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対話

クーンさんサイドで、短いです



「ネイは寝てしまったのか。」



 風がおさまった瞬間に身体を跳ね上げる。隣に寝ているネイの傍に、神が寄り添うように座っていた。


 優しげな表情、そして手つき。髪を撫でるのは俺の特権だったのに、それを容易くしている様は少し…妬ける。


 睨みつけるような視線にならないように気をつけ、神から目を話すことなく一度だけ頷いた。


 鏡盆に引き寄せられた神が消えてから二刻ほど経ち、外はもう暗くなってきている。神殿の明かりはおそらくないだろう。城下の方から騒がしいほどの声が聞こえていた。


 鏡神祭の一番の目的である鏡盆による遠視は無事に終了したらしく、後は町で騒ぐだけのようだ。


 貴族たちは城の大広間で舞踏会が行われるのが習わしだが、俺は毎年参加はしていない。


 一応は王族の血を引いているが、疎まれている。それに加え、今は大貴族の長男ではあるが、立場が悪い。人に嫌われることなど、もう空気のようなものだ。


 つい考え事をしてしまい、目の前に居る神に不敬にならないだろうかと見つめてみる。しかし、一向に気にした様子などはなかった。


「今年も、特に目立った問題はないよ。貴族たちがきな臭いが、町の様子は明るい。何かあるとすれば、それはこの城内で起こるだろう。」


 意外にも真面目な事を淡々と述べる神に、少し驚いてしまった。ネイが共にいる時は、ふざけているようにしか見えないのに、そうでいないと至極真面目で本当に恐れ多い方だと思う。


「それは、断言できるものなのですか。」


 つい聞いてしまった。しかし、一番気になる事だというのが事実だ。


 ネイは自分が人目につくのをひどく嫌っている。その魅力に見な惹きつけられてしまっているというのに。


 今年何か大きな変動があったと言えば、ネイつまり<最後の乙女>の出現だろう。これが場内に激震を走らせるのではないかと言ううことが、何よりも気がかりだ。


「いや、断言はできない。単なる予想に過ぎないよ。」


 その顔に、笑顔など微塵にも見られなかった。


 …笑えるのはネイの前だけか。そう疑問に思う。しかし、その表情の方が神らしいもの見えるのはどうしてだろうか。


 ただ視線を向けしかできない俺は、その一言一句を漏らさないようにと耳を澄ます。外の騒ぎが、とりわけくっきりと聞こえる気がした。


「君は、僕の存在をどんなものだと思っている?」


 急に疑問を投げかけられ、戸惑ってしまう。だって、この方は国王陛下よりももっと尊い御方なのだから。


 それが見て取れたのか、少々呆れた様子で答えを促される。


 緊張が一本の糸のように張りつめた中、俺は大きく息を吸ってから話し出した。


「我らが父であり、最も尊い御方です。」



 昔からそう教えられてきた。この国の歴史を語るには、無くてはならない人である。その御方が実現しただけでなく、俺にその名を呼ばせることを許してくれたということ自体が、奇跡に等しい。


 しかし。


「買いかぶりさ。」


 一蹴されてしまった。


「ネイの神に対する考えを聞いただろう。」


 以前のことを思い返す。それはネイがこの国にやって来たばかりのころ、宰相殿と俺とレークが聞いた話だ。


「神はこの世を創造したかもしれないけれど、縋りつける存在ではない、と。」


 確かそんなようなことを言っていた気がする。


 俺の答えは完全ではなかったのか、少し難しい顔をなさっていた。だが、少し考えているのかと思ったら、すぐに口を開き始めて下さった。


「大分簡略化されているけど、つまりはそう言う事だ。


 僕は万能ではない。出来る事は限られていると言っただろう。人の世の中に手を出すことは禁じられているとも。」


 初めてお目に掛かったときの言葉が思い返される。あの時は姿に見惚れてしまいあまり考える事が出来なかったが、今考えてみると敬虔な信者が聞いたら失神してしまうようなことを言っていた。


「僕が出来る事はこの世界の風や大地を動かすことと、町の様子を見守ること。そして、それを皆に伝える事だけだ。」


 ここまで言われて気付いた。


 神はおっしゃられた―――断言できない、と。出来る事が限られており、そこに未来を予想することはなかった。


 つまりは、予想しかできないという事だ。


 考えを巡らせている俺を神が見ていたことなど気がつかなかったが、お前が敏くて助かると言われた時、俺の思考が筒抜けだったということに気がついた。


 それを少し恥じて神へと視線を戻すと、またゆっくりとネイの艶やかな黒髪を撫でている。その表情は慈愛に満ちていた。


「今日は仕事もない事だ。しっかりとネイの傍に居るといいさ。」


 そう、今日は仕事がない。年に一度の大神祭のために、国民全員が浮足立っていた。それには貴族も含まれる。よって、今日は仕事が回って来ないのだった。


 ふわりと温かい風が巻き起こり、神は光を背負って半透明になりつつあった。



「…もう行かれるのですか。」


「ああ。その方がお前にも好都合だろう。」


 交互に視線を向けられる。…ネイと俺の顔を面白そうに見ておられた。


 なぜ全てがばれているのかと思い、ネイのことはすべて分かると言っていた事を思い出す。近くに居る俺の様子さえうかがっているのか、と信用されていないことが手に取るように分かった。



「僕は気まぐれにしか現れないから、次はいつ会えるか分からない。ネイによろしく伝えてくれ。」


 微笑むその姿は美しく、目を話すことができない。こんなに人を魅了してしまう方が我が国の神であることが、誇らしく思えた瞬間だった。


「これから忙しくなることだろうから、困ったら鏡盆に触れて僕の名を呼ぶように伝えてくれ。」


 付け足すように早口にそう言うと、今度こそ透明になって周りの景色と同化するかのようにスッといなくなってしまわれた。


 ふー、と大きく嘆息。漸く緊張がとれた気がした。


 ネイは気易く話しているが、俺とレークには一生無理だろうと思い、また嘆息を一つ漏らした。


この二人の絡みをネイ抜きで書きたかったため、予定にはありませんでしたが書いてしまいました。笑

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