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目覚め



『んッ…』

「おい、大丈夫か?」


 あー、ダルイ。私、何してたんだっけ?


 …ああ。神様とか名乗るイケメンが現れたんだっけ。三輪車とか、浮いてるとか、奇妙な事があった気が…



 変な夢だった。目を覚ましたら、きっと!


 きっと…?


『――…ここ、どこ?』


 視界に入っていたそこは、白い部屋だった。


 病院、とか?いや、ひらひらがいっぱい。お姫様みたいなベッドに横たわっている。


 日本人には滅多にないと言う、天蓋付きのベッド。なんでそんなとこに寝てるんだろう?


 状況を把握するために、部屋を一望しようとゆっくりと体を起こした。



「ここはデューク王国の城だ。自分の状況は、理解できているか?」


 横からする声。感情の浮き沈みは無く、ただ淡々としている。


 でも、少し待ってほしい。理解するには…ちょっとキャパオーバーかも。容量の少ない私の脳には、かなり厳しい状況だった。


 何が、どうなってるんだ?


 さっきまで砂漠で三輪車に乗ったウザい神と話した夢を見て、その後は知らないベッドの上で寝てる、と。


 …あり得ない。どんな状況だよ。


 私が押し黙っていると、小さく“記憶喪失か?”と零す人が一人。


『てゆーか、あなた、誰?』


 寝起き特有の掠れた声。相当寝てたみたい。そういえば、酷く喉が渇く。


「ああ、自己紹介がまだだったな。デューク王国の宮廷魔法師及び騎士団一等指揮官、クーン・リッキンデル・シェパードだ。」


 …今日はイケメン祭?何、この格好良い人。


 さっきのアホみたいな感じで夢に出てきた神様は儚げで、綺麗な感じだったけど、この人は、亜麻色の髪、意志の強そうなスミレ色の瞳。整っていて綺麗だけど、どこか野性味のある顔はもう、格好良いの一言に尽きる。


 てゆーか、外国人?日本語喋ってる?上手すぎやしないかい?


「おい、大丈夫か?」


 ちっ、近い!


 顔に一気に熱が集まってきた。


 あれか、外国人特有の、スキンシップってやつか?!

 私には今まで関係ないことだったから、実際にされると戸惑うって。


 そう思ってたのがいけなかったんだろうね。


『だ、大丈夫だす!』

『「……」』


 “だす”って、見事に噛んだ。


 余計に恥ずかしくなって俯くしかできない。


 今までにないイケメンに会ったんだよ?そりゃ、少しくらいは猫を被って、女の子らしく淑やかにしておきたいものだったけど。無念、の一言に過ぎる。


「とりあえず、落ち着け。名前は?」


 何事もなかったみたいに流された。けど、有り難いから私も何もなかった体で答える。


『榊原寧。』


「サカキバラ・ネイ?どっちが名前なんだ?」


 ……?どっちも何もないでしょ。何を言ってるんだ、このイケメン。


 いや、待てよ。目の前にいるイケメンさんは見るからに外人っぽい顔つき。外国だと反対になるんだっけ?


『ネイ。ネイが私の名前。』


 やっとのことでそう言うと、クーンという人は優しげな笑みを零した。


 と、思ったらまた眉間に皺。元の真剣な顔つきはどこか厳しそうだった。


「ネイ、自分の状況が理解できるか?」


 至極真剣な趣。私は自分が一筋縄ではいかない状況にいるんだと悟ってしまった。


 とりあえず、目の前の人は信頼できる人間だと思う。勘、だけど。だから正直に話そう。


『…今から言うこと、信じてくれますか?頭がおかしいヤツだと思われることを、きっと今から言います。だけど、真実だから。』


 鼻がつーんってしてきた。

 混乱のせいで、普段はありえないこと、泣くなんて行為に及ぼうとしてる。 


 だめ、泣くな。

 我慢するために顔や体に力を入れて俯く。


「…とりあえず聞こう。だから泣くな。」


 顔は見えてないはずなのに、優しくかかる声。それは、涙をもっと誘うものだった。


 頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしてここに居るのか、とか、目の前の人がどうなのか、とか、もっともっと疑問は頭に浮かぶ。でも、とりあえず、話してみよう。そう思った。


『ここが何処だかは分かりませんが、さっきまで私、砂漠にいたんです。』


「ああ、それはそうだろうな。ネイは砂漠に倒れていたんだ。そこを保護した。単なる熱射病だそうだ。安心していいぞ。」


 そうか。私、助けられたんだ。


 あのアホ神(真実か分からないけど)が無理矢理話を聞かせようとして、炎天下の中に放りっぱなしにするからこんなことになったんだよ。


 あやうく神様に殺されるとこだった。


『でも、その前には日本って国にいたんです。』


 “ニホン?”と首を傾げる。


 やっぱり。私は全然知らない土地にいる。だって、さっき言われた国の名前なんて聞いたことないもん。それは自分が無知な所為かもだけど。


 それにしても、どうして言葉が通じてるんだろう?私、日本語喋ってると思うんだけど。さっきも思ったけど、ホントに上手な日本語話してるんだよね。


 …とりあえず、話を先に進めよう。


『私は単なる学生で、三日後に大学の入学式を控えていたんです。東京に出てきて一人暮らしを始めるからって、買い物した帰り道、気が付いたらあの砂漠にいて。


 あそこでジュ…何とかっていう自称神様に出会ったんです。』


 あー、事実なのに、自分でここまで喋っといて、何言ってるんだこいつって思ってるんだけど。ってことはもちろん目の前の彼は…


「頭をどこかにぶつけた訳じゃないよな?」


 真剣な顔して悩まないでください。私だって訳わかんないんだから。


「話をまとめると、異国にいたお前は買い物帰りに歩いていたらあの砂漠にいた、と。」


 イエス、ザッツライト。神様の部分は割愛されちゃってるけど。


 何度も小刻みに首を縦に振った。


 信じてもらえなくても、事実は事実だもん。嘘はついてない。 隣から大きく深いため息が聞こえてきた。


 わかるよ。私はどう考えても頭がおかしい厄介者だもんね。


「ニホンに、神様、ねぇ。」


 うん、その渋い顔、期待通りの反応だね。私だって訳分かってないもん。


『あ、買い物袋がない…』


 いまさらそんな心配をしてみた。だけど、その返事はすぐに返される。


「お前の近くに落ちていたものはすべて回収した。そこに置いてあるぞ。」


 あ、ホントだ!私の食材ちゃんたち!


 日本人だって証拠が欲しくて、早いとこ自分が正常だって思いたくて。必死に力が入らない身体を動かそうとした。


 けど、無理なことは無理だ。


『きゃっ…!』


「危ない。」


 ベッドから転がり落ちそうなところを抱きとめられた。


 うわっ。筋肉しっかりついてるよ。現代男子には少数派な肉体だ!って感動してる場合かーい。


『ご、ごめんなさい。なんか動き難くて。』


 すぐに言い訳をしてみた。けど、すぐに頭の中では、小さな疑問が浮かぶ。


 自分で言っといてなんだけど、服が違うような気が?


 視線を自分の方へ持っていくと、まさかの白いワンピースのようなものを着ていた。


「ベッドに寝ていたのだから夜着に着替えさせたに決まっているだろう?」


 中世のヨーロッパか!何て突っ込みたいのに、言葉は出て来てくれなかった。


『あの、これを私に着せたのって…?』


「もちろん俺じゃない。流石に早乙女とは言っても女は女だ。そこはきちんと区別しているから気にするな。」


 待て待て待て。早乙女?


 辞書で引いた早乙女という意味に違いない。でも、それにしても若く見られ過ぎてる気がする。


 この人、私を幾つだと思ってるんだ?


『…私、何歳だと思われてるんですか?』


「14くらいだろう?」


 ちゅ、中学生?!確かにアジア人は若く見られるって言うけど、あと二年で成人ですけど。


『私、18です。』


 そう言うと、あからさまに驚かれた。あんな綺麗な顔の表情が変わってくれるのは嬉しいけど、ちょっと複雑。


「…すまない。顔つきや身長から言って、まだ成人していないかと思った。」


 うん、ストレートに言ってくれてありがとう。だけど、ちょっと傷ついたよ。


 けど、笑顔を崩すことなく、気になる情報だけを聞いて行く。


『ここでは何歳で成人ですか?』


「15だ。」


 なるほど。私はここではとっくに大人になってるってわけか。


『あなたはいくつですか?』


 そう尋ねると、24歳だとすぐに返事が来た。


 随分と大人っぽくいらっしゃる。身長も180以上ありそうだし、そんな人から言ったら、160㎝もない私は子供に見えるんだろうね。なんか、嫌だけど納得。


 ぐー。


 突然の大音響。その出どころは私のお腹だ。恥ずかしいにもほどがあるって。


「食事を運ばせよう。」


 ごめんなさい。深く反省しておりますとも。けど、腹が減っては戦はできぬ、とも申しますし。


 ここはひとつ腹ごしらえと行きませう。


 その人にお願いをすると、私はだるい身体をベッドに戻した。


「大丈夫か?」


 気だるそうにしていたのが気になったのか、顔を覗き込んでくる。心配そうなその目は子犬をも想像させるほど、キラキラしていた。


 …ちょっと可愛いじゃないですか。


 なんて思ってると、ドアがノックされた。と、続々とメイドさんたちが入ってくる。すぐに食事の用意がテーブルに用意されると、メイドさんたちは出ていった。


 早業っ!板についた仕事って感じ。


 それに感動していると、大きく、少しかさついてる手が差し伸べられた。


「さぁ、腹が減っているんだろう?食べよう。」


 その言葉に嬉々として頷くと、伸ばされた手を借りてベッドから降りた。席についてから疑問が一つ。食事のセットが3つ。今ここにいるのは私と彼の二人。


 どゆこと?


 何て考え込んでいると、その様子で私が何を考えているのか分かったのか、答えを教えてくれた。


「もう一人、ここに来るヤツがいる。ネイの話を聞きたがっているから、あとで紹介するよ。ほら、待ってなくていいから食べろ。」


 促されはしたけど、先に食べるのはどうも気が引ける。私が厄介になってる者だって言うのに、我が物顔で一人先に食べてたら失礼でしょ。


 だから、待つことにした。



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