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アホ神の言うことには。


 いつもと違う場所から入ったのか、降りた時の景色はいつもの所とは違うものだった。しかし、同じものも一つ。いや、一人。


「大丈夫ですか?」


 いささか心配そうにしているレークさんがそこに居た。どうやら待っていたらしい。その顔も心配そうだった。でも、そろそろその表情飽きてきたぞ!


『みなさんが過保護過ぎるだけで、それほど大したことではありませんよ。』


 ポロっと口にしていた。それを聞いたクーンさんは渋い顔をし、レークさんは笑う。ホント、二人って対照的だよね。



 話をしながら、神殿へと向かう。てゆーか、このお城広すぎ。こっちから入ると、道筋なんか全然分かんない。遅れないように二人について行かないととんでもないことになりそうだ。


 迷路のような廊下を進む二人は、きっと記憶力が半端ないに違いない。


 すれ違う人に見られたりしたけど、極力戸惑うような表情は出さないようにして進んだ。挙動不審だと逆に怪しまれるからね。何事もない様に澄ました顔してるのがイチバン。


 さっきの場所からの方が中央の神殿に出やすいのか、早くに着いたけど、やっぱり道筋は覚えられなかった。


 一歩神殿に足を踏み入れると、そこの空気は澄んでいて、昨日と同じように神聖だと思った、のに。


「やあ、待ってたよー。」


 気が抜けたのは仕方がない。このアホ神がまたふざけた格好抜かしてるから!



 今日はどうして浮き輪をしてるんですか!この寒いのに時期外れだって話ですよ。てゆーか、いちいち使い方分かってないよね。


 分かんないんだったら着けなきゃいいのに。


 脱力した私を見て、二人は私の肩に触れてきた。どうやら神の姿を見ようとしたらしい。


 どうかこんなのを見て、呆れないであげて。って、なんで私がフォローしなくちゃならないんだって思って、口に出すのは止めておいた。


「あれ?具合が悪いのかい?だったら休んでいなきゃダメじゃないか。」


『来なかったら文句言うくせに、そんな心配そうな顔するの止めて。』


 至極真面目に言ったのに、分かっているじゃないか、と言ってジュノはへにゃっとした笑顔を浮かべた。


 そう言うところが頭に来るんじゃ!


 文句を言ってやろうと思ったけど、頭に血が上った所為かクラっとしてしまった。そこを支えてくれたのは、毎度お世話になっているクーンさんだ。


「やっだー。また僕の乙女とイチャイチャして!


 …ところで、君、名前なんだっけ?」


 死ぬほど失礼!大体人に名前を呼ぶことを許そうとか言っといて、人の名前覚えないなんて横暴過ぎる。そのうち信頼失くすね。…って、信頼とか神様にカンケー無いのかな?


 ま、そこは置いといて、早く話を進めよう。なんとなく、背筋に寒気が走った気がした。今日は冷えるし、早く帰った方がいいのかもしれない。


『ジュノ、話の続き聞かせてよ。


 で、その前に私の名前はネイ。こっちの神官服着てる人がレークさんで、私を支えてくれてる人がクーンさん。お世話になってるんだから、ちゃんと覚えてよ。』


 文句タラタラですみませんね。でも、折角名前があるのに呼ばれないなんて悲し過ぎる。その空しさを、私は知ってるから注意したの。


 向こうに居る時はずっと、“お前”とか“おい”とか“ちょっと”って言われてた。


 私に名前をくれた人ですらそう呼んでたの。それって、悲しい事でしょう?


 …って、また暗い思考に……


 もう一人の私に引っ張られてるなぁ。


 頭の中ではそう分かっていても、もう一人の私に思考が引っ張られるのは止められなかった。


「分かったよ、ネイ。それに、レークは元より知っているし、王族の血を引いているクーンを知らない訳ないだろう。」


 あ、それもそうだね。


 納得して頷いていると、満足そうにジュノも頷いていた。


 てゆーか、分かってるんだったら最初からそういう態度とって欲しいもんだよ。


 呆れながら見ていると、レークさんから注意を受ける。神さまなんだからもっと敬えって。


「確かにねー。僕も曲がりなりにも神様だから、やっぱり敬ってもらわないと。信用問題って、大切だよねぇ。」


 その口がそれを言うか。本当に、いつかシメてやる!こんなジュノのどこを敬えと?!


 何よりそのへにゃっとした笑顔がむかつく。これほどまでにぴったりな表現の仕方は思いつかない。


「まぁ、そう怒らないでよ。それより、君の体調が悪くなるのはわかりきってたことなんだよ?」


 …ちょっと待て!今聞こえたのは空耳?


 確認してみたけど、空耳じゃなかった。ここまでくると喧嘩を売ってるとしか思えない。


『聞いてないんだけど?』


「だって言ってないもん。」


 コロス!なにが“言ってないもん”だ。大人の男が使っても可愛くも何ともないからね!


 怒りでいっぱいのまま飛びかかろうとしたけど、二人に止められてしまった。


 女一人対男二人では力の差は歴然。糸も簡単に止められちゃって少し残念だった。


「ネイ、少し我慢しろ。体調はまだ優れないんだろう?」


 優れてたら殴りかかってもいいかって聞いたら、やっぱりダメ、だって。残念。


「話が進まないなぁ。もう口開いてもいいかい?」


 だ・れ・の、せいだっつーの!


 いや、ここで怒ったらまた進まない。一つ大人になって、私はぐっと我慢した。


「悪いけど、今日の話の後で君はまた体調不良に襲われることになる。心して聞いてくれ。」


 前提にそれって、ちょっと構えちゃうよね。それでも、嫌という雰囲気を出せない私は、黙ったまま一度だけ縦に頷いた。



「君はこの世界に新しい技術を伝えるためにやって来た。そして、神(僕)との対話を人に伝えるという意味もまた持っている。」


 ここまではいいね、と言われ、また一度頷く。口を挟むとどうもケンカ腰になっちゃうからっていう理由を込めて私は頷くだけに留まっていた。最善の策でしょ?


「そして、君は不安に思っているかもしれないが、どれ程の技術を伝えることができるか、という問題がある。それに関しては問題は全くないという事を伝えておこう。」


 ジュノの言うことはさっぱり分からない。だって、単なる学生だった私がそれほど多くの知識を持っている訳ないでしょ。そう思っていたら、ジュノはどんどん説明を続けていた。


「君には向こうの世界の知識をあまりなく授けた。そうだろう?」


 昨日のように問いかけの後、私はめまいを感じた。そして、また金切り声を上げて叫ぶ。昨日は記憶のせいだったけど、今日は頭が割れそうなほどの頭痛に襲われたからだった。


 昨日と同じくクーンさんに支えられはしていたが、床にへたり込む。頭を抱えたまま動けそうになかった。


「あー…やっぱり知識が暴走したか。」


 頭痛がようやく治まってきた頃、ジュノは呟くようにそう零した。


「知識の、暴走?」


 怪訝そうな声。表情は見えないけど、心配そうにしているクーンさんの声は固かった。


「ああ。彼女はまだ若いだろう?学生は基本的な事しか学んでいない。だからこそ、様々な専門知識を詰め込んだのだよ。それに、力も。


 どうだい、ネイ。具合は最悪だけど、状況ははっきりと分かるだろう?」


 まったく持ってその通りだった。私の脳内にはいろんな知識が溢れている。これならどんなことにも立ち向かっていけそうなほどの情報量だ。


 だけど、弊害が最悪。


 気持ち悪いし、頭痛いし、ふらふらするし。この分だと、熱が上がったに違いない。


「ね、体調が悪くなるって言ったろう?」


 ね、じゃないから!


 昨日の比じゃないほどの体調の悪さは、もう立ち上がれないほどのもので、意識を保つのにも必死になるほどだった。


 クーンさんに支えられていないと、倒れちゃいそう。座っているのに、身体は楽じゃなかった。


「今なら君にたくさんのことが聞けそうだけど、知識の多さで混乱しているはずだからここは譲ろう。


 僕に聞きたいことはあるかい?」


 もちろん。山ほどありますよ。


『なんで、個々の言語が私には理解できるの?』


 文字も、言葉も分かる。それこそが一番の謎だった。私が貰ったのは、地球でのあらゆる知識。人間の脳には多すぎるほどのもの。


 だけど、言葉は違う。こっちのものだもん。


「ああ、それは面倒だったから、言語全般に知識を与えたんだ。」


 そう言われてみれば、英語とかフランス語とかも分かるような…?


 てゆーか、こんな知識いらないよね。脳内の容量はこの所為で大きいのかもしれないし。


「今の君なら、どんな世界を旅しても言語のおかげでだまされることはないだろうね。」


 それはどうも。だけど、あんたの所為で私はここから出ることすらできてないんだけどね。


 厭味ったらしくそう言うと、緩い笑顔でどういたしまして、と返された。褒めてないし…ま、ここでいくら文句を言おうとも、もう無駄だって分かってる。だからこそ、違う話題に変えることにした。


『魔法、なんで使えるの?私、よく分からないんだけど、今なら何でもできる気がする。』


「そりゃあ、もう、これを読んだからだよ!」


 ジュノがそう言って指差したのは、ケータイ。ってか、なんでケータイ駆使してんのに、遊び道具全般の知識は疎いの?


 それより、何で神様がケータイ持ってんの?ツッコミどころが万歳過ぎる。だけど、面倒だから敢えてしないのは、面倒だと言えるからだ。


「君たちの文明はすごい発達力だね。読んだケータイ小説に、異世界トリップものがあってね。それを参考にしたんだよー。」


 何て適当な神様なんだ。それでいいのか、ジュノよ…


 少し心配になった。


「こういうものはトリップした者がチートってのが定番なんだろう?大丈夫、死亡フラグは立たないようにサポートするから!」


 それ、言いたかっただけですよね?!異世界の神様が、チートとかフラグとか。それでいいんですかね。


 物を言う気も失せた。ってのは、ジュノのヘラッとした笑顔に脱力したのと、体調の悪さが最高潮に達した所為だとも言える。


「とりあえず、言いたかったことは伝えられたし、また鏡盆祭の時に会おう。


 その時にネイにはレークのサポートをしてもらわなければならない。いいね?」


 そう言って、勝手に消えやがった。やっぱり言いたかっただけかよ…


 私は意識を手放した。


 神様曰く、私はチートになったらしい…


 何て厄介な事をしてくれたのさ。私は平凡がいいのに。


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