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発覚



『……え?』


 私は耳を疑った。今しがたレークさんから言われたことが信じられない。



「もう一度言います。国王陛下に<最後の乙女>の存在が知られてしまいました。」


 だから、え、って言ったんじゃない!


 にっこり笑うレークさんから、その隣の宰相さまに視線を向けた。目を合わせようとしないまま、ばつの悪そうな顔している。その横に居る人も、全く同じ表情を浮かべていた。


 その行動が真実だと証明している。私は佇むことしかできなかった。


「先に私が呼び出されて問いただされました。その後クーン殿に説明に行っていただき、何とか不問に問われずに済みましたが、貴女を陛下の元へ連れて行かなければいけません。」


 死刑宣告だと思った。もう逃げ場がどこにもない言葉は、私を深く傷つける。


 …腹を、括るしかないのかもしれない。


『…分かりました。オウサマに会います。』



 半ば諦めだった。それに、親切にしてもらっていた人たちの暗い表情。約1名を除いて、だけど。それが悲しかった。


「…いいのか、ネイ?」


 中でも一番暗い表情をした人は、聞きにくそうだ。一向に口を開かない。宰相さまは気まずそうだけど、そこは大人な対応で話を進めようとしてくれた。


 それもまた優しさ。顔は怖いけど、私は宰相さまが大好きだ。



『はい。みなさんを困らせたくないですし、まだ公に出るとは決まっていません。オウサマに頼めば、他の人にばれないかもしれないじゃないですか。』


 笑顔で言い切った。そうじゃないと余計に心配させそうだもん。


 それに、クーンさんがあんな顔で話してたお兄さんだし、悪い人ではないと思う。お願いすれば叶うかもしれない。






 そんなこんなで、私はオウサマに会うことになった。


 いつそんな機会が設けられるのかと思って聞いてみれば、今日だという。いきなりや過ぎません?


 だけど、それほどに<最後の乙女>はこの国にとって重要なものだそうな。ホント、ややこしいことになったなぁ。



 人目につかないように、と言うことで、オウサマの一人息子である殿下の部屋で面会することになった。それは必要最低限の人間にしかその稀は伝えられず、陛下、王妃、そして私の真実を知っている三人のみ。


 オウサマが殿下に勉強を教えている時間があるらしく、そこへ私たちが訪れる事になっている。


 で、手ぶらで行く訳にもいかないよな、と思った私は、クーンさんに頼んでキッチンへと行かせてもらった。


 毎度のことこれをお楽しみにしてるエルさんに手伝ってもらい、オーブンに生地を入れて焼き上げ、魔法で冷やしてもらった。一応、魔法は稀な力だそうで、そんな力があったら女中をしていることが疑われてしまうそうな。と言う訳で、これまたこないだのおじさんにお願いした。


 私は生クリームを冷やしながらかき混ぜる。その横でエルさんは、さまざまな果物をカットしていた。


「これがこのように泡立つなんてなぁ。」


 感心しながら、生クリームを見ている。てゆーか、刃物使ってるのによそ見しないでよ。


 全ての用意が済み、生クリームとフルーツを入れて巻く。ロールケーキの完成だ。


 我ながら満足していると、名前を呼ばれる。それに反応して横を向いてみれば、にこにこしているエルさんがいた。


 この顔、私は何度も見ている。


『…ダメです。』


 先に牽制させていただきました。だって、流石にこれは味見もわけてあげる事も出来ない。


 エルさんが私を見つめてくる表情があまりにもがっかりしていて良心が痛んだけど、それでもそれは許可してあげられなかった。


『これは流石に量が少ないですし、今日は私から差し上げたい人がいるんです。だから、また今度作ります。今度はエルさんのために。』


 そう言って、その場を後にした。後ろからよろしく、と喜んでいる声が聞こえたから、少し助かった気がした。あんなに私が作るもので喜んでくれる人はいないからね。


 ケーキを入れたバスケットを提げてクーンさんの執務室へ行くと、そこには共にオウサマの元へ行く人が揃っていた。


「今日も何かを作ったのですか?」


 にこにこしているレークさんには、緊張感が欠片もない。私はドキドキしてるのに、これじゃなんか不公平だよ。とか、勝手にむくれたりして。


 ま、これがレークさんだし、この空気が読めないでワザと読んでない感じは、もう無視するしかない。


 私はにっこり笑って。


『陛下に手土産を、と思いまして、ロールケーキを用意しました。』


 よく分かっていないようだったけど、説明は後だ。いくら私にはオウサマの凄さが分からなくても、この国の最高権力者に会いに行くのだから、待たせるわけにはいかない。


 私たちは最上階にある王子の部屋へと向かった。




 そこは明らかに私が今まで立ち入ったことのある場所とは違う。質も、警備も、何もかもだ。


 私はオドオドしないように一番後ろから従うように着いて行き、重そうな扉が開かれ、中に通される。


 そこには美麗集団がいた。


 …思わず見惚れちゃったよ。


 机に椅子についている男の子は、金髪に碧の瞳、傷一つない肌を持っていて、例えるなら…そう、天使だ。


 女性は見事な肢体を持っていてプロポーションが見事過ぎる。それに加えて、金の髪と緑の目はまるで女神様だ。


 そしてもう一人、この人が国王陛下でクーンさんのお兄さん。クーンさんよりも少し色素のうすい茶色の髪で、目は碧。その顔立ちはよくクーンさんに似ている。違うことと言えば目の色と、神が肩よりも長いということ。そして線の細さ。病気がちだということが一目見て取れた。だけど、その威厳は半端じゃない。


 まさにオウサマと言うべき人だ。


 事情を知らない使用人の人たちは、何事かと慌てだす。それには訳があった。


 クーンさんの存在だ。二人は兄弟だというのにあまり謁見は認められていないらしい。そして宰相さまと神官が揃う事もあまりないのだという。今までにない組み合わせの人物が揃ったことにより、広い部屋の中は混乱に陥っていた。



「皆席を外せ。」


 その声は酷く部屋に染みわたった。みんなは一斉に視線をオウサマへと向ける。その中の騎士のひとりが、できません、と言った。


「謁見手続きはされておらず、この訪問は不敬にあたります。何らかの処罰を与えるべきかと。」


 …なんだぁ、こいつ。


 少しイラっとした私は、睨みつける形でその人に目をくれる。騎士だというのに大きな態度。そりゃあもう、嫌ってほど目につきますさ。あとでクーンさんにでも聞こう。


「余が下した命に従えぬと言うのか。」


 その一言の威力は大きかった。そこに居た使用人はみんないそいそと出ていく。それから人払いをし、役者がその場に揃う。その時には、三人の視線が私に向かっていた。



「…そなたが、<最後の乙女>か?」


 いつまでも俯いてはいられずに、顔を上にあげる。その時、三人が息を飲んだのが分かった。


 私は、クーンさんたちの前に出て、オウサマへと近づく。そして、礼をとって行った。


『お初にお目にかかります、サカキバラ・ネイと申します。現在はクーン魔道師さまの専属女中をしております。』


 顔を上げてみると、顔を抓まれたような表情をしている。何事かと思って後ろを振り向くと、三人は微妙な顔をしている。



『私、何か間違えました…?』


 不安になってクーンさんに訊ねてみたけど、答えは返って来なかった。


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