発覚‐その2‐
「いや、間違ってはおらぬが、それは余が問うたものの答えにはなっておらぬ。」
ああ、そっか。だけど、これからお願いに入るわけで、話は長くなると思うんだよねー。ってわけで。
『オウサマ、私はあなたの国の人間ではない。そうですよね?』
「…ああ。」
『だったら、オウサマへの態度とか、間違っていても不問には問われませんよね?』
これにもまたああ、と言われて、私は満足して言った。
『とりあえず、みんなでお茶にしませんか?積もる話はその時に。』
そう言いきった時、一番最初に笑いだしたのは宰相さまだった。何事かと思った私は、振り返る。そこには無表情のクーンさんと肩を震わせているレークさんがいた。
『私、何か間違えました…?』
再びの問いにもクーンさんからの返事は返って来ない。どうしたものかと思っていると、オウサマから許可が出た。
ロールケーキをカットして、それぞれに渡して行く。王子様へと渡した時、にこっとされて、胸がキューンとなりました!
…可愛過ぎるっ!
それからお茶を淹れて全員へと配ると、皆で同じテーブルにつく。お茶を淹れてる時に手伝ってくれたレークさんの話によると、普通なら王と同じ席に王族以外がつくのは珍しいんだって。それを押し切った形で話を進めた私の強引さに、宰相さまは笑ったらしい。
王妃様へとお茶を渡すと、ありがとうと言う言葉と微笑みが返ってきた。その綺麗さに思わず赤面し、それから私も席へとつく。はたから見たらあり得ない図が出来上がってるそこでは、私に視線が集まっていた。
「父上、僕もご一緒したいのですが…」
一人勉強机にいる王子様が駄々をこね、渋るオウサマに王妃様からお願いが出て、王子様も一緒の席につくこととなった。
その時の王子様の満足げな笑顔と言ったら。そりゃあ、可愛過ぎました。
「余が聞きたいのは、そなたが<最後の乙女>なのかどうかと言う事だ。」
率直に述べられた。誰もお茶と菓子には手をつけようとせず、静けさが広がる。
ここからは攻防戦。腹の探り合いなら負けないぞ、と意気込み笑顔を張り付けた。
『あなたの言う<最後の乙女>とは何ですか。』
異世界から来た、神の声を聞けるもので、神の声を民に届けるだけでなく様々な事を民に与える人物だと言われた。
強ち間違っちゃいないけど、当たってるのは約半分ってとこだ。
『では、何故オウサマはこの国に<最後の乙女>が現れたことが分かったのですか?』
「…鏡神祭だ。」
はて、と悩ましげにしている私に、続けざまに答えをくれる。
「神殿の空気が異なり、他人には分からんだろうが、余には町の様子が例年よりもよく見えた。そして、何よりも余の魔力の増幅がとてもすごい。」
手をぐっと握りしめている。しかし、視線は私から外していない。私も、目を逸らしたら負けな気がして、真っ直ぐに目を見つめていた。
『それが、確証ではないでしょう?』
あまりにも曖昧すぎる。だから率直に聞いた。
「そなたは敏いな。」
お褒めいただき光栄ですけど、そんなこと小学生でもわかるって。
「王家に代々伝わる書物がある。それは王を継ぐ者のみに伝承されている。そして、その書物はこの国も物とは異なり、王が王位継承者へと伝承することになっている。」
なるほどね。そういうことか。差し詰めその書物とやらに、<最後の乙女>が現れた時に起こる変化が書いてあったんだろう。その予想は見事に的中した。
無理を言ってそれを見せてもらい、中を読む。それには確かにこの国と違う文字が書かれていたけど、ジュノがくれた力で私には読むことが出来た。
そして、オウサマが私に質問した事は、すでに分かり切っていた事だという事も分かった。
『そうですね。この書物を読めば、私がどうやら<最後の乙女>のようです。』
「…そなた、それが読めるのか?」
目を丸くしているオウサマ。そして、周りの人たちは私と王を交互に見ている。だが、誰も口を挟もうとはしていない。
「ならば理解できただろう。そなたが<最後の乙女>だ。」
そう言ったかと思えば、王が私へと傅く。
え、と思っていると。
「よくいらっしゃいました。<最後の乙女>よ。」
目を丸くして、固まるしかできない。
何してんすか、この人。こんな小娘に!
だけど、そう思っているのは私だけらしい。そこにいたみんなが王と同じようにする。
…私、そんな偉い人になったつもりはないんですが?!
『あ、頭を上げてください!』
「そうはいきませんわ、乙女さま。」
王妃様までもが私に丁寧な言葉遣いをしている。明らかに高貴な雰囲気を纏ったその人たち、そしていつも仲良くしてくれてたその人たちがそうしていることがすごく嫌だった。
『どうしたら、やめてくれますか?』
そう問うと、私が命を下せば、という答えが返ってきた。
呆然としてしまう。だって、王族、だよ?この国で一番偉い人たち、なんだよ?なんで私がそんなことしなくちゃいけないの。
だから。
『お願いです、頭を上げてください。』
懇願した。
だけど、と言う声を遮ってもう一度お願いする。すると、最初のようにみんなが席に着いてくれた。
ほ、と嘆息。それからしばらく、私は頭を抱えた。
「乙女さま?」
可愛い声が聞こえる。私の顔を覗き込む碧の瞳は、途方もなく純粋なもの。声をかけた事を諌められていたが、私が頭を撫でると嬉しそうに微笑んでくれた。
『よし、オウサマ、一回落ち着きましょう。私が<最後の乙女>だとして、何故あんな態度を取ったのか教えていただけますか。』
言葉遣いを注意されたけど、年上は敬うものだから、と断った。てゆーか、意味分かんないんだもん。
「乙女さまは神の遣いであり、存在自体が尊い御方。我々王族よりも上なのです。」
そうキタか。ジュノのヤツ、迷惑極まりないルール作ってくれちゃって。おそらく、伝承の書物を作ったのもジュノだろうから、余計に腹が立った。
『それはわかりました。だけど、私は見た通りの小娘に過ぎません。だから、普通に接して欲しいのです。』
ね、とレークさんとクーンさんに目を向けると、まずはレークさんがにこっと笑ってくれる。クーンさんは相変わらず固い表情をしていた。
『私はレークさんの胡散臭そうな笑顔も、クーンさんが私をネイと呼んでくれるのも好きなんです。』
正直に言ったのに、お一人、酷い言い草だと零した人がいた。だけど、ホントの事だもん。
オウサマにはいつもの態度でいて欲しいし、他の人もそうだ。私は“ネイ”なんだから。
『とりあえず、ケーキ食べて下さい。お茶も冷めちゃったし、淹れ直しましょうね。』
そういうと、皆は慌てるが、いつもの習慣だからみんなを止める。これは私の仕事だ。
お茶を淹れて席に着くと、まずレークさんが私のケーキに手をつけてくれた。それをオウサマが諌めたけど、笑顔を浮かべて言うことには。
「ネイさんは頑固ですから、一度言いだしたら聞きませんよ。」
酷い言い草だと思ったけど、向けられた笑顔にさっきの仕返しだと書いてあったので納得した。
『さて、オウサマ…じゃなくて、陛下。』
「いえ、ルードヴィヒとお呼びください。」
そうか、オウサマも頑固者なんだな。さっきから頑なな態度を改めてはくれない。少し拗ねそうになったけど、ジア教の敬虔な信者なのだと思い、仕方なしに諦めた。
『じゃあ、ルードさまとお呼びしても?』
それに否、様はいらないと言われて、さんに落ち着いた。
『ルードさん、私ちゃんとさまざまな技術は伝えます。それから、ジュノの言葉も。』
だからそれと引き換えに。
『私を公の場に引っ張り出さないと約束して下さい。』
これが今日の目的。絶対に折れてはいけないこと。
懇願すれば聞いてくれると思ったのに、返事がないまま渋ったような表情をしている。これは長期戦になるのか…と覚悟した時。
「それは、命令でしょうか。」
何とも頑なな人だ。
しょうがない、と一つ嘆息。そして、厭々ながらに言った。
『私を公の場に出さないと誓いなさい。』
「仰せのままに。」