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守人



『あんた、ホント余計な事に巻き込んでくれちゃって!これからの生活、どうしてくれんの?!』


 緊張感の欠片もないこの御方は神様であるらしい。


 …確かに見た目綺麗だし、そんな感じはしないでもないけど、認めたくないって思っちゃうのも仕方ないと思う。


 さっき、なんで泣いちゃったんだろう。私の涙を返せ!


「なんだい、あの時みたいに熱烈な視線を向けてくるなんて。


 あ!この馬はあげないよ!」


『いらん!』


 デジャヴ…


 また誰かからぱくって来たんだろうなぁ。


 ホントに神様かよ!と言うツッコミを、誰かに委ねます…


「ネイさん、そこに神様がおられるのですか…?」


 いつにも無く真面目な表情。レークさんにはそこに光があるように見えるらしい。一方のクーンさんは何の変哲もない景色にしか見えないんだって。


 って、そんな事言ったら、私って何もないところに話しかける変な人じゃない?


 この神に付き合って会話なんてしてたら、私の人間性疑われちゃうよ。


「あ、君今失礼なこと思っただろう。」


 何でわかるのよ。変なとこ敏いって言うか、自分の悪口に敏感って言うか。


「一応神様だからね。分かるさ。」


 うわー。自分で神様言っちゃったよ!


 私には頭の変なお兄さんとしか思えないね。



「君、もう少し包み隠すってことを覚えた方がいいよ。」


 私の考えていることがことごとく分かるのか、少し嫌なものを見るような目を向けてくる。だけど、私は気にしない。


 言いたいことははっきり言わないと!特に、こういうテンポや空気が読めない人にはね。


『じゃあ神様は、もう少し人を思いやることを覚えた方がいいよ。』


 失礼だろうけど、本当にそうだ。


 だって、私初対面なのに思いやりがないと罵られた上に、砂漠で脱水症状と熱射病起こして倒れたんだもん。


 神様がもう少し考えてくれてたらそんな事にはならなかったし、現代の日本社会では夏に熱射病で倒れる人が少なくはない。そのまま命を落とす人だっているんだから、本当に危ない。


「まあ、それに関しては考えない事もないが…」


  あ、ないんだ。いい傾向だね。


「で、詳しい話を進める前に、<最後の乙女>の証明のため、守人二人を選り抜こう。」


『守人?』


 ってゆーか、私が<最後の乙女>なのは決定事項な訳?


 アホ神に背を向けてぐるぐると思考をめぐらせていると、何やら難しそうな顔をする二人が目に入った。


 何て言うか…物申したいって顔してる。


『…何か?』


「ネイさん、いくら貴女が神を信じておられなくても、そこに神が在るとわかったのならば、敬う心を忘れてはいけません。」


 はい、早速お説教をいただきましたー。


 でも、この人の、いやこの神のどこを敬えと?!


 まさかの子供の遊び道具、木馬に乗ってるんだよ?てゆーか、木馬なんて私も初めて見たし。


 そんなナリの神をどう敬えって言うんだ。




「とりあえず、事実を知りたい。ネイは<最後の乙女>で間違いないんだな?」


「あ、こいつあの時のガキ!水に落っこちた時は面白かったなぁ。」


「やっぱり<最後の乙女>でしたか!神がそこにおられるのですね!」



 ...大騒音。 


 私が答えるよりもまず。



『全員黙れ!一度に喋るなー!』


 私は聖徳太子じゃない。10人どころか、3人の話だって同時になんて聞けやしないから。


 って訳で、キレた。



「「「......」」」


 静けさが広がり、私は満足して三人の顔を交互に見る。それぞれがなんとも表現し難い表情を浮かべていた。


『まずは確認します。存在はともかく、二人はジュノの声が聞こえますか?』


「なんで省りゃ...『黙ってって言ったでしょう?』


 笑顔を張り付けて言うと、押し黙る。


 最初からそうしててよね。何度も注意するの、面倒だから。


 ジュノから二人へと視線を移すと、横に首を振っている。ってことは、ジュノが言ったことを通訳する必要があるってことだな。


『ジュノ、さっきの守人の説明をお願い。』


「それが神様に対する態度かい?えーと…まあ、いいとするか。


 ネイが<最後の乙女>であることを証明するための者が二名必要になるんだ。その人には、君を介して僕を見えるようにしてあげるんだよ。」


 私一人がアホ神が見えてるって言っても、証明するものがないから守人を作る必要があるってこと?


 ややこしいなぁ。


『それで、その人たちを決めるのはジュノなの?』


「ああ。調度良いだろう、そこの二人が。頭数も揃ってるし。」


 ……


 そんなテキトーでいいんかい!


 ジュノの指した先には、クーンさんとレークさん。確かに二人が揃ってるけど…いささか安易すぎませんか?


 私が急に視線を向けると、二人は私をずっと見ていたのか目があった。


「さあ、説明は一度で終えた方がいい。そこの二人を君の横に呼んで。」


 こいつ、ちょっとだけ私に似てるのかも。とか、思っててげんなりしちゃうけど、思いついたら即行動に移るところなんかがそっくり。


 本当はもう少し詳しく話をしてもらってから、状況を把握してから、行動に移したい。だけど、このアホな神様は早くと催促してくる。


 仕方なしに嘆息を溢し、二人を手招きした。


『二人とも、こちらに来ていただけますか?』


 何事か、と言う顔で近づいてくる。てゆーか、さっきからずっと混乱したような表情を二人は浮かべていた。


 でも、それは私も一緒。


 私だけ神様と話しているからと言って、きちんと状況が出来ているかと言ったらそうじゃない。むしろ、状況は悪化している一方だ。


「君を挟んで左右に立ってもらって。」


 ジュノの指示通りにする。でも、ここでちょっと待ったをかけて、二人に問いかける。


『貴方たちを私の運命に巻き込むことになります。


 …正直に言って、私はお二人にこれ以上迷惑をかけたくはありません。もし嫌なら、これから私も何が起こるのかはよく分からないし、理解も出来ていないけど、断っていただいて構いません。』



 どうかを訊ねると、レークさんは一秒と間を置かずに了承をしてきた。


 神官なのだから、神の関わることに自分の身を置くのは当たり前だし、当然の務めなんだって。


 嬉々として言って見せたから、本心なんだと思う。


「ネイに関わることについては大丈夫だ。むしろ歓迎する。


 しかし…俺のような卑しい血と呼ばれるものが、神に関わっていいのだろうか?」


 自分のことを“卑しい血”と呼ぶなんて。思わず眉を顰めてしまった。


 クーンさん、いい人なのに、周りの評価はどうしてこう、伴ってないんだろう。誰よりも努力して、誰よりも高みを目指せるような人なのに。


 って、真剣に考えてしまったのは私だけだったみたいだ。



「オッケー、おっけー、オールおっけー!


 ほかのヤツらになんか任せてられないでしょ。この清水が認めた人間なんて、少ないからねぇ。」



 本当に、緊張感と言うものを持って欲しいと願ってしまわずにはいられない。なんでこんなに間が抜けたような発言しかできないかなぁ、と思いながら、表情が変わらないクーンさんを見て、ジュノの言葉が聞こえていない事を思い出した。


『大丈夫だって言ってます。清水が認めた人間は数少ないから…って、清水が認めた人間しか守人にはなれないの?』


 途中から、話しかける人変わっちゃった。


 視線をジュノに向けると、うんうんとうなずいている。てゆーか、木馬をギコギコ動かすの、やめなさいよ。


「守人?私も初めて聞きましたが、清水が認めた人間が選択される何らかのものなんですか?」


『うん、<最後の乙女>の証人らしいです。


 二人にこんな事言っちゃあなんですが、このアホ神、残念過ぎるんで、会話を交わした時に、がっかりしないで下さいね。』


 私の言葉にジュノは少々不貞腐れてるけど、事実だもん。先に言っとかないと、神様に期待してる分だけ、会ったときに残念な思いをするに違いない。


 一通りの確認が終わって、私たちはいま、鏡盆の前に立たされている。右手をクーンさんの手に、左をレークさんの手に添えていた。


「じゃ、さっき教えた通りに。さあ、はじめようか。」


 映画監督ばりにしているジュノは放っておいて、さっさと事を進めることにした。


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