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辛口ミリアとサンドイッチ‐その4‐


『それより、今時間ありますか?クーンさんにサンドイッチを作って来たんですけど、たくさんあるのでレークさんもいかがですか?』


 二人は初めて調味料を見た時のような顔をした。それのお陰で、説明が必要なんだと分かる。


『私の世界の食べ物です。いや、挟んだだけだし、料理って言うほどのものではありませんけど。


 クーンさんが食べる時間もないとおっしゃるので、手で掴んで食べられるものを用意しました。』


 そこまで説明すると、どうぞ、と二人に促した。


 本当はお米食べたいよね。でも、ここではパンしか見かけないし。


 私みたいな東洋系の人がいるみたいだし、エルさんに聞いてあるか確かめてみよう。


 今となっては本当に恋しいよ、焼き魚と米とみそ汁。日本人には必要不可欠な味だよね。


『お口に合うか分かりませんが、そんなに食べれないものではないと…


「うまい!」

「おいしい!」


 二人の声はほぼ同時。見たことないものを食べるのを訝しがってるのかと思いきや、もう口に運んでいたようだった。


 二人と勢いよく食べてる。そんなにお腹空いてたのかな?


 二人の食べっぷりに満足しながら、お代りの紅茶をカップに注いだ。


 お皿はあっという間に空っぽ。清々しいほどの食べっぷりにまた満足した。


「ごちそうさまでした。」


 例に習って、いつもの挨拶。日本の挨拶、定着してる?


 どうやら食に関しての深い考えを、一言の言葉で言い表していることに二人は感心したらしい。


 私にとってはもう当たり前のことだったけど、文化も宗教も違うし、珍しい考え方なのかもね。


 手を合わせて挨拶している二人を、不躾にもじっと見てしまった。



 …いかん、いかん。ここ数日でいい男を見慣れてしまった。


 これじゃ目が肥えちゃうって。


「さて、私はそろそろ戻るとします。今頃部下たちが血眼になって私を探してる事でしょうから。」


 分かってるなら、もっと早く帰ってあげて下さい。


 さっきから聞こえないふりしてたけど…レークさんを呼んでる声がずっとしてる。


 半分泣きそうな声色からしても、ずっと探してたんだね、ってちょっと可哀相に思えた。


「では、日時は改めて。また明日もこの時間に参りますので。」


 そう優雅に挨拶を残すと、さっとクーンさんの仕事場を後にした。


『レークさんの部下さんたち、可哀相ですね…』


 思わず独りごちる。それに一言、気にするな、と言う言葉が返ってきて、何事もなかったかのように、レークさんを呼ぶ部下さんの声は途絶えた。


 心の中で部下さんたちにエールを送ると、目の前の紙の束に意識を向ける。


 こっちもこっちで大変なのだ。…主にクーンさんが。


 手伝えることがないか考えなくちゃね。


 一度食器を下げ、その途中で気付いたことがあり、ミリアに紙と書くものを受け取って、足早にクーンさんの元へと戻った。


「…何を始めるんだ?」


 忙しいはずなのに、私を気にしてくるクーンさん。それじゃ意味無いって。


 だって、仕事を効率よく回す為に私がいるんだよ?なのに、私のことをいちいち気にしてたら、タイムロスでしょ。


 ま、そうは言っても、いきなり何か始めたら気になるってもんだよね。ってことで、説明しながら手を動かすことにした。


『この部屋を訪れる方々は、書類を自由に置いて行かれるようなので、あとで分けるのが面倒にならないように、あらかじめ置いて行く場所を指定するようにしようと思ったんです。


 こうやって紙に省名を書いておけば一目で分かるでしょう?』


 私は書類とにらめっこしながら、お手本どおりに名前を書こうとする。けど、どうも上手くいかない。


 …うわっ、曲がった!


「…そうか。」


 あ、今私の書いた字、ちらっと見ましたね!そしてあたかも見なかったフリするの、止めてください。余計に傷つく。


 下手なら下手って言ってくれた方がまだマシだって。てゆーか、問題はペンと紙にある、と思う。


 羊皮紙は凹凸激しいし、羽ペンはペン先がさけてるから自由に動いちゃう。


 それに加えて、なんで読めるのか分からないこの国の文字はくにゃくにゃしてるし。きっとこの国の識字率は悪いと思っちゃうほど、ヘンテコな字だ。


 格闘することおそらく30分。私はようやく全ての省の名前を書いて、札のようにすることができた。


 午前中に仕分けした分をそこに並べていく。


 次は厚手の大きめの封筒に、これまた30分ほどかけて名前を入れていく。次はさっきよりもうまくかけた気がする。


「それは?」


 伸びをしている私に、見計らったように声をかけてくる。


『これはチェックが終わったものを入れる封筒です。』


 チェック?と聞き返され、英語は伝わらない事を思い出した私は、確認の事だと伝えた。不便だと思う。


 だって、日本語英語って結構普及してたから、日本語に直すのって結構難しいんだよね。


『もし私が省への道のりを覚えたら、私が届けに行く事も可能になりますし、その方が回転率が上がると思ったんですけど…』


 最後の言葉を濁したのは、途中で自信がなくなったから。逆に迷惑かけるようなら止めた方がいいかも、って思えてきちゃって。


 それに、クーンさんの無機質な目線の意味が気になった。


 なんか、嫌だった?一度うろたえ、それからクーンさんを見る。 視線があって、一瞬で逸らした。


 …目力強いですね。切れ長の目は、私を捉えて離さないようだった。


『あの…』


 無言の空間がきつくて、自分から声をかける。でも、やっぱり視線を真っ直ぐ交わすことは難しかった。


「ああ、悪い。ネイが他のヤツに知られると思うと、少しイライラしてな。そうでなくてもこの城内でネイはもう有名人になっていると言うのに。」


 驚いて視線を上にあげると、その瞳に捉えられる。さっきと同じように逸らすことはできなかった。


『お、おお、お茶の用意をしてきます!!』


 何とかそう口にすると、そこから飛び出した。






 何これ!心臓が、痛い。活発に働き過ぎ!


 胸の辺りを押さえるように、昼休みの比にならないほどのスピードで廊下を駆け抜けて、侍女部屋に飛び込んだ。


「ネイさま!あれほど飛び込んではいけないと…ネイさま?」


 その場にへたり込んで心臓を押さえる。


 冷静に慣れ、自分!


「お顔が真っ赤です。熱でもあるのでしょうか?」


 心配してくれるミリアを余所に、私は自分のことで精一杯。おでこに手を当てて熱を計ろうとしてくれてるけど、原因は分かってる。


 何だか知らないけど、クーンさんの言葉にドキドキしてるからだ。


『ねぇっ、ミリアっ!クーンさんって天然タラシ?』


「は?」


 例によって、私はミリアに詳しく話す破目になった。





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