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鏡盆祭‐その2‐


 あっという間に勝負がつく。横で興味深そうに見ていたクーンさんも、その速さに驚いていた。


 それから何度も勝負を挑まれたけど、私は無敗。これこそが嫌がらせだ。


 元々カードは強いし、負けないって分かってたからわざと誘った。我ながら人間がちっちゃいとは思うけど、ジュノには勝てなくてムシャクシャしてもらった。


 途中からクーンさんも意図が分かったみたいで、呆れた顔してたけど、そこは構わず続けさせていただきました。


 私、器が小さい上に、性格悪いですからね!自負してるだけいいと思ってよ。


 私に勝てないとようやく分かったのか、ジュノはカードを放り出して宙に寝転ぶ。


 こう言うのを見ると、神様なんだな、って納得するんだよね。普段は欠片もそんな感じがないから、たまにすご技を見ると拍手したくなる。


 散らかったカードをまとめて、私はトランプでピラミッドを作り始める。手を動かしたまま、まだそこに居るクーンさんに疑問を投げかけた。



『クーンさんは鏡神祭に参加しないんですか?』


「陛下は参加するように言われるが、他の者たちがそれを許してくれなくてな。


 …卑しい血だからと、本来なら神殿へ入ることすら拒否されるんだよ。」


 ホントに、単なる疑問ってくらいで聞いたのに、返ってきた答えに固まってしまう。



 …私、無神経だ。


『…ごめんなさい。』


 顔を合わせられずに、俯く。こうやって失礼な事聞いて謝るの、最近増えてきてる。もうちょっと考えてから喋るようにしないと。


 人を言い負かすような時はきちんと練ってから口を開くのに、そうでないとこんなにも簡単に失言してしまう自分が嫌になる。


 肩を落としてしゅんとしていると。


「気にするな。」


 ぽん、と頭に手が乗せられた。


 それは慰めてくれているような温かみがあって優しい。だから、私は一度だけ頷いた。


「そうだよー。てゆーか、そんなこと言ったら市民たちはどうなるんだよーぅ。


 ここの国はジア教を主としている。商人や町人、農民だって崇拝してくれているんだ。高貴なものだけに許されていることじゃない。


 そもそも、そいつらが貴族だって決めたのは僕じゃないんだ。クーンの血のことを言う前に、己の身は卑しくないのかと聞きたいところさ。」



 急にまじめになった喋るから、思わず聞き入っちゃったよ。そんな顔できるんなら、最初からすればいいのに。



 あらためて考えると、ジュノって神様っぽくないんだよね。地球のおもちゃとかゲームとか小説とか好きだし、考え方も偏ってる。でも、それを聞いたら、そういうものなんだって返ってきた。


「僕にだって一応は感情があるんだ。君とこうやって会話しているんだから、わかるだろう。


 それに、僕はこの地やこの地に住まう者たちを見守ることしかできない。人間関係や病のいざこざを全て改善してやることは元より無理な事だし、手を出すことで人生を狂わせてしまう可能性がある。


 だからこそ、神たちは手を出さないという掟に従って、風や水を操り、大地を見守るだけなんだよ。」



 ああ、この人綺麗だな。そう思った。


 普段はおちゃらけているのに、芯はしっかりしている。多少、いやかなり頭にくることもあるけど、それでもやっぱり神様なんだって思った。


 ぼーっとジュノを眺める。思いがけず見入ってしまったのは、普段とはかなり印象が違うからだと思う。


 声をかけようとして、はっと息をのんだ。


 ジュノの身体が、黄金に光りはじめたから。



「出番のようだね。」


 囁くようにその言葉を残し、急に消えた。だけど、そこには光の名残があって、すごく綺麗だった。


『出番って、何のことだろう…』


 取り残された私は独りごちる。一人きりだと思っていたから、後ろから声がして驚いた。最低だけど、見惚れててその存在を忘れてた。


 クーンさんは一部始終を傍観してたらしい。口挟んでくれてよかったのにね。


「本当の意味での鏡盆祭が始まった。今頃レークが鏡盆の前に立ち、下に広がる水の表面に町の様子が映し出されているはずだ。神はおそらくそれに引かれたのだろう。」


 そっか。いくら民の祭りだって言っても、本人が関わらない訳にはいかないんだろうね。ジュノも神様やっているんだ、と少しだけ吃驚してしまった。


「そろそろ鏡盆祭も終わりに近づいている。今日は夜中まで宴が催されるから、帰りは夜中になってしまうだろう。」


 そうなんだ。お祭りはどこの世界でも変わらないんだね。そして、私は相変わらず暇な訳だ。ジュノも消えちゃったし、やることないなぁ。



 私はゴロンと仰向けに寝転がる。両手足を広げて大の字になった。


 ボーっと上を見上げる。硝子の部分からは青空が見えて、清々しい。ステンドグラスからは光がさしていろんな色がキラキラしている。


 …だけど。こんな綺麗なものが見れているのに、自由がない気がした。



「ネイ?」


 呆けている所為か、心配そうな声が斜め上から聞こえた。覗き込んでくるクーンさんは、柔らかい表情を浮かべている。


 一番最初のころよりも、雰囲気が優しくなったなぁ。


 会ったばかりの時は、無表情か難しい顔してたから、優しい人だと分かってはいたけど、少しだけ怖かったんだよね。



 私が得意な事は表情や空気を読み取って人に合わせること。それが出来ないクーンさんは、表情や態度とかじゃなく、自分の嘘が通用しない人だと思って怖かったの。


 今もその表面的な態度がクーンさんに対して出来る訳じゃない。だけど、その表情から私のことを考えてくれているのが分かるから。そういう意味で、この柔らかい表情が私は大好きだ。


「なんで、そんな顔をするんだ?」


 どんな顔してたんだろ。クーンさんを困らせちゃうような顔かな。


 私はジュノを見習ってへにゃっと笑って聞いてみると、泣き笑いだと返ってきた。


『どうしてかは分かりませんけど、今の表情がクーンさんにとってそう思えるのなら、そういう意味の表情なんだと思います。』


 私を理解してくれて嬉しい。素直になれている。…心から笑うことができる。だけど、私の心はプラスのものだけじゃない。


 いつか裏切られるんじゃないかって怖くなる。私はそうであるのに、他の人に表面だけで合わせられていたらどうしようって思う。…クーンさんに見限られたらどうしようって思う。嫌われたくないって思うの。


 自然な私を受け入れてくれる人たちに、新しいことを伝えて生活を楽にしてあげたい。もっと楽しいことを知って欲しい。だけど、今はただジュノに流されているだけな気がして、自分の意志を見失ってる。


 それでいいのか、分からない。


 何も言わなくなった私に、クーンさんは一言だけ、そうか、と言って私の隣に同じように寝転がった。


 聞かないでくれる、クーンさんの優しさが嬉しい。思考が上手くまとまっていないように、今は上手く答えられないし、上手く誤魔化すことも出来ないだろうから。



 不意にふわりと温かい風が吹いた。温かい風が私たちを囲み、へにゃっとした特有の笑顔が見えた。


 でも、その風が納まろうとする時、私は意識を手放して、その笑顔の持ち主と対面することはなかった。


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