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辛口ミリアとサンドイッチ‐その3‐


「何を作る気なんだ?」


 そう、問題はそれなんだよねぇ。一応記憶が無いってことになってるから、テキパキ作るのはきっとまずい。

 てゆーか、バレる。


 そこまで記憶の所為にできるかが問題。エルさんが気にしない人だったらいいんだけど。


 純粋に、私が記憶喪失だけど、体が覚えているから作れる、とか、純粋に信じてくれたら尚いい。


 …よし、ここは気にしないで進めることにしよう。


 エルさんにお願いして、パンと卵と野菜と油と酢を用意してもらうことにした。


「野菜は何がいるんだ?あと、たまごは何のたまごを使う気だ?」


 ずらっと並べられたものに驚いた。すごい数。で、気が付いたことが一つ。


 ここは城内の厨房、つまりたくさんの食材が詰まってるってこと。


 そりゃあ、種類を尋ねられるほど有り余ってますよね。


 自分で選べって言われたらまずい。ってことで、先手を打ちましょ。


『レタスとトマトとキャベツ。あ、あとニンニクもあったら。それとハムとベーコンとチーズもあれば嬉しいですね。』


 エルさんって本当にいい人だよ。言ったものを全て聞きもらさずに、すぐさま用意してくれましたから。

 それに、挙動不審な私を疑いもせずに… 心が少し痛みます。


 でも、それにしたって。…用意した量が多すぎると思います。


 トマトは一籠、ベーコンとハムとチーズは塊。油に至っては、瓶が一ダース。何人前よ?


 それにしても、見かけないものだらけ。恐る恐る手にとって、黄色い葉っぱをかじるとレタスの味!白いのはキャベツ。


 この液体、まさか…ほんのりピンクがかった液体は酢だった。


 全部味は同じでも、色や形が違う。これから、食べる度に違う色のものを口にするのね。複雑。


「ネイ、だから卵はどれにする?」


 そう言って見せられたのは、さっきの量の多い卵。よく見ると、30種類以上あるみたいで、色や形が違った。手前にあったのを手にとって、とりあえず器に割り入れた。


『これ、黄身が緑!』


 驚愕の事実!てゆーか、食べる気すらしない色だった。


「それは黄身じゃなくて緑身だ。」


 うっそー、まっじー?ジョーダンやめてよっ!…いや、至極真面目だ。


 エルさんは不思議な眼の色を隠しもしないで、私を見つめている。それからハッとして、愁いを帯びた目に変わった。


「ネイ、やっぱり記憶が薄れてるんだな。これからは何でも言え!おじさんが何でも相談に乗ってやるからな!!」


 ハイ、って言いつつ、後ろめたくなって心の中で謝った。いくら腹黒い私にも、流石に良心は存在する。

 本気で心配してくれているエルさんに、全てにおいて嘘をついてるのが心苦しかった。


 そんなこんなで一段落ついて。


「ネイは黄身の卵が欲しいんだな?」


 論点は元に戻った。


 説明されたことによると、鳥の種類によって卵の中身の色が違うらしい。


 黄身のものは原種に近くてあまり好まれないらしい。黄身が緑とかピンクとか黒とか、ましてや青とかより個人的には断然黄色がいいと思うけどね!


 ま、それは個人の自由だから一端置いといて。


『まずはこれを茹でます。』


 それから、それから。やっぱりやることがあるのは嬉しくて。向こうに居た時よりも手早く料理を始めた。


 卵の黄身と酢と油を使ってマヨを作る。


 これはやっぱりサンドイッチには必需品だよね~。


 そう思って掻き混ぜていると、初めてこれを見た時のクーンさんたちと同じように、エルさんは不思議そうな顔をしていた。


『ちょっと舐めてみます?』


 それに頷いて小指にちょっとだけ付けて舐めた。すると、みるみる表情が変わる。


「う、うまい!こんなに美味いもの、今まで味わったことがない!


 ネイ、どうやって作ったのか、もう一度説明しながらやってくれないか?」


 その興奮とキラキラした目に圧倒されつつ、ちょっと面白かったから、企業秘密ってことにしといた。


 今は時間がないし、また次回に乞うご期待!早くクーンさんに食べてほしいから。


 それからの作業はもっと早く進んだ。エルさんが手伝ってくれたしね。


 ベーコンをカリカリに焼いて、ハムとチーズをスライスしてくれてる間に、私はパンにバターとニンニクを混ぜたものを塗って、フライパンで焼いた。


 卵は潰してマヨネーズを加える。キャベツの千切りにもマヨネーズ。


 本当はマスタードも入れて和えたかったんだけど、その、色が、ね。まさかの青だったからやめた。


 青って!食べるものに青って!!食べる気失せないの?!


 …とにかく、見事過ぎるお色でした。


 ここまで用意したらサンドするのみ。私は三種類を考えてる。BLTサンド、たまごサンド、もう一つはハムチーズサンドのキャベツ入りだ。


 あんまりにも熱い視線を送ってくるエルさんに、一種類ずつおすそ分けした。


 さすが料理人。初めて見る食べ物に興味津々だ。手伝ってくれたお礼くらいにはなるよね。


 そして、毒味係でもある。


 酷いとか言う言葉は受け付けません。興味がありそうだし、私が作ったんだから毒の心配もない。


 ま、食材が初なもの(見た目)だったってことで。


 じーっとエルさんが咀嚼する音に耳を傾けて、感想を待った。


「う、うまい!今まで味わったことのない味だ!ネイ、料理の才能があるんじゃないか?」


 ありがとうと言い、後片付けを簡単に済ますと、新しくお茶の用意をしてクーンさんの仕事部屋へと向かう。


 その間もクーンさんの仕事時間の短縮方法を考えた。


 でも、そんなに調理場から遠くなくて。そこにはすぐに着いてしまった。


 朝とは違って人通りはない。ゆっくりと息を吸いこんでから、ノックして部屋に入った。


「ネイさん!元気にしていますか?」


 開けた瞬間に満面の笑みが迎えてくれた。


『レークさん!』


 なんでここにいるの?てゆーか、さっきのことを思い出すと、逃げてきましたね?懲りない人だなぁ。


 なんてちょっと呆れちゃう。どうせまた引っ張り戻されるか、怒られるかのどっちかだと思うんだけど。


「実は頼みたいことがあるんです。」


 さっきの笑みは未だ絶やしていない。ずっと思ってたんだけど、レークさんとクーンさんってホント対照的だよね。


 って、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて。お願い、だっけ?


 あんまり好ましくなさそうだけど、レークさんのお願いとあっちゃあねぇ。聞くしかないでしょ。


 同時進行でお茶を淹れることに許可をもらって、手を動かしながら耳を傾けた。


「私が神の声を聞くには、一度ネイさんに鏡盆に触れていただく必要があります。そうしないと、私は存在を感じられないのです。


 式典の準備が進むにつれ、誤魔化すことが難しくなってきました。このままでは事実が発覚し、<最後の乙女>の存在が疑われてしまうでしょう。」


 そんな事態になっていたのね。無意識に難しい顔になってしまう。


 その人物を二人の男性が眺めていることは、当の本人も気づいていない。


『…それは、私の存在を隠すために必要なんですね?』


 嫌だ、そう思う。


 私はこの国の人の心を助ける存在かもしれないのに。でも、やっぱり私には何の力もないと思うから。


 だから、その人たちの象徴として崇められるなんて、絶対に嫌だ。


 無責任な事、したくないし言いたくない。それを回避するためなら、協力は惜しまない。


 心の中でそう決心し、レークさんたちに向き合った。


『…わかりました。ご協力させて頂きます。』


 身体を綺麗に曲げて頭を下げる。これは女中としての礼じゃない。私自身の決心。


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