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天然タラシ



 現在、午後のお茶の準備をしております。


 侍女部屋に飛び込んだ時、そう言う訳でちょうどミリアは私を呼びに行こうとしていたらしい。


「で、何があったんですか?」



 テキパキと手を動かして聞いてくるミリアとは違って、私は動揺を隠せない。


 いきなり核心を突いてくるのがミリアらしいと言いますか、うん。遠回りする時間はないって分かってるんだけど。


『あの、ですね…』


 そう切り出した。何で敬語なのか聞かれたけど、それはなんか雰囲気だよ。


『クーンさんのお仕事を手伝おうとして、書類を私が配達してはどうかと提案してみたんだけど…そう言ったらクーンさん、私を他の人に知られるとイライラするって。』


 あの時の目があんまりにも真剣だったから、他意はないんだって分かってるけど、ドキドキしてしょうがない。


 自分一人の動揺はそのせいだ。


「ま、仲がよろしいんですのね。あの方にしては、分かりやすい行動に出るには随分と早い展開です。」


 納得したように頷いてますけど、ミリア、私良く分かんない。置いてかないでよ。


 どう言うことか話してくれるように懇願すると、言葉を選ぶようにして話し始めた。


「そのままの意味です。ネイさまはそのまま受け取ればよいと思いますわ。」


『それって、私の存在が迷惑で知られたくないってこと?!』


 ま、まさか、そんな風に思われてるとは!ああ、でも確かに、私ここに来てから迷惑しかかけてないし…


 てゆーか、突然ポッと湧いて出た私に親切にしてくれ過ぎてるし、いい加減そう言う扱いしてる事に気づけよ、って話?


「何でそうなるのですか!」


 さっきまで平静だったミリアは、いきなり声を大にして言った。


 でも、そう言う結論に、なるでしょ?


『だって、私はこの城内じゃ有名だって言われたよ?この奇抜らしいな格好の所為でしょ?それに、ここに来てから迷惑かけてばっかりだし…』


 私の今の気分はどん底だ。迷惑かけないようにするにはどうするべきか、悩みどころ。


「その意味、私分かりますわ。」


 ため息をついて、手を休めて私に向かって言った。


「ネイさま、ご自分の容姿についてどう思われていますか?」


 自分の容姿?今そんな話だったっけ?



 不思議に思いながらも、ミリアの質問に答えた。


『指して特徴もなく、平凡な感じ?あと、残念な足の短さしてるよね。』


 この国の人たち、みんな背が高くて足が長い。しかも、女の人たちなんかボン、キュッ、ボン、な体形してるから、私が最初早乙女って言われたのにも、今さらだけど頷ける気がする。


 私の答えにやっぱり、と独りごちると、ミリアは口を開き始めた。


「ネイさまが1日で有名になられたのかは、たくさん理由がありますが、原因はその容姿ですわ。」


 なに?!そんなに見るに堪えぬほど酷い?ニホンに居た時はそんな事もなかったはずなんだけど…



「的外れな事をお考えになっているところ失礼しますが、ネイさまはご自分の容姿に自信を持った方がよろしいですわ。


 大きく神秘的な黒い瞳はぱっちりしておられますし、艶やかな黒髪は印象的なほど美しいです。それに加えて透き通る白いお肌。


 身長は平均よりも低いかもしれませんが、華奢な身体に細い手足。それなのにお胸はしっかりおありになって、総合的に見ても人の目をとても惹く、愛らしい存在です。


 最初にクーン魔道師さまがおっしゃられたように、物語の森の妖精のように愛らしいんですもの。


 クーン魔道師さまはきっと誰かにネイさまを取られるような気分になって、嫌なんだと思います。」


 は、早口!一体どこで息継ぎしてたの、ってくらい早口だった。



「お分かりになりまして?」


 そう言われれば、頷くしかなかった。


「それで、“天然タラシ”とはどういうことですか?」


 どうもこうも、そのままの意味。日本人にはかゆい台詞を真顔で言ってくるんだもん。


『妖精だとか、私の髪を梳くのが楽しみの時間だからそれを奪うな、だとか。


 なんか、こう、ここら辺がかゆくなる言葉をたくさん言われてるような気がしておりまして、ですね…』


 そう言って、私は自分の胸の辺りに手を置いた。


「まぁ、クーン魔道師さまはそんなことをおっしゃられているのですね。意外ですわ。」


 え?そうなの?私の記憶によりますと、しょっちゅうそんな事言ってる気がするんだけど。


 もしかしたら、ここの人たちにとっては普通のことなのかもしれない。ほら、外国人ぽい感じだし、お世辞を言うのが当たり前とか。


 私がいちいち気にし過ぎてるだけなのかも!そう納得。


『そか、そうだよね!お世辞なんだからいちいち気にしてちゃダメだって!』



 わはははは、と大声で笑っている隣。


 ミリアが頭に手をやって、悩ましげにため息をついたのは言うまでもない。そして。


「お気の毒に。」




 そう呟いたのを、大声で笑っているネイが聞きとれるはずもなかった。


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