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鏡盆祭

『ジュノー、暇だよぉ。』


 私はうつ伏せに寝っころがり足をバタつかせ、目の前に居る神に珍しく愚痴っていた。怒ることはあっても、別のことで愚痴るなんて初めて。


 だけど、これもジュノが招いたことだった。


 今私は、神殿の一番上の部屋に居る。そこは草花でできた緑の絨毯が広がっていて、当たる日差しが綺麗だ。壁とドーム型の天井はステンドグラスのような造りと、透明なガラス造りの綺麗なものだし、最初は楽しんでいたんだけど…


 こうもやることがないと、つまんないんだよ。



 今日は鏡神祭。ジュノに言われた通り、私はレークさんのお手伝い、基ジュノの暇つぶし相手に任命されて神殿にきていた。


 ジュノ曰く、鏡神祭の日は一日中神殿に居なくちゃいけないんだって。それが暇だからって、私を引っ張り出さないで欲しいよね。


「…ネイ?」


 ここには見えるところに階段がない。まるで屋根裏部屋に行くみたいにして、床に在る人が一人通れるほど小さな扉を開いて上がってきた。


 今そこから顔を出しているのはクーンさん。心配して様子を見に来てくれたようだ。


『クーンさーん!』


 思わず飛びつく。やることがなさ過ぎて、テンションがおかしい所為だと思ってください。


「どうした?」


 心配そうに微笑んでくれている。上まで上がってきて、扉を閉じると、そこには元の緑の絨毯が広がっていた。


 私がいるよりも、クーンさんの方が何倍もこの綺麗な場所に似合う。私はしばらくボーっとその姿を眺めて、目の保養をした。


 ジュノでもできるかと思ったんだけど、地球のおもちゃで遊んでる姿があんまりにも情けなかったから、止めて置いたんだよね。


 ミニカー使って遊んでるから、私と話してる暇はないんだって。自分で呼び付けたくせにさ。暇で不貞腐れているのはその所為だ。


 クーンさんは持ってきたバスケットの中身を広げてくれる。お昼ご飯を持ってきてくれたらしい。


 草の上に白くて大きな布を引いて、その上にサンドイッチを出してくれた。エルさんが作ってくれたんだって。


 流石料理人。腕上げてるねー。


 私がこの間作ったものと見た目がそっくり。味も変わらなければ嬉しいけど。


『エルさんがわざわざ用意してくれるなんて、何て言ってお願いしたんですか?』


 サンドイッチ、それから紅茶。籠が随分と大きいと思ったら、温かい紅茶を用意してくれたらしい。


「ネイが鏡神祭の間中レークの使いっパシリになっていると言って、用意してもらったんだ。随分と心配していたぞ。」


 いや、エルさんの場合、新しい料理を知りたくてそわそわしてるだけだと思うけど。


 一応、心配してくれたって方向で受け取っておきましょう。そして、いただきます。


 食べること、これ至福なりー。味もそのまま表現されているサンドイッチは私にとっては、極上の品だった。


「なにそれ、なにそれー。僕も食べる!」


 ミニカーを放置して、いつの間にかジュノが近くに来ていた。



『食べるって言ったって…


 そもそも、神様って実体なの?食べることは可能なの?』


 大きな疑問だよねぇ。だって、神様のイメージって、白い服着てバックに光り背負って、天使が近くに居て微笑んでる…ってだけだから、ご飯とか、そういうのって必要ないと思ってた。


「可能だよ。必要はないけど、娯楽の一種だね。」


 そう言って、許可を出す前にもう口に運んでいた。なんて勝手な。


 あ、と思い、視線が刺さってくる方へと目を向ける。そこには驚いているクーンさんがいた。


 もしかして、サンドイッチが勝手に浮いて、減っていくように見えてるんじゃない?


 これはさっさと説明せねば、と思っていたのに。


「ネイ…何でネイに触れていないのに、俺に神が見えるんだ?」


 え、見えてたの?てゆーか、理由は私も知らないよ。大体、この神が私にきちんとしたこと話したことなんて無いんだから。


 じとーっとした目で睨みつけていると、へにゃっと笑った。


 呑気なもんだね。


 子供みたいに美味しいと言って食べてるジュノを横目で見やり、クーンさんにも促して自分もお昼を取ることにした。



 食べてるジュノに聞いたところ、今日は鏡盆祭だから力が増幅してるんだって。


 それに加えてここは神殿。神様が宿る場所。だから、余計に力が増して、普通の人とは違う、守人であるクーンさんにははっきり見えるそうだ。



 最後の一個を迷うことなくジュノが食べ、それをクーンさんと私はお茶を飲みながら眺める。


 …大きな子供だな。


「ごちそうさまでした!」


 手を合わせてそう言った。


 だけど、ちょっと疑問。こっちでは食前後の挨拶は無いのに、どうしてジュノがそれを知ってるの?


 悩んでいてもしょうがないので、すぐに訊ねる。そうすると、また聞いていなかったことを教えられた。


「君が前に話していただろう?」


 確かに、こっちに来てから人に話はしたけど、直接ジュノと会ったのだって一週間前だし、話した覚えがない。


 首を傾げていると、このアホはまたもや爆弾を投下した。


「君のことなら姿を現さなくても見えるんだ。もちろん気が向いた時しか干渉しないけど、君のことなら何でも知ってる。


 僕の乙女のくせに、クーンと一緒のベッドで寝たこともね。」


 何故はじめに言っておかない?!


 だって、他の人が知らない生活部分ってもんがあるじゃないですか。そんなとこ見てないよね?




『…お風呂、見た?』


「ああ、君の胸はニホンでならそう小さくもないけど、こっちではやっぱり成長が足りないようだねー。」


 ○び太くんか、お前は!そして無性に腹が立つ評価をお前にされたくないっての!


 怒りは沸点に達し、今日こそはと思ってジュノに殴りかかろうとする。


 と、ここで思わずクーンさんを見てしまった。


 普通なら神に対して不敬な事をしちゃいけないとか言って止めるのに、今日はそれをしない。


 思わず腑抜けて見てみると、久々にあまりにも深い眉間のしわを目撃した。


『…止めないんですか?』


「裸を見られるなど、女なら怒るべきであろう。それがたとえ神であっても、な。」


 目を閉じたまま言い、難しそうな顔をしている。


 でも、私はしたり顔。許可、もらっちゃったー!日頃の鬱憤を晴らしてやろうじゃないか!


 ジュノはクーン、僕を助けろ、とか言ってたけど、クーンさんは動じていなかった。


 完璧に私の味方についてくれたみたい。ここぞとばかりに殴ろうと思った瞬間、違う嫌がらせ、思いついた。



『…ジュノ、そこにあるので遊ばない?ルール、教えてあげる。』


 わざと企むような笑みを浮かべながら、カードを指差す。さっきまでの怯えるような表情は消え、ジュノはその話に飛びついた。


「そのために君に来てもらったからね!是非そうしてくれ!」


 カッチーン。上から目線のもの言いにイラッときたけど、ここでも敢えて笑顔は崩さない。てゆーか、そのために人をこんなところに呼ぶなんて。余計に仕返ししてやりたくなった。



 私はトランプを取り出し、赤と黒に別ける。それからゲームの説明をしてやった。


 まずは簡単なものから、そして二人で勝負が付けられるものがいい。そう思って説明したのはスピードのルールだ。


「ふむふむ。なかなか面白そうだね。」


 そうやって余裕をかましてればいいさ。私、こう言うカードゲーム得意なんだから。


 せーの、の掛け声で始めて、私はどんどんと手持ちのカードを減らしていく。ジュノはあたふたするだけだった。


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