で聞いたら騎士団内の統括は温厚派と過激派に分かれていて、陛下の護衛は後者になるらしい。


 どこまで城内の政治が歪んでるんだか。


「そちらのお二人もそうです。」


「しかし、見知らぬ女など…」


 ほー。その言い方頭にキター。ネイさん、ご立腹の巻。黙ってようと思ったけど、笑顔で怒りをぶつけさせていただきますとも。


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